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Season企画小説
freakin' birthday (2023阿部誕・社会人・フレアバーテンダー)
※※この話は2013巣山誕「パフォーマー」、三橋誕「バースデー・カクテル」、七夕「カクテルに願いを」、叶誕「フローズン」、畠誕「傍観者の独り言」、日本酒の日「秋色カクテル」、クリスマス「Holy Hot Night」、2014ハロウィン「カクテルモンスター」、2015バレンタイン「My Sweet」、155万打キリリク「ルーキーズフレア」、「お祝いカクテル」、「カクテルフレンズ」 の続編になります。



 日付が変わると同時に、店内にかかってたBGMが、ふっと変わった。
 Yeah-e-Yeah、Yeah-e-Yeah、と低めの女の声がフロアに響き、洋楽のパーティソングが流れる。洋楽、っつーか音楽そのものをあんま聴かねぇせいで知らなかったけど、そこそこ有名な曲らしい。
 抑え気味の照明、ゆらりと揺れるキャンドルライト。
 ムーディなバーの、いつものカウンター席に座るオレの元に、パチパチと火花を上げる小さなケーキが運ばれて来る。
 カウンター越しにひょいっと渡せばすむのに、わざわざぐるっと回って来るのは、演出の宣伝のためなんだろうか?
 ビミョーに気恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい。

「お誕生日、おめでとうございます!」

 畠がよく通る声で音頭を上げ、他のスタッフがそれに声を合わせた。
 目の前のカウンターでは最愛の恋人がにこにこしながら見守ってて、いい誕生日だなって、幸せを感じる。
 行儀のいい「Happy birthday to you」じゃなくて、スラング交じりの洋楽でってとこがまた、非日常感あって悪くなかった。

「おー、サンキュー」
 目の前の恋人をじっと見つめ、演出の礼を言う。
 ケーキを運んで来たのは畠だけど、スタッフってカテゴリなら誰に言ったって一緒だし。どうせ礼を言うんなら可愛い方に向けてでいいだろう。
 三橋の手書きらしい、「おめでとう」のハート付きのチョコプレートに頬が緩む。
 どうせなら「大好き」でもいいのに。
 ケーキが小せぇから、パチパチとはじける火花は2本。1本でもいいくらいの大きさだけど、それだとちょっと寂しいからって、2本にしてくれたって聞いた。

「花火、いい、ねー」
「そーだな」
 テーブル上で小さな花火をまったりと眺める、最高の週末だと思う。
 しかも誕生日、しかも月曜、その上有給取得済みときたら、こりゃ飲むしかねぇ。ヤベェ。
 店内に流れる歌詞も、同じことを歌ってた。
 Cheers to the freakin' weekend、ヤベェ週末に乾杯、って。
 
 花火が消えるのを待って、目の前の小さなバースデーケーキにフォークを入れる。
 ドライキュラソーっつったか、甘くねぇ洋酒をたっぷりしみ込ませたケーキは、一口食べるとじゅわっとオレンジの風味が広がって、酔いそうなくらい美味い。
 ああ、これ、三橋の好きな店のケーキだなぁと思う。
 一緒に暮らし始めてまだ1年も経ってねぇけど、三橋の好きなケーキ屋とか、三橋の好きな定食屋とか、バーで出るつまみの仕入れ先とか、そういうことには詳しくなった。
 あと、フレアの道具類についてもちょっと詳しくなったかも。
 例えば、今三橋がくるんくるんと手の上で弄んでる銀カップの名前がティンだとか。大小のこのティンを重ねてシェイカーにしたのを、ボストンシェイカーって呼ぶんだとか。

 瓶の注ぎ口にセットして、カウントで量を加減できる部品はポアラだっけ。
 一緒に住んでると「やってみ、る?」なんて可愛く誘われることもあるけど、三橋らみたいにクールに注ぐことは案外オレには難しかった。
 やっぱ、フレアは上手いヤツのプレイを目の前で堪能する方がイイ。今みたいに。
 タンブラーに直接注がれるカシスリキュール、「ちょっと少、なめにしよう、ね」って注がれるシロップ。カットされたライムとミントの葉。
 カシスリキュールがぽいっと放られて目の前から消え、その代わり見せつけるように、くるくると極細のマッシャーが横8の字に回される。
「何作ってくれんの?」
 チョコプレートを指でつまんで齧りながら訊くと、「内緒だ、よっ」って可愛く言われた。

 ミントの葉をタンブラーで潰してる時点で、モヒートの仲間ってのはまあ分かる。
 念入りに潰されてくライムとミント。キレイな紅色の酒。やがてマッシャーが抜かれ、次にクラッシュドアイスがタンブラーにぎっしり詰められる。
 そこに注がれるソーダ水。かすかな音を立ててマドラーで混ぜられたカクテルが、「どう、ぞ」ってオレの前に静かに置かれる。
「カシスモヒート、です。阿部君、の、誕生日カクテルだ、よっ」
「へえ」
 誕生日カクテル、そういや前にそういう話を聞いた事あったっけ、と思い出す。1年365日、日替わりで色んなカクテルを、って考えると、ちょっと途方もねぇ話だ。
 今まで何度もこの店で誕生日を過ごしてきたけど、この酒を見たのは初めてだった。
 まあな、普段はシェイカー振ってる姿が見たくて、そういうのばっか注文してるよな。自然とショート系が多くなって、強い酒ばっか詳しくなる。

 なんで今年にコレなのかっつったら、先日巣山の顔を見て、ミドリスプライスを思い出したから、らしい。
 オレらの出会いの元になった、あの甘ったるいカクテル。あれは三橋の誕生日カクテルだったらしくて、「ああ……」って思った。
「運命だな、オレら」
 思わず呟くと、「そっ」って三橋がこくこくうなずく。出会うべくして出会った感じ。
「何言ってんだそこのバカップル」
 叶がぼそっと何か言ってたけど、スルーだ。
「そ、それでね、5月17日、には、もう1つ誕生日カクテルがあっ、て」
 えへへ、って笑いながら教えてくれる三橋が可愛い。
 照れ隠しに銀カップをくるくる手遊びしてんのも可愛い。
 そのもう1つの誕生日カクテルが、モヒートなんだって。ぽーんと銀カップを放り投げながら教えてくれる様子も可愛かった。顔赤くなってんじゃん。ヤベェ。可愛い。freakin' sweety。

「今日は飲むぜ」
 紅のタンブラーを掲げ、とんでもねぇ誕生日に乾杯する。
 日付変わって今日、12月11日は月曜日。普段なら「帰る時間でしょー」ってジプシーを渡されるとこだけど、頑張って有給もぎ取ったから、当然休みだ。
 フロアに流れる曲はとうに変わっちまってたけど、オレの脳内にはさっきのパーティソングが天啓のように流れてた。
 
 Cheers to the freakin' sweety
 I drink to that,yeah yeah

 べろりと舌を出し、意味深にタンブラーグラスのふちを舐める。飲んじまうぜ、イェイ、イェイ。
 ここんとこ休日出勤が続いて、ストレスも性欲も溜まってた。
 ちなみに昨日の土曜も休日出勤だった訳だが、三橋と休みの重なる月曜、この月曜に有給が取れたんだから満足だ。
 会社から持たされてる専用のケータイはデスクの引き出しに「置き忘れ」、プレイべート用のケータイは、もう既に電源を落としてる。
 誕生日を全力で楽しむべく、まずは恋人との運命の酒、紅色のモヒートをぐっとあおった。甘かった。

   (終)

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