Season企画小説
フローズン・前編 (2013叶誕・叶視点・フレアバー)
この話は、2013巣山誕「パフォーマー」、2013三橋誕「バースデーカクテル」2013七夕「カクテルに願いを」の続編になります。
フローズンカクテルを作る時には、色々注意が必要だ。
材料とクラッシュドアイスを、業務用のバーブレンダーに入れて回すんだが、その加減が難しい。
凍らせたフルーツやスムージーを一緒に使う場合は、固形物も多いし、びしゃびしゃにはなりにくい。
けど、やっぱ混ぜんのが液体ばっかだと、ちょっとな。
フローズンにちょうどいい固さってのを見極める、勘っつーか……センスみてーのが必要かも知れねぇ。
まあ、つまりは練習あるのみって事だけど。
で、それをどうも苦手にしてんのが、廉だ。
オレと組んでタンデムフレアをやってる、幼馴染のバーテンダー。
フレアの難技を決めたり、目分量を覚えたり、カクテルレシピを覚えたりすんのはスゲー優秀なくせに。フレアに全く関係ねーと、途端にダメだ。
「しゅ、修ちゃん、フローズンダイキリ、お願いします」
とか。
「う、と、グリーン・アイズ、です、お願いし、ます」
とか。
気弱そうなフリして、バンバンこっちに回してくる。
悪気がねーのは分かってるし、自信がねーせいだってのも分かってる。けど、分かってても叫びたくなんだよな。
「オレはお前のパシリじゃねぇ!」
って。
「とにかく、練習しろ!」
7月に入る前にも、そうやって怒った。
そん時アイツは、フレアの技の練習中で。
腕の上を転がしたボトルを手の甲で一旦止め、腕を捻りながらそれを肩まで戻して後ろ手でキャッチ……このキャッチが思うように行かねーらしくて、ここんとこ毎日やってんのを見かけた。
何度やってもダメな技を、繰り返し繰り返し、できるまで繰り返す。その集中力と執着は、ホント天才的だと思う。
七夕限定ショーの練習もこなしながら、そんだけ打ち込めんのは確かにスゲー。
けど、限度があんだろう。
「も、もうちょっとやったら」
って。
全く、これならオレの考案した七夕限定カクテル「織姫」、フローズンにしてやるんだった――って、何度思ったか。
そしたら、イヤでも練習になったのにな。
七夕が終わるとほぼ同時に梅雨明けして、一気に気温も上がった。
うちは一応、年中フローズンもメニューに入ってるけど、この頃から目立って注文が増え始めた。
特にやっぱ、女性客が多い。口当たりもいいし、可愛いし、あんまアルコールっぽくねーからだろう。
「テキーラ・サンセット」
「フローズン・ストロベリー・マルガリータ、2つ」
フロアスタッフの畠も、遠慮なくバンバンと注文を取ってくる。
フルーツを使ったオリジナルフローズンも人気が高い。
「キウイとパイナップルのフローズン、ラムベース、甘めで」
とか。
こういうのは廉もあんま嫌がんねぇ。食い意地張ってるだけあって、味見しながら美味いの作る。
けど、ずっとミキサーに集中しとかなきゃいけなくて、フレアもやってる場合じゃねーから、それがご不満みてーだった。
開店前にだって、フレアじゃなくてフローズンの練習すればいーのに。
さっきも。
「廉、見てやるから来いよ!」
店の隅で技の練習してんの見かけて、声を張り上げて呼んだら、廉はちらっとオレを見て、でも手は止めねーで「うん」と言った。
「も、もうちょっとやったら」
「そればっかだろ、お前」
「でも、も、もうちょっと、で、コツが……」
って。そのセリフは昨日も聞いたっつの。
「廉……」
はあ、とため息をつく。
いや別に、今日がオレの誕生日で、そんでオレの誕生酒が「フローズン・ブルー・マルガリータ」だからって言う訳じゃねーんだけど。
去年みてーな、しゃびしゃびで味が均一じゃなくて、でも真心だけはこもってるカクテル……よりは、もうちょっとマシなもの飲ませて欲しいな、とか、こっそり希望してる訳じゃねーけど。
オレの誕生酒の為に練習して欲しいとか……そんな歯の浮くようなこと、考えてなんかいねーけどな。
つーか。オレの誕生日、覚えてるよな?
1回目のフレアの準備をしてると、横から廉の浮かれた声が聞こえた。
「い、いらっしゃいま、せー」
ちらっと見ると案の定、春から通い詰めのリーマンだ。
廉のフレアに惚れ込んで……って通い出したハズなのに、なんでかそっから恋愛感情にまで発展してるらしい。ホモか。
つーか、廉が満更でもなさそうなのが意外だ。
いや、別に寂しいとか気にくわねーとか、そんな風に思ってる訳じゃねーけど。
ワーキングフレア交えて注文をこなしつつ横目で見ると、そのたれ目のリーマンは、すっかり定位置を決め込んだカウンターの1席に座って、さっそく廉に絡んでる。
「スッキリ目で夏っぽいの、頼む」
それにまた嬉しそうにうなずいた廉は、浮かれた様子でテキーラをフリップし、銀のティンをフリップしてテキーラを注いで、次にブルーキュラソーを背中側からアラウンドでフリップして……。
軽くタップしながらパイントグラスをティンに被せ、ボストンシェイカーにした時点で、「ああ、アレだな」って、なんとなく予想はついていた。
「ブルー・マルガリータ、です」
うひっと笑いながら、廉は、たれ目リーマンに水色のカクテルを差し出した。
幼馴染の恋してる目つきを、間近で見せられてドキッとする。
あのな、それ、フローズンにしてみたらどうだ、廉?
オレの為に練習しろなんて、恥ずかしいセリフ言えねーし、いらねーけど。
……もしかして、そいつに美味いフローズン飲ませてぇって思い立てば、練習する気にもなるんじゃねーの?
(続く)
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