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小説 3
ギャップ・1 (大学生×モデル三橋) EDEN様へ
 バイト中のコンビニでその客を見た時、どこかで見た顔だな、と何となく思った。
 けど、どこで会ったのか全く思い出せねぇ。こんな目立つヤツ、一度会ったら忘れそうにねーんだけど。
 前にも来店したのかな?
 店内をうろつく、ふわふわ頭をじっと見る。
 そいつはさっきから、デザートコーナーとスナックコーナーとを、行ったり来たり、行ったり来たり、行ったり来たりして、考え込んでいた。

 何でもいーから、早く買え、なんて客に向かって言えねーけど。
 でも、気になる。
 大体、目立つんだ。
 コンビニで、うろうろうろうろする自体目立つし、背が高いもんだから、棚から頭が丸見えだし。
 けど、それだけじゃなくて……なんつーか、人目を引くっつーか。つい見ちまう、っていうか。とにかく、妙に気になるヤツだった。

 来店から20分、さんざん迷った挙句、そいつがレジに持って来たのは、季節限定のイチゴプリンだった。
 プリンの上に、生クリームとイチゴが乗ってるやつ。
「いらっしゃいませー。ありがとうございます」
 オレは、そいつの持って来たプリンに、ピッとバーコードリーダーを当てながら、さり気なく顔を見た。
 そしたら、意外に童顔だったので、びっくりした。

 胸元が大きくVの字に開いたサマーニット。細い首に、長めの黒いペンダント。
 ペンダントトップは、きれいな胸筋の間に落ち、ニットから見え隠れしてて、なんつーかエロい。
 なのに、目の前でうつむいてる顔は、高校生くらいに見える。
 何だろうな? 服装のイメージと顔にギャップがあんのに、ちぐはぐな感じがしねーのは……着こなしとか、か? まあ、オレはあんま服とか詳しくねーけどさ。

「198円になります。おしぼりとスプーンお付けしますか?」
 一番小さいレジ袋にプリンを入れながら訊くと、そいつは「ふ、ふえ?」と言いながら、パッと顔を上げた。
 うわ、目ぇでかっ。まつ毛長っ。

 オレの感動をよそに、目の前の客はパシパシ数回まばたきして、オレの顔と、プリンと、レジの会計画面とに、きょどきょどと視線を移してる。
 オレの言うこと、聞いてなかったんか? 聞いてなかんたんだろな。まあ、客にいちいち切れてても仕方ねぇ。
「198円、です」
 オレはそいつの顔を見ながら、意識してハッキリ発音してやった。
「う、うお、はい」
 そいつはちょっと慌てたように、スラックスのポケットから財布を取り出し、わたわたと広げた。

 顔に似合わねぇ、シックな財布だ。ブランドものか? EとAのロゴの真ん中に、鷲だか鷹だかのマークがついてる。
 ちゃりん、と200円出されたのを見て、オレは手早くレジを操作し、またハッキリ言った。
「200円からお預かりします。2円のおつりです。おしぼりとスプーンは、お付けしますか?」
 すると、そいつはまた、わたわたと釣銭を受け取り、財布に入れながら、財布とプリンとオレの顔とを、きょどきょどと見比べた。
「う、え、と……」
 って。何でキョドんだ。そんな難しいコト訊いたか?

 内心ため息をついた時、後ろに他の客が並んだ。
 もう一人のバイトは、今、ドリンクストッカーの裏だ。レジにいんのはオレ1人。
 オレはもう返事を待たず、プリンと一緒におしぼりとプリンスプーンを勝手に入れ、取っ手をくるんと巻いて、そいつに「ありがとうございました!」と差し出してやった。

「はい、次の方どうぞー。いらっしゃいませ、ありがとうございます……」
 オレが他の客の接客を強引に始めると、そいつは、もたもたと一歩下がって――そして、言った。

「ありが、とう」

「……えっ?」
 思わず手を止めて、前を見る。
 けど、そこにさっきの童顔な客はもういなくて、入口の自動ドアがガーッと閉まったとこだった。


 別に、客から「ありがとう」って言われることは、珍しくねぇ。
 コンビニにはいろんな人間が来るし。
 けど、あの客のことが1日経っても忘れらんねぇのは、最後に顔を見そびれたせいか?
 ありがとうって……あいつ、どんな顔で言ったんかな?
 大学の教室で、はあ、とため息をついてると、横に座ってた水谷が、身を乗り出してきた。
「おおー、ため息? 阿部も恋の季節かぁ?」

「はあ? お前と一緒にすんな」
 水谷の読んでた雑誌を奪い、丸めたそれで、ポカンと殴る。
 こいつとは、同じ高校の同じ野球部出身だ。色々気ぃ遣わなくていーし、何だかんだ話しやすいし、いいヤツだとは思うんだが、たまにウザい。
「痛ぁ。阿部はヒドイヤツだよね〜」
 セットされた頭を撫でながら言われて、ふんと鼻で笑ってやる。
「うるせーな、痛ぇ訳ねーだろ、こんな雑誌」

 ホントにダメージ与えてーなら、机の上の分厚い専門書で殴ってやるっつの。
 男性用ファッション雑誌なんか見て、まったく何が面白いんだか。
 こんなの参考に服選んだって、モデルと同じになれる訳ねぇだろうに。

 けど。
 その雑誌をバサッと水谷の方に放って――裏表紙を見た途端、えっ、と思った。
「ちょっ……」
 水谷の手からもっかい奪い、裏表紙の広告を凝視する。

 黒とワインレッドの背景。上半身裸の青年が、髪を掻き上げてこっちを見てる。
 白い身体は筋肉質で、細く引き締まってた。
 ムダな肉も、ムダな毛も、何も無いキレイな裸。
 その白い腕には、白い肌に似つかわしくなさそうな、ゴツイ黒の時計がはまってる。
 時計をはめた手で、髪を掻き上げてるその仕草。挑戦的なその顔。目つき。何より、ゴツイ腕時計と白い体、甘い顔立ちとのギャップが、なんつーか……。

「エロ格好いいよねぇ」

 水谷の声に、ハッと顔を上げる。
「え?」
 訊き返すと、水谷は、雑誌の裏表紙を指差した。
「その広告だよ。駅とか、ビルとかによく貼ってあんじゃん。電車やバスの中吊りにも見かけるし」
「あー……」

 そうか、と思った。
 広告のモデルの顔をじっと見る。

 どっかで見たと思ったハズだ。見覚えはあんのに、どこで会ったのか思い出せねぇのは、初対面だったからなんだ。
 雑誌の裏表紙で、白い裸身をさらしているのは――昨日の、童顔の客だった。

(続く)

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あきゅろす。
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