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[ぎんじーのマジカル☆キャンディ6]
By 降隆
2009-01-13 22:20:38



をサルベージしました。下書きメールに埋もれていた。


↓↓第1話〜5話はこちら。未完のまま収納してもろくなフラグが立たないので完成後整理します(ナルシー……)。

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さてマジカル☆キャンディ6。ポイントは「人魚姫もりたん」。まだ「起」という体たらくですが、長い目でお付き合い頂ければ幸いです。



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By 降隆
::[起]
2009-01-13 22:20:53





ただひとつ言えることは、俺にはもうあんな恋はできないということだ。
何もかもが鮮やかな。だって俺はまだ21歳だった。









目の前に、鼻先の触れそうなほど近くに気配を感じた。
睫が震える。うう、とか細く呻く自分の声に意識が浮かび上がっていく。白々とした眩しさに、銀二がゆっくりと険しく、重い瞼を持ち上げると。

そこに、男はいた。

じい、と奥底まで見透かそうと双眸を見開いて、一心にこちらを覗き込んでいる、若い男だ。白々と光を背負って眩しい。顔がよく見えない。まるで嵐に呑まれ波に揉まれ導かれるまま、見知らぬ浜辺に打ち上げられて。煌々しい太陽に射抜かれて顔をしかめながら、目を開くと、そこに。何故だかそんな連想が浮かんで、銀二は目眩を覚えた。

「……森田」
「大丈夫ですか?」

ようやくピントが合って、銀二はますます混乱する羽目になった。自分を見下ろす若い男が、それこそ太陽を背に受けて微笑む小麦色の肌の少年のように健やかで、清廉な容貌だったのだ。意思の強さを表す眉と、誇りの高さを表す鼻梁と、情の厚さを表す唇と、怜悧の深さを表す声と。その一つ一つがその全てが、一抹の不安を根ざして統制されているためか、一切の綻びもなく照らされて。真実作り物のような、絵画に描かれたような造作に、銀二はギョッとした。それから不意に鳩尾が鋭く突かれたように、きゅうと痛んだ。

「……銀さん?」
「あ、あああ、ああ。大丈夫だ……」

ふらふらとかぶりを振って辺りを見回し、銀二は自分がいつの間にか、ベッドの上に仰向けに倒れていたのだと知った。着替えもせず無様に手足を投げ出して。
どうして。確か、ああ、確かそうだ、友人から貰った胡散臭い飴玉を舐めて。
口に含んだキャンディからはニッキ臭い甘味が広がるばかりで、何の変哲もなかった。軽く拍子抜けしながら銀二はみるみる溶けてしまった飴玉に肩をすくめて、荷作りに戻ったはずだった。そこまでは覚えている。それで。


その後、どうした?


「銀さん、本当に大丈夫ですか?」
「ああ、ああ。眠っちまってたらしいな、ハハ」

平気さ、と銀二が身を起こすのに合わせて、森田も銀二の上から退くとベッドの傍らに膝をついた。銀二はまだぼうっとする額を抱え、静かに息を漏らす。



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By 降隆
2009-01-13 22:20:55



そう、キャンディを食べたんだ。古い友人から「マジカル」だなんて触れ込みで押し付けられた、いかがわしげなキャンディを。でも、一体何が起こったっていうんだ。
瞑目した、うねる闇の中で銀二は頭を巡らせようとするが。どういうわけか。どういうわけか今し方自分の面を見下ろしていた森田の顔が妙に印象を残して離れず、思考はグルグルと空転するばかりだった。

「銀さん」

また耳元に吹き込まれるような近くで囁かれ、銀二はギクリと身をすくませた。首だけを向ければやはり彫刻のような、血の澄んだ獣のような貌が僅かに眉根を寄せて、気遣わしげにこちらを窺っている。口元はくっと引き結ばれて、するとその拗ねた表情は若い男を途端に再び、素足で焼けた砂を駆ける少年に見せた。

「ちゃんと休んでください」

言ってから森田はすぐに目を逸らして、叱られたわけでもないのに強張った口端に慌てた風に笑みをたたえた。

「支度は、明日朝起きてからでも。俺がやっといてもいいんですけど」

まくし立ててから、差し出がましいですね、すみません、と俯いた。男を前に。
銀二はと言えばただただ、ぼうっ、と、その顔を見つめるばかりだった。


コレは。
この男は。こんな。
コレは、こんな微妙な表情を見せられる男だっただろうか。
もっとシンプルで、大仰なばかりの男ではなかったか。
「ね?」と。チラチラとこちらを窺い見るのはいつものこととしても。
こんな風に切なげに笑むような、森田のこんな顔を。俺は見たことがあっただろうか。
俺は。今まで。


「銀さん」
「……ああ、そうだな」

力なく頷く銀二に森田はますます訝しげに眉を顰めて、けれど結局は何も言わず立ち上がった。

「電気消しますよ」
「ああ、いや、着替えるから」
「毛布かけますよ」
「おい、まだシャワーも」
「明日浴びればいいじゃないですか。ほんとに風邪引きますよ」
「ああ、ああ……」

宥めすかされてシャツとスラックスのまま再びベッドに横たわる。そこに首までブランケットが被せられて、今一度蛍光灯の眩しさに銀二が思わず目を瞑るのと同時、サイドボードのスイッチに手を伸ばしていた森田が灯りを消した。パチリと暗闇の降りた寝室は途端静まり返り、森田の咳払いをした音が酷く響いて。




