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とりあえず、休みましょう会



「あうあうあう〜!梨花ー、助けてなのですー!」

私が、縁側に腰掛け足をぶらつかせていると……、あうあうがやってくる。今はあまり気分がよくないから、あうあうで十分だ。
「どうしたの?羽入」

あうあうは、手をわきゃわきゃ振り回し、あうあうと鳴き声を溢す。キムチキムチ…早く黙らせないと超音波で耳がやられちゃう。
「あうぅっ完結っ!完結の危機なのですよ。不毛なる梨花日記」

全く興味がなかったから、聞き流そうとして、ピクッと耳が跳ねる!!だって私の名前が混ざってたから!
不毛…なる……?梨花日記…?

「ちょっと、羽入…?なにその…不毛なる、なんちゃらって言うのは?」

「はうあうあうっ!?何でもないのです」

羽入はあからさまに狼狽え始める。
あーそうっ隠したかったらしいわね!でも無駄よ無駄、そこまで狼狽えたら、誰だってわかる!羽入が私の名前を使ってなにやら悪さをしてるって!
「み〜み〜」私は縁側に置いてあるキムチを何も言わずにとって……、にぱ〜☆とわらいかける。「み〜、羽入は、辛いのと辛いのどっちが好きですか?」
「はうあうあう?好きなのは……シュークリームなのです」「わかった!シュークリームね」「あうっ!」シシュパ、シュピピピーン「はい完成!羽入の大好きな!ワサビとマスタードとタバスコのかかった激辛仰天デンジャラスシュークリーム!!!!辛くてツンとして危険な味わいなのです」「はうあう!鬼、鬼畜っ味覚音痴〜!」「ぱくぱく〜☆」
「ひいぃいゃあぁあああぁぁ」




「あう……これなのです」
「ふーんこれが…あなたの書いた小説?」「はい!ノンフィクションなのですよ!」
私は羽入の持ってきた和紙を見る……そして、…………首をかしげる。だって題名から、何から何まで、あう、とか、あうぅ、とかしか書いてなかったから……題名『あうあうあうあう』文…『あうぅ…あうあう』
「なにこれ、あうあうしか書いてないじゃない」
私が縁側に紙を置くと、羽入はニコニコと頷く。
「そうなのです、だから、僕は悪くないのです」
この顔は、ワルイことしてるときのかお……、私は遠慮なく縁側のお皿からシュークリームをとる。「はうあうあう?」
最初は面食らっていた羽入だけど、私がデンジャラスシューを口に近づけるにつれ、あわてふためきはじめる。「はうあう…?梨花…!ダメダメダメー!」
シュークリームの皮を舐めると、食べてもないのに羽入の瞳に涙が溢れ、口を両手で押さえ始める……「ぅぅーっ!」
……私は三分ほど食べそうで食べないを繰り返し、羽入を無意味にわきゃわきゃさせたあと、もう一度聞くことにする。
「それで…?この、あうあうにはなにが書いてあるの?」
そう言いながらも、シュークリームをチラつかせることを忘れない。「……えっと、あう…」「み〜☆トッピングに一味唐辛子追加なのです」「は、話しますです」
…羽入はさんざん迷ったあげくに、眼に涙を浮かべ懺悔を始める。

「この紙に書いてあるのは、実は特に意味はないのです。あう、でもみ〜、でも何でもオッケーなのですよ」
意味ない…?よくわからなくて私はシュークリームを口元に運ぶ。
「み〜☆シュークリームが美味しそうなのです」「まま待って」「きっとウソつきの舌を焼き尽くす深い味わいなのです」
「ちゃんと意味あるのです。たたた例えば」
「みー?」「い、いいですか、梨花、実は僕たちの世界は、上からみたらカケラなのです!こう!こんなの!」
羽入はカケラを表したいのか、腕を一生懸命うごかし円をなぞる。
「知ってるわ、…それで?」「えっとカケラの世界は思念しかいけないのです……、だから、そこで何かを書くというか紡ぐなら…当然思念しかいけない。でも想像だけだと、形は作りづらい。だから僕はイメージを飛ばす時、あえて紙に書いて、イメージを固めてるのです」
…カケラに行けるのは思念だけ、まあ羽入の言いたいのはわかった。要するに、羽入はカケラ世界で何やら書きたくて、そのイメージを固めるため、こっちの世界でもあうあう落書きをしていた…ということだろう。
あうあう語は私にはたいしてわからないし、そんなのに興味はないから、サクサク本題に入る。問題は何を書いたかだ
「あんたがカケラ世界に書いたものを見る方法はないの?なかったから、死ぬほど辛いの食べるけど」

「い一応あるのです……、カケラだと中で人が動きますが、こっちだと紙にしたためるのですよ」
「見せなさい」「あ……う、ちょっと用意しますのです」



羽入はトテトテ家の中を走り回り、適当な時間が経って帰ってくる。
何十枚かの和紙を握ってたから、私はひったくって、書いてある文字に目を走らす……えっと…
『不毛なる梨花日記』

