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[ぎんじーのマジカル☆キャンディ]
By 降隆
2007-10-14 04:09:44



すみません。ほんとすみません。寄り道ばかりの人生です。

冗談はくだらないほど面白い方のみお付き合い下さい。




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By 降隆
::[起-2]
2007-10-14 04:10:50

森田を後ろから抱き締める時。
銀二にはいつも、いつの日か唐突に、例えば今日にでも突然、邪険にされるのではないかという恐怖がある。あまりに微かで自身でも気づかないほど小さな、それでも、恐怖が。

サイドボードのライトを点けただけのベッドの端に、大きな背中が橙色に浮かび上がっている。銀二はベッドの真ん中に胡座をかいて座り込みはだけたパジャマの前を直すべきか迷いながら、その裸の背を見つめている。
灯りを点けたままでいるのを銀二は今日も頑なに嫌がり、それにしたってもっと諭し方もあったろうと自分でも呆れるほど、いつになく余裕がなかった。
俺は疲れているのだろうか。
灯りを消そうと伸ばした手首を森田に掴まれ皮膚が引きつれた、そんな多少の乱暴はいつものことだというのに。しつこく唇に吸い付かれるその痺れが無性に苛立たしく、押し返す腕につい力が入り過ぎた。この若者も若者で何やらささくれ立っていたらしくそのうち洒落にならない揉み合いになり、塞がる口の中で銀二が舌打ちをしたところで森田がハッと身を退いた。鼻白んだ目で見下ろされ銀二が同じくらい冷めた視線を返してやると、ようやく捻り上げていた手が放された。そうしてすっかり拗ねた森田は大げさに嘆息してベッドの端に逃げ込み、取り残された銀二は愕然とするしかなかった。
結局また、俺が折れるしかないのか。
こんな時、銀二はいつもある一室をイメージする。このマンションに移る前の前に構えていた狭い事務所だ。これはあの頃からの癖だった。革張りのソファ、ガラステーブル、大型のテレビ、摺り硝子の仕切り、デスク、馬鹿でかい椅子、鉢植え、ブラインドの下ろされた窓。その全てを、癇癪玉の爆発するままにぶっ壊して回る自分をイメージする。若い頃は実際に暴れれば済んだ。巣を変えるしな出ていく部屋を見渡せば襖にも障子にも下手すると壁にも必ず何処かしら穴が空いていたし、真夜中忍び込んできた賊に座卓をぶつけてやったことも、出ていく女に怒鳴り散らしそこら中に転がっていた酒瓶を玄関へ投げつけてやったこともある。それがいい年になるとそうもいかなくなり、荒れ狂うために架空の部屋を想起するようになったのだ。


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By 降隆
2007-10-14 04:14:34


だから今もシーツを引き裂く代わりに叫び声を上げ窓ガラスに椅子で叩き割り、銀二は膝立ちで森田へ傍寄るとその肩へそっと両腕を回す。背にのしかかり胸を押し当て少しこちらへ首を巡らせた森田の髪に鼻を埋めると、深く吸い込む息は性感を伴わず、ただ若過ぎる男の体臭を伝えてくる。それもいつものことだ。
不意に抱きすくめる腕に森田の手のひらが添えられ、銀二は自分が許されたのだと知った。振り返った森田は苦笑いを押し込めた仏頂面で、頬を撫でほつれた髪を耳にかけてやりながら銀二は笑む。コツ、と額に額を寄せてグッと目を瞑りよくよく描いて、いっそ頭突きでドタマかち割ってやろうかなどと思いその代わりソファ蹴り上げてガラステーブルを粉々に砕いて、「ごめん」と囁く。目を丸くする森田に音を立てて口づけると、再びベッドに乗り上げた森田はようやく機嫌を直したようだった。既視感でなく一分前と変わらない体勢に逆戻り、ただ先には拘束されていた手が今は静かに繋がっている。空想の部屋はなかなかの惨状だった。ソファはガラステーブルに突っ込まれ倒れた植木鉢に仕切り戸が折り重なり画面の割れたテレビにパチパチと電気が弾けブラインドと椅子は消え窓からバタバタと夜風が吹き込む、部屋に一人悪態を尽くし、喉を嗄らしてゼエゼエと息を継ぐ。無様な自分を描いては巻き戻しまた描いては巻き戻しながら、そうして銀二は初めて明るい中で森田に抱かれた。





→起-1



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