「おやすみなさい」





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By 降隆
2009-01-13 22:20:57



「……」

まるで。
身を包み込まれるような。
世界ごとくるまれるような、声だった。


目を閉じたまま、それどころかいよいよ何も言われずにじっと息を潜めてしまった銀二に、森田はフッ、と嘆息すると、そのまま部屋を出ていった。バタリとドアが閉ざされ一人取り残され、銀二はすぐさま目を開ける。全く覚醒しきっている両の目でもって、しっかと天井を見つめる。
わけもなくドクドクと、未だ心臓が脈打っていた。丁度銃口を突きつけられたようにさあっと全身が火照り、じっとりと汗ばんでいる。背中の湿った感触に即座にブランケットを肩からはがし、熱をごまかそうと手のひらでのっぺりと顔を撫でつける。ついで口元を手で覆い、ううう、と唸って、さて、どうしたものか。銀二は考え込んでしまった。

「まったくあのジジイ、からかいやがって。何が魔法だ……」

「もっと寝ろ」なんて言ってたのはまさか、単なる睡眠導入剤だったなんてオチじゃねえだろうな。おかげで身体がふわふわと覚束なくて仕方ない。首を捻りサイドボードの目覚まし時計を掴む。額を突き合わせる距離でじっと睨みつけ目が慣れるのを待つと、やがて針のブラックライトが浮かべた時刻は思いがけず、意識が途切れてからせいぜい数分しか過ぎていない辺りを差していた。だのに何故だかえらく意識が覚束ないのは、藪医者は伊達ではないということか。それは結構だが、さて、どうする。
さて、どうする。と銀二は考えなければならない。明日以降の遠出を前に今夜、あの野郎にファックされてやるかどうか。についてだ。これほど頭の痛い悩み事は銀二もそうそう抱えない。まさしくファッキンだった。とは言えどうする。運が良いのか悪いのか今し方「具合が悪いらしい」と森田に勘違いされて、ある種免罪符を得てしまった格好だが。このまま眠っちまうかよ。と、当然誘惑もよぎる。
出先で抱き合う煩わしさ、殊に他の仲間に配慮する面倒くささ、という名の恐怖から、できればそれは避けたいと思っていたが。まあ、いよいよとなれば何とか な ら ね え な 。
ああ、ならない。無理だ。無理だ無理だ、無理だ。アイツらに気を回されるぐらいなら腹掻っ捌いて死ぬ。何としてでも今日、既成事実は作っておかなければ。
そう改めて観念すればあとは時間が押している。銀二は即座に身を起こした。



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By 降隆
2009-01-13 22:20:59



数瞬の逡巡のつもりでいたが、実はそれなりに時間が経っていたらしい。誰もいないリビングを抜けバスムールを覗いてみると、森田が上がったばかりらしく、湯気が充満していた。換気扇のスイッチを入れ洗面台を見やってから、ああ、あいつまた髪乾かしてねえ、と鼻白む。使われた様子のないドライヤーに気づき、それを片手に部屋を出ようとして、ポタポタとどこからか水の滴る空間に銀二は顔をしかめる。しつこく、他人の入った後の風呂が銀二は好かないのだ。バスルームを出て、全くしょうがねえ、全くしょうがねえ。そう呪文のように繰り返しながら、森田の部屋へ向かった。向かいながら銀二は己の鼓動に違和感を覚える。一歩踏み出すごとにドッドッと微かに心音が高まって不整脈でも起こしたように息苦しいのは、まさか今頃飴玉が効いてきやがったか。催淫効果の前に眠気が襲うクスリもなくはない。いいさ、それならそれで好都合。好都合のはずだ。が。アッパーというよりももっぱらダウナーに落ちていくこの根拠のない不安は、ちょっと様子がおかしいんじゃないか。なんだってこんな予防注射の順番待ってるガキみたく、そう、ビクビクしてやがんだ俺は。ビビッてんのか。ああ、そうか。ビビッてんのか。

「ハハ……」

何のことはねえ。銀二はタハハ、と笑う。ビビッてんならそれは端っから、ビビッてんじゃねえか。飴もクスリも関わりない。単に俺が。畜生。
気づけば銀二は森田の部屋の前でじっと立ち尽くし、スリッパも履き忘れていたものだから素足でフローリングの床を踏みしめていた。
何やってんだ俺は。
自身に呆れ果てる。
一度ドラッグでトンじまおうなんて自棄を起こした分、逃げられなくなった今甘えが起きたっていうのか。昨晩よりも今日の先ほどまでよりも、よっぽど追い詰められて弱っている自身に、俺はこんなに情けない男だっただろうかと。銀二は呆然とする。
ドアを開けて、髪を乾かせと言って、シャワー浴びてくると言って、大丈夫だと言って、キスの一つでもしてやって。すべきことは全て分かっているのに、ノックをしようと拳を持ち上げたきり、その手が動かせない。心臓が痛い。指の先までガクガクと痺れドクドクと肋骨を軋ませて、手のひらにも汗が滲む。
クソ、クソ、クソクソクソ。ふざけやがって。とっとと済ませちまえばいいだろうが。何でこんな


 ガチャ


「うわッ!」



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By 降隆
2009-01-13 22:21:01



いきなりドアが開けられ若い声をぶつけられて、同時、銀二は言葉もなく肩を跳ねさせた。声の主にしてみればいきなりもクソもなかろうが、内開きのドアで良かった。そんな埒もないことがよぎる。


「銀さん……?」


よぎって。
よぎったはずの些末な思考は次の瞬間、どこかへ失せてしまった。顔を上げ、開かれたドアを正面から捉え、銀二は。
またも銀二は、息を呑んだ。
頭の片隅が思考の奥底が、表層と交わったのだ。先程から渦巻いていたものが一気に水面へ上がってきた。
脚が動かない。と気づいて、それよりも後退ろうとしていた自分に愕然とする。言い逃れようもなく銀二は怯んでいた。圧倒された。目の前の男に。
今度こそ銀二は、見入って。いや、見とれたのだった。








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