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Season企画小説
カクテルモンスター・前編 (2014ハロウィン・フレアバーパロ)
※この話は2013巣山誕「パフォーマー」、三橋誕「バースデー・カクテル」、七夕「カクテルに願いを」、叶誕「フローズン」、畠誕「傍観者の独り言」、日本酒の日「秋色カクテル」、クリスマス「Holy Hot Night」の続編になります。



 いくらハロウィンだからって、まさか明け方からおばけを見るとは思わなかった。
「見て見て、おばけだよ!」
 って。白いシーツ被って、うひっと笑ってる恋人を見て、どうしてやろうかと一瞬思った。
 テンション高ぇのは寝てねーからか?
 ほんの10分前まで、そのシーツの上でくったり蕩けちまってたくせに。
 ついでに言うと、もう更に10分前まで、オレの下であんあん啼いてたくせに。シャワー浴びて戻って来たらコレ、って、元気良すぎんだろ。
 適当に被っただけらしいシーツから、裸の足や腰が見えてて目の毒でしかねぇ。

「てめぇ、どんな誘い方だ!」
 バスタオル放り出して飛びかかり、シーツごとベッドの上に押し倒すと、おばけは「うひっ」と色気のねぇ悲鳴を上げた。
 白い綿生地越しに、顔の造作が何となく分かる。
 デカい目、低い鼻、丸みのある頬、そしてデカい口。
 シーツ越しにちゅっとキスして、それからねっとりソコを舐めてやると、水分で透けた生地越しに、薄い唇が浮かび上がった。
「おばけ捕獲」
 くくっと笑いながら布の上から顔を撫でる。
 じたじた暴れるおばけに馬乗りになって、もっかいキスしようと顔を寄せると――。

 ピピピピ、ピピピピ……!

 無粋な目覚まし時計のアラームが鳴り響いて、モーニングタイムの終了を告げた。午前7時15分。
 タイムアップだ。支度しねーと、会社に遅れる。
 はぁ、とため息をついてベッドから降り、オレはYシャツに袖を通した。
 フレアバーテンダーの恋人が、フレアの練習すんのに使うデカい姿見の前で、ネクタイを締め、スーツを着込む。
 シーツから顔を出し、おばけから人間に戻った三橋が、「格好いい、な」ってオレのスーツ姿を誉めた。
 実は昨日のと同じスーツだけど、どうせ黒だし。ネクタイさえ替えりゃ、外泊だなんてバレねぇだろう。
「お前も格好いーよ」
 満更でもなく誉め返し、鏡越しに笑ってやると、三橋が素直ににへっと笑った。

 シーツおばけは可愛いだけだし、その下が全裸なのもご愛嬌だ。けど、近所のフレアバーで生き生きと仕事してる三橋は、文句なく格好いい。
 店は夜中の2時までやってて、家に帰るのは3時前。一方のオレは、朝7時半に出勤だ。
 リーマンとバーテンダーとじゃ生活リズムが違うけど、そんでもこうしてオレが泊まれば、眠くてもシーツ1枚でも、玄関まで見送ってくれる。

「今日は店、行くから」
 靴を履きながらそう言うと、三橋が「うんっ」とうなずいた。
 いい加減眠いんだろう、デカい口を開けてデカいあくびをしてんのも、可愛くて仕方ねぇ。
 まあ、仕事帰りなのに、早朝から無茶させちまったしな。
「寝ろ。行って来る」
 くしゃっと髪を撫でてやると、三橋はまた「んっ」とうなずいて、ふにゃっと笑った。


 仕事を終えて店に行くと、店内はだいぶ混み始めてた。
「いらっしゃいませー」
 フロア係の畠がデカい声で言って、オレをいつもの指定席にさっさと案内してくれる。
 いつもフロアの照明は抑え気味だけど、今日はひと際薄暗い。代わりに、ところどころにカボチャのランタンが飾られてて、オレンジにぼんやり光ってた。
 カウンターの上に、さり気に置かれたコースターも、今日はオレンジのカボチャ柄だ。
「いらっしゃい、ませ」
 イスに座ると、カウンターの中から恋人が嬉しそうに笑ってくれた。

「おー。あれから眠れたか?」
 オレの言葉に「ぐっすり寝た、よ」って答えながら、オレンジ色のリキュールビンをぽいっと上に放り投げる。
 くるくる空中で回転しながら落ちてきたビンを、片手でキャッチ。そのままジャーッと銀のカップに目分量で入れた後、今度は2本目のビンを、後ろから前に放り投げる。
 こうして、フレアの技を見せながらカクテルを作るのを、ワーキングフレアっていうらしい。
 フレアショーは専用の時間を取ってやるけど、それ以外にもこうして普段から、ビンを投げたりカップを投げたり、回転させて、弾いて受けて……見事なプレイを見せてくれる。
 生き生きとフレアしてる様子はホント、可愛くて眩しくて格好いい。
 しかもそんなパフォーマンスしつつ、美味い酒を作ってくれるから不思議だ。

「オレンジモンスター、です」
 三橋がそう言って、オレの目の前にコトンとオレンジ色のカクテルを置いた。
 ころんと丸い形のタンブラーには、カボチャお化けを意識してんのか、黒いシールでカボチャの顔が描かれてる。
「ハロウィン限定?」
 グラスを手に取りながら尋ねると、恋人は「そっ」つってうなずいた。
「カボチャリキュール、使ってる、よ」

「カボチャリキュール?」
 そんなリキュールは初耳だった。
 どんなんだ、と思ったけど、どっちかっつーと柑橘の方が強くて、カボチャはほんのりでイヤミがなかった。飲みやすいのは、炭酸のせいもあんのかな?
「おっ、甘いけどうめーな」
 素直に言うと、うひっと嬉しそうに笑う。
 照れ隠しにか、ぽいぽいっと銀カップを手慰みに放り投げてんのもスゲー可愛い。

 ただ、残念ながらオレばっかが独占もできねーみてーだ。
 店内はゆっくり混み始めて、その分注文も増えてくる。
「注文入るぞー。ブラッディメアリー、カンパリソーダ、オレンジモンスター」
 畠が銀のトレイを持って、オレの横でデカい声を張り上げる。
「はいっ」
 三橋が元気よく手を上げ、氷をぽいっと上に放った。
 さっきまで手遊びしてた銀のカップで、次々にそれを受けたかと思うと、今度はいつの間にかリキュールのビンを、銀カップの上でスピンさせてた。

 大技を決める瞬間、ふっと真顔になるのが好きだ。
 つい夢中になり過ぎて、時々笑顔を忘れちまうのも可愛い。
 一緒にフレアショーをやる三橋の相棒の叶より、1個1個の動作がキレイで、技がキレてて格好いい。

「後で、カボチャのデザート食べ、る?」
 オレンジと白のリキュールビンを、2本1度に操りながら、三橋が可愛くオレに訊いた。
 三橋の勧めてくれるモンに、まず間違いはねーし。美味いに決まってっから。
 オレは「おー」と返事をしながら、オレンジ色の限定カクテルをぐっと一息に飲み干した。

(続く)

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