Season企画小説 ギャップ[・1 (2014クリスマス・学生×モデル) ※このお話は ギャップ、ギャップU、ギャップV、ギャップW、ギャップX、ギャップY、ギャップZ の続編になります。 恋人のレンに冬休みの予定を電話で訊かれたのは、11月下旬のことだった。 『もうバイト、決めちゃった?』 って。 「いや、まだだけど」 うちのコンビニのバイトシフトは、前の月の月末に決まる。 去年、めいっぱいバイトのシフトを詰め込んだせいで、クリスマスも初詣も一緒にできなかったから、今年はちょっとセーブしようと思ってた。 そう言うと、レンは『良かった』つって、今度は冬休みの日程を訊いて来た。 「大学? 23日から、1月7日まで休みだけど」 素直に答えつつ、壁に貼られたカレンダーを見る。 学生のオレより、プロのファッションモデルとして海外で仕事してるレンの方が、スケジュール管理は大変だろう。 「お前は?」 『お、オレは、29、30とパリで撮影、だ』 予想通りの忙しさに苦笑しつつ、「大変だな」とねぎらう。 1月も、3日からまた仕事だってのにはビックリしたけど、どうも海外では、日本ほど正月行事を大事にはしねーみてーだ。 早いトコでは、2日から仕事始めるんだって聞いて、またさらに驚いた。 「へぇ、じゃああんま会えねーな」 30日にパリなら、日本に帰れるのは良くて31日だろう。そんで3日から仕事なら、出国は1日か2日。 初詣くらいは行けんのかな? じゃあオレもそれに合わせて、31日から2日まではバイト入れねーようにしねーと……。 と、そう思った時。 『じゃ、じゃあ阿部君、24日から3日まで、バイトも予定も入れないで』 レンは一方的にそう言って、ぷつっと通話を切っちまった。 「はあ!?」 訊き返しても、もう遅い。 ――どういう意味だ?―― 追いかけるように送ったメールにも、返信はなかった。 24日から3日まで、って。そりゃ、バイト入れねーのは大丈夫だと思うけど、10日間もどうすんだ? まさか、あのマンションに籠もってセックス三昧? いや、それともどっか、旅行とか? ああ、けど、レン自身が仕事で身動き取れねーんだから、旅行って線は薄いよな。つーか、マンションに籠るって可能性も薄いよな。 自分は仕事で海外にいて、オレを拘束する理由って何なんだ? それが分かったのは、2週間後。オレの誕生日のことだった。 レンから珍しく写真付きじゃねェメールが送られて来て、「添付文書確認して」って書いてある。 何かと思ったら、飛行機の予約チケットだったんで、ビックリした。慌てて電話したら、『ミラノ、良かったら来て?』って。 誕生日プレゼントにしちゃ豪華すぎだろと思ったけど、でもよく考えりゃ、レンが日本に帰国するとしても、同じ料金かかんだよな? だったら……気にすることねーんだろうか? レンは今、1月から始まるパリとミラノのコレクションに出るべく、オーディション三昧の日々らしい。 その合間に雑誌の撮影があったり、取材があったりで、ホントいつもながら忙しそうだ。 その多忙なレンが、それでもオレに会いたいって呼んでくれてんだから、ここは素直に行くべきだろう。 「いーけど、オレ、パスポート持ってねーぞ」 そう言うと『う、えっ!?』って驚かれたけど、そう珍しいことじゃねーだろ、と思う。 つーか、そんな可能性にも頭が回んねーのが、レンらしくて笑えた。 パスポートの発行までには、申請から土日含めねーで6日かかるらしい。 ネットで調べて慌てて申請しに行ったら、ホントギリギリの日程で焦った。 12日が金曜だから、土日挟んで、受け取りが最短で19日の金曜日。それを逃したらまた土日挟んで、22日。23日が祝日だから、その次っつったらもう24日だ。 飛行機の予約はっつーと、24日の午前発。 幸い、無事19日に受け取れたから良かったけど、申請がちょっとでも遅れたらアウトだった。 まあ、そんな文句、わざわざ仕事中のレンに言う事でもねーけど、もうちょっと早く言えよな、とは思う。 まったく、何から何まで振り回されっぱなしなのは、当分続きそうだった。 バイト先には、当たり前だけど文句を言われた。 「うそー、阿部君、期待してたのにー」 って。 「さては恋人できたんでしょー?」 パートのオバサンの鋭い突っ込みに、「まあ……」って答えたらヒジ打ちされた。 相手が男で、しかもモデルのレンだなんてホントのコトは言えねーけど、恋人には違いねーし、冷やかされると照れる。 「お土産頼むよ」 って、店長にも言われた。 確かに、オレが一抜けするとバイトのシフトは厳しいもんな。 「食いモンでいーっスか?」 とは言いつつも、ミラノ土産ってどんなんか、全く思い浮かばねぇ。ちょっとは調べとこうかな? そう思うくらいには、楽しみだった。 レンからも、お土産を頼まれた。 『悪い、けど、抹茶味のチョコ、買って来てくれ』 って。 理由を訊くと、大家さんに賄賂として贈るらしい。 『2人部屋なんだ、けど、「恋人来るから」って、特別に泊まるの、許して貰った』 大家さん? 2人部屋? 賄賂? 状況がよくワカンネーけど、それより気になったのは、「恋人来るから」って発言だ。 「恋人って……」 男同士なのモロバレだろうに、いーのかよ、と思ったけど、レンの方は全く気にしてねーらしい。 『恋人、だろ?』 電話口で、うひっと笑われて、何つーか照れる。 けど、きっとそう言ったレンの方だって、電話の向こうで赤い顔して照れてんだろう。 24日の9時45分に羽田を出発して、1度ヒースローで乗り換え、17時55分にミラノ着。 16時間以上の移動なのに、見かけ上8時間後に到着なのは、時差が8時間あるせいだ。 着替えを用意しようとして、スーツケースも何も持ってねーことに気付いて焦ったけど、それはレンが、予備のを貸してくれるってコトになった。 『オレんちのベッドルームの、クローゼットの奥、に、古いのがある、から』 そんな風に、合い鍵使って勝手に取って来るように言われんのも、恋人だからだな、と思うと嬉しかった。 (続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |