小説 3 ルーキーズフレア・1 (155万Hitキリリク・フレアババーパロ) ※この話は2013巣山誕「パフォーマー」、三橋誕「バースデー・カクテル」、七夕「カクテルに願いを」、叶誕「フローズン」、畠誕「傍観者の独り言」、日本酒の日「秋色カクテル」、クリスマス「 Holy Hot Night」、2014ハロウィン「カクテルモンスター」、2015バレンタイン「My Sweet」 の続編になります。 年度末辺りから残業が連日のように続き、休日出勤もあって、三橋に会えねぇ日が続いてた。 アイツがフレアバーテンダーとして勤める店にも、ほとんど行けてねぇ。恋人としての時間も当然とれなくて、アイツのアパートに行ったのも、久々だった。 月曜固定給の三橋とオレとじゃ、基本的に休みが合わねぇ。だから、ちょっと忙しくなっちまうと、たちまち会う回数も減る。 生活リズムも違うから、メールの返事もタイミングがずれがちだ。1日1回やり取りできりゃいい方で、電話なんて期待できねぇ。 それでも落ち着いてられたのは、店に行きゃいつでも会えるって思ってたからだった。 けど、1週間ぶりに立ち寄ったいつものバーに、恋人の姿はなくて――。 「あれ、アイツは?」 馴染みのフロア係に訊くと、「は?」って逆に驚かれた。 「名古屋だぜ。明日大会だって聞いてねーの?」 「は?」 「は?」 スキンヘッドのフロア係と不覚にも見つめ合い、2人同時に顔をしかめて目を逸らす。 「大会……!?」 オレの呆然とした呟きに「ああ」と答えたのは、三橋の相棒としてフレアバーテンダーをやってる叶だった。 「悪い、口止めされてた」 悪いとも思ってねぇような口調で、グラスをぽんと上に放りながら言われて、ムカッとする。 「口止め!? なんで?」 「そりゃお前、誰かさんの負担にならねーようにだろ。仕事、相当忙しくしてたらしーじゃん」 「そーだけど……」 確かに忙しくしてたのは事実だし、顔も見れてなかったし。オレの負担になんねぇようにって、それはいかにも三橋の考えそうなことだ。 大きなため息をついてると、目の前にことんと水が置かれた。 「あと、試合を見られたくねぇってのもあるかもな」 「はあ?」 聞きとがめて叶の方に目をやると、ひょいっと肩を竦められる。オレを思っての事なのか、それともオレに見られたくなかったのか、どっちがメインか判断つかなくてモヤッとする。 それなら、直接訊くしかねーだろう。 グラスの水を一気飲みし、ガタッと立ち上がると、「プレッシャーかけんなよ」って叶に声を掛けられた。 「当たり前だろ、むしろ応援するっつの」 ニヤッと笑って荷物を持つと、A4サイズのチラシをぴらっと見せられる。 受け取って見ると、どうやら大会のチラシだったみてーで、場所とスケジュールが書かれてた。 「ABMHホール、地下鉄か……」 名古屋の地下鉄には乗ったことねーけど、まあ行って見りゃなんとかなるだろう。 新人とプロとで開始時間が分かれてるみてーで、三橋が出るのは新人大会の方らしい。とすると、開始は10時。始発で十分間に合う時間で、ほんの少しホッとする。 「廉は土日休みだから」 「奇遇だな、オレもそうだ」 当たり前のことを堂々と告げると、「ほどほどにしろよ」って言われた。 何が「ほどほど」なのかワカンネーけど、悪い子にはお仕置きが必要だし、大きなお世話だ。 ふん、と鼻で笑って軽く手を挙げ、フロアを横切って店を出る。 ホントは座るだけでチャージ料が発生する仕組みの店だけど、そんなの今更だし、何ならあのハゲフロアにツケといてくれてもいい。 それより、名古屋に急ぐ方が先だった。 自分のアパートに帰ってやったことは、まずネットで明日の宿泊予約だ。 土曜チェックインっていうとさすがに混んでるみてーだけど、会場から2駅くらいの場所には無数にビジネスホテルがあって、幸いにもダブルの部屋を予約できた。 それから三橋を油断させるため、「明日、頑張れよ」ってメールを送る。 小さなカバンに1泊分の着替えを詰め込み、用意をしてると、間もなくケータイがぶぅんと震えた。 ――ごめん、ありがとう。阿部君は体、休めてね―― オレを気遣う文面にほんわかするが、「ごめん」って謝ってる時点でかなり怪しい。 水臭ぇっつーのもモヤッとするし、「来て欲しい」って言われねーのにもムカつく。何より、叶に口止めしてたっつーのが気に入らねぇ。 けど、それをズバッと告げて、明日の大会に支障が出んのは本意じゃねーし。ここは感情をぐっと押さえ、一言だけ返信した。 ――応援してる―― 三橋の直前のメールに返事した形にはなってるけど、応援すんのは事実だし。嘘なんかこれっぽっちも書いてなかった。 会場まで迷うって可能性も考えて、1時間くらい前には現地付近に着くようにしてぇ。 そう考えてネットで調べると、どうやら東京駅を新幹線で7時までに出りゃいいようだ。 荷物の準備を終え、財布の現金をチェックし、明日着る服を準備してから布団に入る。 6時にはここを出ねーと。そう思うといつになく早起きになるけど、三橋に会うためだし仕方ねぇ。 ……今頃三橋は、ひとりでホテルにいるんだろうか? 会場付近のホテルかな? 大会を直前に控え、眠れねぇ夜を過ごしてんじゃねーか? それともやる気満々で、ホテルの備品使って軽く練習でもしてんだろうか? グラスもリキュールのビンも銀カップも、優雅に操るいつものプレイを思い出す。 1日2回、店で行われるパフォーマンス。叶と組んでのペアフレアで、三橋はいつも直前まで緊張してるけど、音楽が始まると別人みてーに生き生きしてて――。 そんなフレア大好きなアイツが、本番で緊張なんてするようには思えなかった。 (続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |