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Season企画小説
ギャップX・1 (2014ホワイトディ・大学生×モデル・三橋視点)
※このお話は ギャップギャップUギャップVギャップW の続編になります。




 2月15日、土曜日。
 目が覚めたらリビングのソファベッドの上だったんで、ビックリした。
 そりゃ、1つ1つが小さめのシングルベッドくらいあるし、マットもついてるから寝られなくはないんだ、けど。
 でも、うたた寝することはあっても、朝まで寝込んじゃうことなんか今までなかったから不思議だ。
 起き上ると、何でか布団をかぶってたことに気が付いた。
 そうか、布団のせいで暖かくて、快適だったから起きなかったのか。そう思いついて、でも同時に、あれ? と思った。
 オレ、いつ布団なんか持って来たっけ? 記憶にない。
 っていうかそもそも、寝室のベッドからこんな、冬の掛布団なんてかさばる物、オレが持って来るとは思えない。

「うえ、何で……?」
 ぼやきながら、取り敢えず布団から抜け出して、キッチンの方を見る。カウンターの上の壁掛け時計は、7時ちょっと過ぎ。
 今日、予定あったっけ?
 昨日は――?

 と、そこまで考えた時、ソファベッドのもう片方に、毛布の小山があるのに気付いた。
 え、毛布? 何?
 ビックリして覗き込むと、人がくるまってたんで、さらにビックリした。
 固そうな黒髪が、毛布の端っこから見えてる。
 阿部君だ、と認識した途端、一気に昨日の記憶がよみがえった。

 そうだ、オレ、阿部君を部屋に招待して。そんでチョコを渡して……。
 うわあ、と思う。
 カーッと顔が熱くなる。

 キョロキョロとソファ周りを見回すと、サイドテーブルの上に置かれてるのは、一緒に食べようと買って来た、グラッパ入りのチョコボンボン。
 大人用だってのは知ってたけど、思ったよりアルコール強くて、1個食べてくらっとしちゃったっけ。
 オレ、なんか、すっごい大胆なことしたような気がする、けど、あれは現実だったの、かな?
 キス、は……?
 唇に、阿部君の感覚が残ってる気がして、そっと手を当てる。
 酔ったせいか記憶が曖昧で、ぶっとんじゃってて、よく覚えてないけど――ソファに押し倒されて、キス、した、よね?
 で?
 その後、どうなったんだろう?

 いくら考えても分かんない。記憶にない。
 アベ君に訊くべき?
 ただ、体のどこも痛くないし、服も乱れてないし……何もなかった、ってコト、だよ、ね?
 確かめたいけど、ちょっと怖い。
 今すぐ揺り起こしたいような、でもまだ寝てて欲しいような、複雑な気分。
 あわあわとするだけで、どうすればいいのか分かんない。

 阿部君と、時計と、サイドテーブルとをきょどきょど見比べてる内に、今日のスケジュールを思い出した。
 そうか、今日は新宿で雑誌の取材、だ。
 時間に余裕はあるけど、早めに行動した方がいい、よね。
 阿部君は? 予定あるって言ってたっけ? 今起こす? それとも、ご飯できてからがいい、の、かな?
 ご飯……食べるよね?

 迷ったけど、起こさないままキッチンに向かう。
 まずはご飯、炊かないと。白米を多めに3合研いで、最近ハマってる五穀米を入れ、炊飯器にセットする。
 おかずは、鰹のたたきと海草のサラダ、作り置きの根菜の煮物、カボチャとほうれん草の味噌汁。
 朝はガッツリ目、夜は少な目が基本だ。
 炭水化物とタンパク質を同時にとっちゃダメ、とか、ロンドンのモデル仲間が言ってたけど、オレはやっぱり日本人だし、日本食が1番ヘルシーなのにって思ってる。

 阿部君は? 朝は洋食と和食、どっちが好きなのかな?
 前に一緒に食べに行ったの、フランス料理だったっけ?
 こうやって家で手料理食べて貰うのもいいけど、やっぱりまた前みたいに、映画見たり食事したりしたいなぁ。
 そういうのって、デート、っていうのかな?

 考えただけで、じわーっと顔が熱くなる。
 忙しくて、誰かとまともに付き合ったことない、から、情けないけど余計に照れる。
 照れて、真っ赤になって、「わーっ」って考えてる内に、いつの間にか時間経っちゃったみたい。炊飯器がピーって鳴って、ビックリした。
 慌てて味噌を溶いたり、ドレッシングをかけたりして、おかずの仕上げをしてしまう。
 カウンター越しにちらっと見ると、毛布の塊がもぞっと動いた。
 ドキッとした。


 2人分のご飯とおかずをダイニングの上に並べて、それからソファのとこに行って、阿部君を起こした。
「朝、ですよー」
 そしたら、いきなり手を掴まれ、ぐいっと引っ張られてキス、された。ちゅっと軽く。
 ボボンと一気に赤面すると、「おはよ」って言われて、またキスされる。
 今度は深く。
 舌を入れられて、頭の後ろに手を回されて、逃げようとしても逃げられない。
 肉厚の舌に口内をかき回され、舌をすり合わされて、あっという間に追い上げられる。
「ん……っ」
 思わずうめくと、ようやく唇が離れた。
 こっちは真っ赤になってるのに、キスした阿部君は余裕な顔だ。屈んでられなくて尻もちをつくと、くすって笑われた。

「昨日のこと、覚えてる?」
 って。このタイミングで訊かないで欲しい。
「わ、忘、れた」
 そう言ってから、こんな言い方じゃバレバレだって気付いたけど、もう遅い。
 慌ててパッと立ち上がり、照れ隠しに「ご飯、だよっ」ってもっかい言って、布団と毛布をいっぺんに抱え、真っ赤になった顔を隠す。
「あー、それ、勝手にごめんな。トイレ探したらあったから」
 阿部君にそう言われたけど、「ううん」って答えるのが精一杯。逃げるように廊下に出てから、はーっと大きく息をついた。

 リビングから出ると狭い廊下の左右には、それぞれ焦げ茶のドアがぽつぽつと並んでる。
 左側の最初のドアを開けると、散らかってるベッドルーム。
 阿部君、ここ入ったんだよ、ね。
 それにもまた「うわぁ」って思ったけど、見られたのはしょうがない、し。布団と毛布を雑に置いて、深呼吸してから廊下に戻る。
 阿部君、トイレ探した、って言ってた、けど。そうか、全部普通のドアだから、分かりにくいのか。
 今度ちゃんと、トイレの場所とかお風呂の場所とか、教えた方がいいのかな?

 今度って……?
 そう思っただけで、また照れちゃって。阿部君の顔もまともに見られないまま、向かい合わせでご飯を食べた。
 胸がいっぱいで、なんだか味も分からなかった。

(続く)

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