Season企画小説
ギャップW・1 (2014バレンタイン・大学生×モデル)
※このお話は ギャップ、ギャップU、ギャップV の続編になります。
バイト先のコンビニに行くと、パートのオバサンが熱心に棚の模様替えをしてた。
キャラクターくじの景品並べてた場所を空けて、雑巾で拭いてる。
「はよっす」
挨拶しながらちらっと見ると、赤い不織布が見えた。
なんとなく、バレンタインかなー、と思う。いや、そりゃ、もう2月なんだし、考えてみりゃ当たり前なんだけど。
「バレンタインか……」
ぽつりと呟きながらタイムカードを押して、コートを脱ぎ、制服に着替える。
今までバレンタインなんて、菓子メーカーの稼ぎ時だとしか思えなかったけど。好きなヤツができると、なんとなくそわそわしてくるもんなんだな。
チョコを貰った事はあっても、そういや貰いっぱなしで返した事なかった。
つーか、全部弟にやっちまって、食った事もなかったっけ。
つっても、オレが貰うのは野球部のマネージャーとかクラスの女子一同とか、せいぜいそんなモンだけど。
アイツは――どうなんかな? やっぱ大量に貰うんだろうか?
店内に戻ると、店長からオバサンを手伝うようにって言われた。素直に「っす」と返事して、入り口すぐのエンドラインに向かう。
もう雑巾がけは終わってて、赤い不織布がピシッと棚に敷かれてた。
さすがベテランは仕事が早ぇよな。
棚の柵んとこに金と白のモールをてきぱきと巻き付け、「バレンタインコーナー」のデカいハートのPOPを飾る。
オバサンはその一方で、キレイにラッピングされたチョコを見本と一緒に並べてた。
こうしてみると、一応色々種類があるんだな、と分かる。
ハート型だろうが丸型だろうが、食えば一緒だろって思うけど。値段の差はやっぱ、グラム数か?
そう思って見本のチョコの裏書と値段とを見比べてると、オバサンに「やあねぇ」つって言われた。
「阿部君のえっち」
って。意味ワカンネー。
「男の子はね、値段とか量とか気にしちゃいけないの。大事なのはチョコの量じゃなくて、気持ちの量でしょ?」
確かにそうかも知んねーけど、チョコにかける値段と気持ちの量だって、なんとなく比例はするだろう?
けど、こういう時に反論すんなっつーのは、今までの経験上よく知ってる。
「そっすかねぇ」
オレは気のねぇ相槌を打って、見本のチョコを棚に並べた。
バレンタインか、と意識して考えてみると、そういや他の商品も、さり気にチョコ系が増えてる気がする。
チョコシュークリームに、チョコムース。チョコの生大福ってのも出てたっけ。チョコケーキも、ブラックとホワイトの2種類に増えた。
ココアとどう違うかワカンネーけど、チョコドリンクなんてモンもある。
カウンターの中に入ると、店長がせっせとチロルチョコの詰め合わせ作ってて、そのチープさに苦笑した。
さすがにコレ渡されて、「大事なのは値段じゃない」とか言われても説得力ねぇだろうと思う。
まあ、確かに、高いモン買えばいいって訳でもねーけどな。
アイツなら、どれ買うかな?
さっきから脳裏に浮かんでんのは、ファッションモデルのレンって男だ。
男のくせに妙に色っぽくて、色白で、キスしただけで真っ赤になるヤツ。
ファンの女も多そうで、チョコなんかいっぱい貰いそうなヤツ。
1月からヨーロッパとかアメリカとかでファッションショーが続いてるらしくて、ずーっと海外に行きっぱなしだ。
この間、「NYだよ!」っつー写メが来てたけど、まだアメリカにいんのかな?
そのレンは、このコンビニの密かな常連だ。
ファッションモデルで、スマホや時計のCMにも出てて、そこそこ金持ってるんだろうに、意外にもコンビニスイーツが好きらしい。
毎回毎回真剣な顔して10分以上迷って、店ん中を何度も何度も往復して、そんで1個だけ買っていく。
歩き方も着てる服もスタイリッシュなのに、レジで金払うのは時々もたついて、そのギャップが妙に可愛い。
可愛いけど、なんかエロい。
その格好良くてエロ可愛いモデルのレンに、オレは恋愛感情を抱いてる。
レンは……どう思ってんのかワカンネーけど、一応写メくれるし。キスした時、イヤがってなかったし。脈はあるんじゃねーかと思う。
バレンタインは女の祭典だってイメージあるし、期待してねーけど。
期待してねーけど……会うくらいはできたらいーなと思ってる。
この間、さり気に「今度、いつ店に来る?」ってメールしたんだけど、それの返事は、まだなかった。
休憩時間にスマホを取り出してチェックしたけど、特にメールは来てなかった。
いや、レンからの返信ばっか、気にして待ってる訳じゃねーけど。大学からとか、水谷からとか、色々あるし。
……スケジュールがハッキリ決まってねーのかも?
そもそも今、どこにいるのかも分かってねーし。海外を忙しく飛び回って、プロモデルってのは大変だよな。
新製品の缶コーヒーを飲みながら、ネットで「NYコレクション」を検索すると、色んな記事がHitした。
そのうちの1つを何気なく閲覧すると――。
「あっ」
パッと目についた写真に、レンが写ってたんでドキッとした。
すかさず拡大して、その画像を保存する。
ポーズを決め、モデルの顔でこっちを見つめてるレンは、やっぱ格好いいけど何かエロい。
イタリアの新聞みてーなのに載ってたのと、同じブランドだけど違う服だ。
こっちは黒のブルゾンで、けど裾や袖にちょっと派手目の細いラインが入ってて、レンの甘い顔立ちによく似合ってた。
(続く)
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