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[ぎんじーのマジカル☆キャンディ5]
By 降隆
2007-12-10 19:43:34



色々錯綜しまくってて申し訳ありません。
修羅場のときほど無駄な寄り道をしてしまうトモコの気分です。


原稿間に合うのかしら☆




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By 降隆
::[起2]
2007-12-10 19:44:16




「愛が必要だ」と言われた。




セロハンの包み紙を親指と人差し指で摘んで、銀二はまじまじと眼前に掲げたソレを見つめた。シャボン玉の表面に似て虹色に光るセロハン越し、ベッコウ色に透き通った小さな、どう見ても小さな丸いただのキャンディを。
夕食を終え後片付けは森田に任せると、銀二はそそくさと寝室へ引き上げた。明日の支度を済ませたら森田を風呂へ遣ろう。その間に俺は一杯やろう。オーケー、あいつはどうせ烏に行水だが五分もあれば充分酔える。明日に禍根を残さない程度に。
そんなみみっちい悪足掻きを企てながら収納からスーツケースを引っ張り出し、ベッドの上に開いてクローゼットを漁り、シャツやら下着やらを並べていた時だった。ふとスーツケースの内側に並んだ小さなポケットの一つが、奇妙に膨らんでいるのに銀二は気づいた。うん?と眉を上げる。ジッパーを開けて中を探ると、出てきたのが一粒の小さなキャンディだったのだ。意味が分からずますます眉根を寄せて、思い出すのに随分間が要った。やがて、あ、とよぎる。

あれか。

二月ぼと前に遠出した先で、銀二はある古い友人と落ち合っていた。どことなくもなくあからさまに不平顔の森田を宥めすかし、単身飛んだクアラルンプールのホテルでのことだった。友人は何度となく肩書きを変えてはいる今はジャーナリストを自称している老人で、昔はよく若い銀二の旅先案内人を努めてくれた良き旧友の一人だ。それが人の顔をまじまじと見るなり易者か占い師かのように、いや、まるで医師のように(診療所の息子だったため前線では専ら救護兵を努めていたというから洒落にならないが)、先程の言を宣ってきたのだ。深刻な患者に病名を告知するように。

「ハ?」
「愛が必要な顔をしてる。お前はもうそんな面はしないものだと思っていた」
「ハハッ!おいおいおい、何だ藪から棒に」
「愛されたいのか?」
「ククク、お前が愛してくれるのか?」




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By 降隆
2007-12-10 19:46:16



この友人の惜しまれるのはデリカシーの欠片もないところと、他国暮らしが長過ぎて日本語がエキサイト翻訳気味のところだ。突拍子もない言葉にはすっかり慣れっこだと高を括って、銀二はしゃあしゃあと言い返した。そこへ友人が

「俺では満足できないだろう」

とこれまたしゃあしゃあと答えたものだから銀二はブランデーを盛大に噴き出し、とりあえず話題は打ち切られたのだったが。ところがそこで一旦は別れたはずの帰り際、空港へわざわざ見送りに来てくれた男が差し出したのが、このキャンディだったのだ。

「何だよ」

反射的に手のひらに受け取ってしまってから、のど飴にしてはキッチュなデザインに銀二は眉を顰める。




「マジカルキャンディだ」




「……WHAT'S UP?」
「魔法の惚れ薬だよ。俺が使うつもりだったがお前の方が必要らしい」
「…………お前は、何語で喋ってるんだ?」
「こっちは自力で何とかするさ、お前の幸運を祈ってる。ああ、それから、もう少し寝ろ」
「は……」

混乱に目を白黒させる銀二に友人はどこまでも一方的に告げると、最後の一言だけはえらく親しみをもって告げ、銀二を抱き締めた。「達者で」と囁いてすぐさま離れる男に放り出され、ぽかーんと立ち尽くす銀二を置いて男はあっさりと去っていった。いつだって自分を弟、というより甥っ子のように扱ってきた老人は、最後まで言葉を選んではぐらかし通してきた。
多分に、銀二のために。
そしてそのキャンディ、マジカルキャンディとやらがどういうわけだか、スーツケースに入りっ放しになっていたらしいのだ。そもそもこんな所をしまい込んだ覚えが銀二にはなく、適当に無くすか捨てるかしてしまったものだと思っていた。魔法の惚れ薬。などとふざけた謳い文句が甦るからには、持ち主について来たのかもしれない。



「おいおいおい……」





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By 降隆
2007-12-10 19:48:27



タハハ、と、銀二は思わず笑っていた。
今の下らない連想よりも先に浮かんでいたもっと下らない、反吐が出るほど下らない思いつきに。
馬鹿か俺は、止めとけよ。
即座にせせら笑っておいて飴玉をゴミ箱へ持っていき、けれど、放ろうとした手前で理性が動く。悪知恵が帳尻を合わせようと巡りだす。
まだ若いといって良かった頃、あの友人に同じ悪戯をかまされたことを思い出したのだ。当時はごくごく一部にしか出回っておらず銀二も存在を知らなかったタブレット状のドラッグを、「栄養剤だ」などと騙くらかされて、まるで今日日の女子高生のように含んでしまったのだ。結果はよく思い出せない上に思い出したくもない。が、とにかくあの頃の自分は何だか色々と切羽詰まっていて、あの男としてはショック療法のつもりだったらしい。コロコロと変える肩書きの一つには藪医者もあったからか知らないが、人のタガを外す加減を銀二よりずっと精密に心得ているところが、また気に食わない男だった。だとしたら。
このキャンディもまた、あの類だとしたら。そろそろとても素面じゃ耐えきれなくなってきた若い男の遊び相手を、愉しんで、悦んで、羞恥も屈辱も忘れて受け入れられるなら。俺は多少イカレていた方がきっとよっぽど、都合が良いに違いない。限界がきて何もかも崩してしまうぐらいなら、こんな糸は一度切ってやった方が良いに違いないんだ。
森田がいつ風呂から上がってもおかしくない焦りもまた、銀二を急かしたのだろう。それでも。どうやって酔ってやろうか途方に暮れていた銀二に、そう、目の前キャンディが酷く魅力的に見えてしまったのは多分に、あるいは、マジックのせいなのかもしれない。

ともかく銀二は恐る恐る、シャラシャラとくるんでいたセロハンを解き、やがて小さな飴玉を、おまじないさ。これはおまじないみてえなもんなんだ。と言い聞かせながら、口に含んだ。







(続)

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