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Season企画小説
Holy Hot Night・1 (2013クリスマス・フレアバーテンダー)
※この話は2013巣山誕「パフォーマー」、三橋誕「バースデー・カクテル」、七夕「カクテルに願いを」、叶誕「フローズン」、畠誕「傍観者の独り言」、日本酒の日「秋色カクテル」の続編になります。




 年末が忙しいのは、どこの業界でも一緒だろうか。
 書類仕事がドカッと増えて、提出期限も間近に迫り、やり終えねぇと帰れねぇ。
 オレは恋人が夜の仕事だし、帰んのが終電間際になったって別に構わねーから、要領の悪ぃ同僚の分まで、どんどん引き受けて残業した。
「阿部君、悪いねぇ」
「阿部、頑張るなぁ」
 上司や先輩に誉められ、達成感も満足感もある。
 恋人の店に寄るのがいつもより遅くはなったけど、その分たっぷり愛し合えりゃそれでいーし。不満はなかった。

 誕生日は平日だったけど、残業終わりに店によって、さらにその後恋人んちに転がり込んで、癒して貰った。
「阿部君、お疲れ?」
 そう言って、ベッドで頭撫でてくれたりとか。マジ可愛い。
 恋人の三橋は、フレアバーテンダーとしてフレアバーで働いてる。バーテンダーの衣装を着て、フレアしてる時はスゲー格好いい。
 けど、全裸でオレの腕ん中にいる時は、スゲー色っぽいし可愛い。

「あー、疲れた。疲れたからもっかいな」
 組み敷いて脚を開かせても、嫌がらずに素直に応えてくれる。
「余計、疲れる、よっ」
 って。揺らされながら気持ちよさそーな顔で言われたって、説得力ねーし。お前も悦んでんだろって感じだ。
 それに実際、仕事で疲れんのとセックスで疲れんのとじゃ、疲れの種類がだいぶ違う。恋人んちに泊まって眠くなるまで抱き合って、そしたら翌朝はスッキリだ。

 着替えや身支度も心配ねぇ。
 月曜固定給の三橋に合わせ、週末をコイツんちで過ごして月曜にそのまま出勤することも、前々から多かった。
 だから三橋んちには、オレのスーツやYシャツ、ネクタイなんかが1揃えずつ置いてある。
 朝メシは食ってくこともあるし、ちょっと早出してモーニング食うこともあるし、色々だ。
 三橋は立ち仕事な上、夜通し喘ぎまくってぐったりで可哀想だし。眠ってんのを起こさねーよう、「行って来るな」って軽くキスして、そっと出る。
 社会人1年目の年末は、予想以上に忙しかったけど、こんな調子なら軽く乗り越えられそうだった。

 残業はいくら頼まれてもそんな訳で平気だったけど、急な出張は勘弁して欲しかった。
「阿部君、忙しいトコ悪いんだけど」
 って。気軽に言ってくれるよな。
 熱心に残業しまくんのも考えモンだって、初めて学んだ。仕事熱心なヤツだから、気軽に引き受けるだろうって印象を与えちまったみてーだ。
 それでも、平日ならまだマシだったんだが――。
「えっ、今週末、ですか……」
 クリスマス前の3連休、金曜から月曜にかけての地方行きを打診されて、思わず一瞬迷っちまった。

「ああ、その代わり24日と25日は代休とっていいから」
 って。
 そう言われても、三橋はその日仕事だし、しかも稼ぎ時だろうし、オレだけ休み貰っても意味がねぇ。
 三橋は月曜固定給だし。それに23日の祝日は月曜だけど休みじゃなくて、野外イベントに出るって聞いてた。
 郊外のショッピングモールのクリスマスイベントで、ミニコンサートや出し物なんかと一緒に、フレアショーもするんだそうだ。
 終わった後は、クリスマス限定カクテルをブースで出したりするんだそうで、三橋はスゲー楽しみにしてた。
 勿論、オレも客として一緒に行くつもりだった。楽しみにしてたけど。
 迷ったのは一瞬。

「分かりました、喜んで行かせて頂きます」
 オレは上司に、いい笑顔でそう言った。

 勿論、その夜はそのまま三橋の働くバーに寄った。
 いつも毎週金曜にって決めてたのに、ここんとこ不定期に通いまくってる。
 いい加減顔見知りになってっから、金曜ならスタッフが席を開けててくれるけど、他の曜日はそうもいかねぇ。
 カウンターが空いてねぇ日もあったりして、そういう時は仕方なく、テーブル席に座って順番待ちだ。
 今日もそうだった。
 フレアショーをガッツリ見てぇならやっぱカウンター席だし、そういう客が多い日は、なかなか空かねぇよな。
 まあ、商売繁盛なのは結構なことだから、空席は少ねー方がいーんだけど。

「いらっしゃいませ」
 馴染みの大柄なスタッフが、「また来たのか」と言わんばかりの顔して、オレをテーブル席に案内した。
「カウンター空いたら……」
 移動させて、というセリフに重なるように、「かしこまりました」って慇懃に頭を下げられる。
 メニュー見せられたって、いつもお任せだから、カクテルの名前なんか分かんねぇ。
「エビとレタスのチャーハンと、それから何か、『急な出張命じられてガックリなオレ』に1杯」
 メニューを閉じながら注文すると、畠って名のスタッフは床にヒザを突き、ハンディターミナルを操作しながら、「帰って寝ろや」とぼそっと言った。

 毎回思うけど、ホント、常連客に対する態度じゃねーよな。
 でもまあ、仲間の恋人は仲間だ、って思われてる気がしてちょっと嬉しい。
 カウンターを見ると三橋と目が合って、ちらっと片手挙げて合図してくれた。
 仕事中だし、ワーキングフレアの途中だから、じっとオレの顔見てるって訳にもいかねーけど。でも、そんだけで肩の力が抜ける。
「はー……」
 オレは注文の品が届くまでの間、テーブルに肘突いて働く恋人の姿を眺めた。

 やがて、チャーハンと共に湯気の立ったゴブレットがコトンと置かれた。
「お待たせいたしました、チャーハンとプンシュでございます。ごゆっくりどうぞ」
「プンシュ……?」
 ゴブレットの中身か? 酒の名前?
 こんな時、三橋ならカウンターの中から可愛く笑いながら教えてくれるのに。
 けど、畠に微笑まれてもキモチワリーだけだし、中身の解説は後の楽しみに取っておく。
 ゴブレットを持ち上げると、湯気に混じってリンゴとシナモンの香りがした。一口飲むと、スゲー甘い。けど、なんかホッとする味だ。

「うまい」

 思わず言うと、「おー、伝えとくよ」ってぼそりと言われた。
「それ、月曜のイベントでもメニューに入れるんだ」
「へぇ」
 月曜の……コイツも参加するんだよなぁ。そう思うと、仕方ねーのに腹の奥がモヤモヤする。
 三橋が楽しみにしてたんだから、コイツも楽しみにしてるんだろう。三橋の相棒の、あの叶っていう名のバーテンダーも。
 なのにオレは、丁度その頃上司のお供で――。
「はー……」
 ため息が出る。

 出張OKしちまったこと、一瞬、ちょっとだけ後悔した。

(続く)

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