ふーん…この時点でとっても破り捨てたくなったけど、一応最後まで目を通す。

『繰り返される袋小路!梨花の笑える頑張りと、僕の閃きの物語…!ノンフィクションもの!』『第一話、とっても☆あうあう大作戦』
…へー、ふーん、ふーん、私ってこんな滑稽なんだー!カットの仕方が悪質!
一応私が最後まで目を通したからか、羽入がチラチラと不安そうに私の顔色を確認する
「どうでした。梨花…面白かったですか?今のところ六話までできてるのです」
「そうね、これが答えよ!」
ギュッ!私は和紙を破ろうと力を入れたけど、枚数が枚数だし和紙だから破れない!えっ!ちょっ、破れなさいよ!「あう……」羽入は破られると思ったのか、悲しそうに視線を伏せる…「そこまでダメなのです……?一生懸命書いたのです」
ちょっとだけ心が傷んだけど、でも、容赦はしない。私は何も言わずに和紙と格闘する
破れなさいっこのっこのっ!
あっそうだ、一枚ずつ切ればすぐに切れる!私が破るのをやめ膝の上に和紙を置くと、羽入が表情を明るくする!
「あうあう!もしかして、梨花も気にいってくれたのですか?!」
羽入は本当に嬉しそうに言った。へ?なんで?
「ちがうわ、ただ破れないだけ、見てわかるでしょ!?」「でも…紙を置いたのです」「今から切るの!ほらっ」私はあわてて、和紙を一枚とろうとしたけど、何だか気が動転して、全部とってしまう。
当然それじゃ切れなくて、あたふたと和紙をまた膝に載せる。その瞬間羽入が感極まったように笑顔を弾けさせる。
「あうあう、梨花が気にいってくれたのです!!褒めてくれたのですーっ!どのあたりが気にいりましたですか?」
からかわれてるみたいで、ますます頭に血が昇る……「あのね、だから」「やったのです!わーいなのです!」
……羽入からはそんな邪気は感じられなくて、…………拍子抜けして、怒りが引っ込む。
そういえばこれって、羽入の初めての書き物だっけ……。確かに題材に私を使ったのは嫌だけど、羽入にとっては大切な品…それを破ってしまうことは、なんとなくダメな気がした。
仕方なく……和紙を羽入に突っ返し別の方向に切り返す。

「でも、羽入、これ完結してないじゃない。未完成じゃなにも言えないから、評価はできない、今はかわいそうだから保留にしとく。とっとと完成させなさい」
「完結…?」
「当然よ、物語は完結させて初めて意味がでるんだから、まあ一話完結みたいだし、だらだら続けるのかもしれないけど」
羽入がピクッと体を震わせ、沈痛な表情でうつ向く……
「完結は…しないのです」
「え?どうして」
「それが…あう…もう書くことがないのです」
書くことがない…?その言葉に耳を疑う
「馬鹿言わないで、私の袋小路時代の話なら、いくらでもあるじゃない。百年も抜け出せなかったんだから」

「…あう、こういうと梨花は傷つくかもしれませんが、梨花の百年なんて書いても誰も興味がないのです」
興味ない…?ちょっと傷ついた。でもすぐに立ち直る。
「まあ、それもそうね…それで?」
「だから僕は皆が見れるような笑えるところを頑張って集めてたのですよ。…そしたら、使える部位がたったの六個でなくなったのです。最初からずっとお笑い風味で…コメディに全然ならないのです」

ピキッと怒りが再燃するのがわかる。
ただここで無理やり黙らせたら、私の百年が否定されてしまう!それも悔しい!百年の話が六個でネタ切れなんて…いくら笑いだからって

「だったら、笑いじゃなく、シリアスで行けばいいじゃない。私だって笑われたくないから、ちょうどいいわ」
羽入が悲痛な顔で首をふる
「じゃあ梨花は、見ず知らずの少女の笑えない失敗談を延々と見せられたいのですか? 友達に殺されたり、グロテスクな死に方したり、悲痛に泣きわめいたり…僕は見たくないのです」

「た、確かに…正論ね。私も思い出したくもないし……でも、それなら、部活とか、私の日常は?そういう場所なら百年で沢山」
「梨花は、自分をアイドルとでも思ってるのですか?田舎の小学生の日常なんて、そんなの誰も興味ないのです。梨花に求められてるのは、極論すればお色気か笑いなのです」
「お色気は絶対やめて、死んでもいや」
「大丈夫、梨花にお色気は無理なのです」
羽入は、笑顔で私の胸元をみる…ふーん私に色気がないと…、
怒りをなんとか押さえこむ、ここで売り言葉に買い言葉して、お色気路線に行かれたら冗談じゃない!あとでキムチは食べるけど、
……でもなんか悔しい。まるで私の百年には見るべきところがないって言われてるみたい……、羽入が沈痛な表情で続ける。
「それで……、このままだと適当な小話をして完結してしまうのです。梨花はどうしたらいいと思いますですか?」

「そうね、私の百年は六つの話で終わるほど安くないつもりよ」
「……ですが、笑いだと弱いのです梨花の百年はシリアスすぎるのです…僕なんて、あろうことか思い出し泣きしてしまったのです」

「でも、完結はもう少し待って、今度は私が思い出すから……、笑えることだって…せめて十個は見せたい…一つ十年でも、それでなんとか百年にはなる」

「あう……、わかりましたのです。ただ梨花が見つけるまでは、一旦お休みにしますのですよ」

「ええ、それでいいわ」




とりあえず、休みましょう会〜終わり〜







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