Season企画小説
傍観者の独り言 (2013畠誕・畠視点・フレアバーパロ)
この話は、2013巣山誕「パフォーマー」、2013三橋誕「バースデーカクテル」2013七夕「カクテルに願いを」、2013叶誕「フローズン」の続編になります。
それはいつもの金曜の夕方だった。
「畠ぇ、誕生日だな。オレと廉とでスペシャルなバースデーカクテル作ってやるよ」
勤務するフレアバーの控室で、バーテンダーの叶にけけけっと笑われて、初めて今日が誕生日だって気付いた。
カレンダーを見て、「あー……」と唸る。
金曜だ。
ちなみに、先月の叶の誕生日も金曜、そして5月の「廉」ことバーテンダーの三橋の誕生日も、金曜。
……これは呪いか?
と、そんなバカなことを考えてしまうのは、ここんとこ毎週のように金曜に来る客の男のせいだろう。
阿部とか言ったっけ? 短い黒い髪で、ダークスーツを隙なく着こなした、エリート候補って印象の新人リーマン。
ちなみにコイツ、うちのバーテンダーの三橋廉と付き合ってるらしい。男同士で、だ。
今日も来るんだろーな。
はあ、とため息をついてフロアに出る。
フロアでは当の三橋が、率先してモップ掛けを始めてた。金曜だけ、ヤケに丁寧なのは気のせいか?
……いや、気のせいじゃねーな。
むっふっふーん、と音程の怪しい鼻歌が聞こえてきて、もっかいはあ、とため息をつく。
このローテンションは、アイツらのイチャイチャ入浴現場を目撃して以来のことだった。
そもそも話は、叶の誕生日にまでさかのぼる。七夕の翌週の3連休イブだ。
世間一般には3連休でも、オレらにはあんま関係ねぇ。月曜固定休だかんな。けど、アイツらにとっては多分、特別な日になるんだろうと思う。
土日が休みのリーマンと、月曜が休みのバーテンダー。
休みが重なんのは、そんな風に月曜が祝日の時だけで、だから三橋も楽しみにしてそうだった。
ちなみに、阿部に嫉妬して無自覚に機嫌の悪かった叶も、三橋にオリジナルカクテル作って貰ってからはご機嫌だった。
「帰りに銭湯行こうぜ」
とか珍しく誘って来たくらいだし。
店の閉店は午前2時。そっから閉店作業を終えて、着替えて、店を出るのは大体2時半頃ってトコか。
オレらに限らず、店のスタッフは大体店からそう遠くねー場所に住んでるから、行動範囲も重なることが結構多い。
だから、近所のスーパー銭湯に三橋がいたっておかしくはねぇ。
おかしくはねぇけど……。
「なんだ、あれ?」
呆然と呟く叶に、オレは「他人のフリしろ」って言うしかなかった。
三橋は――できたての恋人の阿部の背中を、嬉しそうに洗ってやってた。
「修ちゃんと、いつも背中、流しっこ、やってたんだ、よっ」
その弾んだ声に対して、阿部は「へー……」と不機嫌そうに返事してる。
「じゃあ、これからはオレとだけだぞ? 頼まれても、他のヤツと風呂なんか入んなよな?」
って。まーな、そう言うよな。恋人としてはな。
隣の叶をちらっと見ると、また嫉妬の炎が再燃してるし。同じ男の幼馴染に対して、オレはそれもどうかと思う。言わねーけど。
深夜のスーパー銭湯。客はぽつぽつとしかいなくて。
その客も、ジェットバスやサウナなんかに行っちまうから、ホモがイチャイチャしてても文句言うヤツは1人もいねぇ。
「阿部君の背中は、広くて大きい、ね」
「お前の肌は白くてキレイだな」
そんな甘い会話が、ひと気のねぇ広い浴室を寒々とさせてた。
オレは途中で「もう無理」つって脱衣所の方に避難しちまったけど、叶はムキーッとなりつつも、最後まで見守ってたみてーだ。
余計にストレスだろっつの。
その2人はっつーと、風呂から上がった後、仲良く牛乳飲んでるし。
「お前、ちゃんと髪乾かせよな」
とか言って、阿部がドライヤーかけてやってるし。まったく幸せそうで、目の毒だった。
その後2人、三橋のアパートに一緒に帰ってったけど、どうなったんかな?
足の踏み場もねぇくらい散らかってる汚部屋なハズだけど。一応は片付けたんだろうか?
つーか、三橋んち、布団2組あんのかな? お客様布団をレンタルするとか、そんな知恵もなさそうだよな。
まあ興味ねーし、どうでもいーけど。
ただ翌日の昼前に、阿部だけがふらっと近所のコンビニに来てて。あくびしながら2人分の弁当買ってたから、あれ……とは思った。
でも、夜には元気だったし。
引き続き土曜も阿部は店に来てて、カウンターに居座ってずーっと三橋を見つめてたから、別にケンカしたとかそういう訳じゃなかったんだろう。
「よお、初めてのデートはどうだったんだよ?」
わざとドカンとぶつかりながら訊いてやると、三橋は「うえ、うおっ」と奇声上げて座り込んでた。
「なんだよ、んな強く押してねーだろ?」
取り敢えず、手ぇ貸して立たせてやっといたけど。ホント、トロいよな。
で、土曜も、そして日曜も同じように、銭湯で鉢合わせで。
叶がいなかったからハラハラはしなくてすんだけど、なんか余計にオレの方が、銭湯で肩身が狭かった。
以来、コイツらの顔を見ると、あん時のイチャイチャ寒々銭湯が脳裏によみがえって、テンション下がるようになっちまったんだけど……。
……今日も泊まんのかな?
別に3連休じゃねーけど。でも、3連休じゃなきゃ泊まっちゃいけねーって訳でもねーしな。
「いらっしゃいませ」
いつもの定位置に案内し、コースターを1枚置きながら、三橋の恋人をちらっと見る。
お泊りグッズでも入ってんのか、いつものビジネスバッグがいつもよりちょっと膨らんでて怪しい。
まあ、ホモのお泊りなんかどうでもいーけど。
「いらっしゃいま、せ。何にします、か?」
ホモの片割れが、銀のティンを指先で放りながら、恋人に笑いかける。
「たまには、なんか癖のありそうなのがいいな。辛めで、でもなんか甘くて、そのくせあんま透明じゃねーみてーな」
片割れのホモのそんな注文に、その恋人のバーテンダーは「は、い」とうなずきながら、緩んだ笑みを浮かべて、なんでかオレの顔を見た。
そしてピーチリキュールを放り、ブルーキュラソーを放り、鮮やかに操りながら何かのカクテルを作り始めた。
カウンターばっかり向いてる訳にもいかねーから、その先は接客してて見てねーけど――。
「注文入ります、ファジーネーブル、サイドカー」
そう言いながらカウンターに寄った時、阿部の手元の草色の酒に、リンゴの蝶が飾られてたから、何を作ったかはすぐに分かった。
ベルエール。
それはオレの誕生酒で。青い酒と琥珀の酒をシェイクして作られる独特の色味は、確かに癖のある緑だった。
(終)
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