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[ぎんじーのマジカル☆キャンディ3]
By 降隆
2007-10-17 21:03:03

あるもので精一杯オシャレする銀さんとかカワイくないですか。という話。


が、これ含め今までの分はまるっと読み飛ばしても全然構わないことに気づきました。次回からが本当の起です。



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By 降隆
::[起0]
2007-10-17 21:03:48



初めて本気で惚れた相手は歌手だった。忘れもしない1960年の夏だ。銀二はまだ21歳だった。
賑やかな港町のバーで毎晩ステージに立つ彼女の声は滑らかで艶やかで、濃い化粧の映えたその素顔を見ることはついになかったが、大きく胸の開いた絹のドレスもスパンコールも黒髪のウェーブも真っ赤な爪も何もかも完成されて、陳腐で仕方がないが、まるで揚羽蝶のようだと思った。
銀二はもう夢中で、その頃は田舎から出てきたばかりでこそ泥と詐欺師の真似事では食いつなげず、まともに働いてみたりそのなけなしの給金を賭場でスッてみたり、とにかくピーピーしていたのだが。たまたま立ち寄った件のバーで彼女に魅せられてからは人が変わったようにあくせく悪友に探りを入れてはデカい話に目を光らせて、その一方で客の一番少ない水曜の晩には銀二は必ず繁華街に繰り出した。レザーのジャケットの下には間違っても綿シャツなんて着ずにTシャツ一枚でジーンズにこれでもかと磨いたローファーを履いて、颯爽として通りを行く。行くそばからすれ違う米兵共の阿呆みたくデカい図体やら馬鹿に高い腰やら膨れ上がったみたくゴツい肩が目につき、少し落ち込んだりもしたが。それでも銀二は努めて意気揚々としてジャズバーに乗り込むと、一番安い酒で一番ステージに近い席を陣取った。彼女の名は何とかユリエといったか、そうして銀二はいざユリエがステージに立つと煙草を揉み消しこれ見よがしに脚を組んで、したり顔でステージを見つめたのだった。どうせ途中から気が抜けて鼻の下も伸ばしてたんだろうが。花を持って裏口に突っ立っていたこともあった。ガキがすっかりのぼせちまってと馬鹿にされ客と派手に喧嘩をやらかしたこともあった。ユリエのオトコと一戦交えたこともあった、というよりオトコとその仲間からボコボコに私刑を受けたこともあった。
けれど。



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By 降隆
2007-10-17 21:06:41


ユリエと言葉を交わしたこともあった。
ユリエを笑い転げさせたこともあった。
頬をぶたれたことも、明け方の浜辺で自分一人のために唄ってくれたことも、ただ一度だけ、抱いたこともあった。
何故今になってこんなことを思い出すのか皆目分からない。走馬灯に似てカタカタと巡る情景を見上げながら微睡みの中、銀二は首を捻る。朝日を浴びてケラケラと笑ったユリエの化粧の崩れたみっともない笑顔は、一生忘れない。忘れないが、現実に迫る夜明けに白く霞んでいくのは止めることはできない。
ただ一つ言えることがあるとすれば
あともう少し寝かせてくれ、と念じながら、銀二は思う。
ただ一つ言えるのは、俺にはもうあんな惚れ方はできない。ということだ。ダサくて勘違いばかりで臆病で浮かれ調子で何もかもが鮮やかな。
だって俺はまだ21歳だった。





→起1

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