Season企画小説 ギャップY・1 (2014三橋誕・大学生×モデル) ※このお話は ギャップ、ギャップU、ギャップV、ギャップW、ギャップX の続編になります。 バイトから帰るなり、TVを点けた。 真新しいHDレコーダーのリモコンを操作すると、たった1つしかねぇ録画データの再生が始まる。 派手なオープニング音楽を聴きながら、TVの正面にどかっと座って、TV画面をじっと見た。 色んな業界のイケメンを集め、業界の話や私生活の話を聞くっていう、2時間のトーク番組。普段なら絶対見ねぇタイプの番組だ。 まあ、そもそも女向けの構成だろうしな。 司会も男性アイドルグループだし、女子アナが1人出てるくらいで、後は全部男だし。今日に限って言えば、ひな壇に座るのも全部男だ。 そんな興味から正反対の番組を、なんで録画までして見るかっつーと、勿論好きなヤツが出るからだ。 モデルのレン。 プロのファッションモデルで、日本だけじゃなく海外でも活躍してて、色んな雑誌やCMに顔を出してる有名人。 ただ本人は、モデルとしてのプロ意識はスゲェんだけど、有名人だっていう自覚はあんまねーらしい。 「知ってる顔だけど名前が出て来ない」ってよく言われるって苦笑してた。 「それって有名人じゃない、よね」 ずっと前にそんなこと言ってたような気もするけど、世間に顔が知られてるってだけで、もう十分「有名」なんじゃねーかと思う。 それに、今日のこの番組次第では、名前も売れてくんじゃねーのかな? CMをさっくり飛ばしながら、白いレジ袋をガサガサ漁る。 バイト先のコンビニで買ってきたのは、発泡酒とサラミと浅漬けの盛り合わせ。 『今日は、春の特番ということで、イケメン特集でーす』 司会のアイドルのセリフと共に、歓声と拍手がわーっと上がった。カメラがパッと切り替わり、司会の後ろのひな壇を映す。 席順はどういう基準で決まったんだろう? レンは一番後ろの端から3番目の列で、強張った笑みを浮かべてた。 久々に見る「動くレン」に、ドキッと胸が高鳴る。 きめ細やかな白い肌、柔らかな薄茶色の髪。メンテナンスされた、極上の身体。今は自信なさそうに眉を下げて、大きなつり目が泳いでる。 あの薄い唇にキスして、シャツの下の肌に触れ、「抱きてぇ」って告げたのは、もう1ヶ月も前のことだ。 「覚悟できたら教えて」 そんな捨てゼリフと共に、呆然としてるレンを残し、あいつの部屋を出て行ってから、1ヶ月。 メールも電話も、レンからの連絡は皆無で――。 「レン……」 名前をいくら呟いても、画面のこっちと向こうでは、やっぱ世界が違ってて。 はあ、とため息をついたって、不安はちっとも晴れそうになかった。 大体、今日のこの放送だって、水谷に教えて貰ったんだ。 「阿部、モデルのレンと知り合いだったよね〜? 明日、特番出るらしいじゃん。収録の話とか、聞いたりすんの〜?」 大学で水谷にそう言われて、「明日!?」ってビビった。 放送時間を聞いたら、ばっちりバイトと重なってるし。慌てて近所の量販店行って、レコーダー探したのは言うまでもねぇ。 在庫があって、すぐに持ち帰れるもので……っつーと、種類はそんなに選べなかったけど、こればっかりは仕方ねーよな。 HDに録画するタイプを即断で選んで、即金で買って即行で設置した。 自分でもバカなことしてるよな、ってちょっと思う。 TV収録がどうとかって話は聞いてたものの、それは同じく1ヶ月前のことで。収録の裏話どころか、放送予定日さえ、レンから知らされていなかった。 レンはなんでこの事、教えてくんなかったんだろう? 恥ずかしかった? 見られたくなかった? それとも、もうオレに関心なくなった? 「なあ、オレら、恋人だよな?」 その問いに「うんっ」ってうわずった声で答えてくれたと思ったのは、もしかして都合のいい夢だったんかな? それともやっぱ、「セックスしてぇ」って迫っちまったのが悪かったか? この1ヶ月、鳴らねぇケータイをどこに行くにも持参して、不安な毎日を送ってる。 前に貰った合い鍵だけが、日々の心の支えだった。 『今日は雛壇の面々もねー、目の保養になると思います。いろんな業界で活躍する、業界を代表するような、イケメンの方々を、ゲストにお呼びしておりまーす』 司会のトークを聞きながら、封を開けた発泡酒をぐびっと飲む。 拍手の中、カメラが雛壇を舐めるように映し、レンの顔がちらっと見えた。 『ではゲストの紹介です。まずはゲーム業界から……』 司会者の合図で、ダークスーツを着た男が立ち上がる。紹介VTRが流れ、司会が解説を加えていく。 イケメンかどうかには興味ねーけど、色んな業界の紹介映像は、レン抜きでも面白かった。 『お次は、ファッションモデル業界から、レンさん』 そんな声にドキッとしたのは、10人くらいの紹介が終わった後だ。 あらかじめ順番は決まってたんだろうか? レンは慌てる様子もなく、スッと立ち上がって礼をして、笑った。 せっかくアップになってたのに、パッとVTRに切り替わって残念に思う。 けど、そう思ったのは一瞬。背筋を伸ばし、大股で細い通路を歩いてくるレンの姿に、目を奪われた。 これはミラノ? それともNYだろうか? 写真で見るより断然鮮やかで、格好良くて、そんでエロい。 映像なんか、ネットでいくら探しても見つけらんなかったのに。やっぱTV局の力ってのはスゲェんだな、と思い知る。 『また近々、春夏コレクションがあるそうですね』 『はい、6月中旬から、始まります、ね』 VTRの間に座ったらしい、レンが長い脚を自然に組んで、司会者の質問に笑顔で答えた。 相変わらず歯切れの悪い喋り方だけど、TV越しだとそう不自然にも聞こえねぇ。 それより、組んだ脚をそっと撫でる、無意識っぽい手の仕草がエロい。 『じゃあ、その頃はヨーロッパに?』 『1ヶ月前、から、オーディションが始まります、ので。そうなったら、現地で過ごし、ます』 画面の向こうでは、まだ司会者の質問が続いてたけど――オレの耳には入らなかった。 「えっ……」 緊張しながらリモコンを操作して、少し戻って再生する。 『はい、6月中旬から、始まります、ね』 レンの笑顔を呆然と見る。 『1ヶ月前、から、オーディションが始まります、ので……』 6月中旬の1ヶ月前つったら、当然5月の中旬で。 また長いコト会えなくなっちまうまで、後1ヶ月しかなさそうだった。 (続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |