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Season企画小説
鬼渡し (2017節分・鬼阿部×ショタ三橋)
※この話は鬼隠し鬼暮らし鬼萌え鬼子ども の続編になります。







 廉が分校に通い始めて、最初の冬がやって来た。
 今までは隆也と2人、雪深い山奥の自分たちの小屋で、静かにのんびり暮らしていたが、学校に行くとなれば大変だ。
 雪の上を歩けば、足跡が残る。
 また、遠回りの獣道を通らせるのも危険で――落とされた吊り橋を修復するべきか否か、隆也は悩んでいたようだった。
 自力で小屋もベッドも何もかも作ってしまえる隆也だから、吊り橋を掛けるのもきっと、すぐにできるのだろう。ただ問題なのは、安全性だ。
「誰でも簡単にここまで来れるようじゃ、危ねーかんな」
 隆也の言葉に、廉も「うん」と素直にうなずく。以前、男2人に連れ去られそうになったことは、恐怖と共に覚えていた。

「よし、野猿を作るか」
 隆也がそう言ったのは、遠く見える山頂に白冠がかかり出した頃のことだ。
 そうなれば、小屋の周りに雪が降り始めるのはもうすぐで、一度降り始めれば、積もるのはあっという間である。
 ぐずぐずしている余裕はないとばかりに、隆也はさっそく農家を回り、大量の稲わらを貰って来た。
 それで何をするかというと、縄をなうようだ。
 鬼の力を込められた縄は、太く長く、とんでもなく頑丈な出来になりそうだった。
 廉も隆也にない方を教わり、太い縄をなう隆也の横で、細く可愛い縄をなった。
「すげーな、上手だぞ」
 大好きな隆也に誉められた廉は、嬉しくて翌朝、友達の悠一郎にそれを見せた。

 悠一郎は、分校の隣に大きな田畑を持つ、大家族の農家の子供だ。祖父母や曽祖父母が、同じように縄をなうのを見ていたらしい。
「うちに来いよ、みんなで競争しよーぜ!」
 無邪気にそう言って、廉や梓たち、分校の仲間を家に誘った。
 みんなと一緒に、巻き込まれるようにして訪れた悠一郎の家は、古い大きな家だった。使用人を何人も抱える、廉の祖父の屋敷程ではないけれど、山奥の小屋の何倍もあった。
 友達の家に遊びに行くのは初めてで、廉はカチコチになっていたが、優しく穏やかに迎えられ、少しずつ緊張をほぐしていった。
「こ、こ、こんにち、は」
 たどたどしい廉の言葉に、顔をしかめられることもない。
「よう来たな」
 背中を丸めた悠一郎の曽祖父は、しわだらけの手のひらで廉の頭を撫でてくれた。
「ひいじい、縄のない方教えて!」
 悠一郎のはしゃぎ声に、彼の曽祖父が「おうおう」と笑う。
 背筋を伸ばした厳格な祖父とは、随分違う。同じ老人でも色々なんだなぁと、少しだけ祖父を懐かしく思った。

 悠一郎の曽祖父を囲み、みんなでわいわいはしゃぎながら、縄ないの真似事をし――それから更にその縄で、小さな正月飾りの作り方を教わった。
「柊や南天、松ぼっくりなんかを飾るとええぞ」
 曽祖父の言葉に、みんなが顔を見合わせて「わあっ」とはしゃぐ。
 隆也とも作りたい。廉はつたないしめ縄飾りを捧げ持ち、楽しみで、にへっと笑った。
「さあみんな、おやつ食べて帰りなさい」
 悠一郎の母が、盆に山盛りのふかし芋を出してくれた。
「うまそぉ!」
「うまそぉ、いただきます!」
 遠慮など忘れて、芋に飛びつく仲間たち。廉もつられて手を伸ばし、みんなと一緒にかぶりついた。

 芋を食べ終わる頃、悠一郎の母に、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「廉君、お迎えだよ」
 お迎えとは勿論、隆也のことだ。真っ黒な服を着た真っ黒な髪の保護者の顔を思い浮かべ、廉はバッと立ち上がり、土間を出た。
 悠一郎の家の門の前に立つ人影を見て、嬉しさに小さな胸が温まる。
「オレ、帰、る」
 廉のつっかえながらの挨拶に、悠一郎も梓もみんな、「おう、またな」とにこやかに手を振ってくれた。
 みんなに手を振り返し、たたたっと門に駆け寄る廉。
 飛びついて来た少年を受け止め、隆也は軽々と片腕に抱き上げる。いつも通りの力強く温かい腕に、廉は甘えて抱き着いた。

「楽しかったか?」
 響きのいい声に穏やかに訊かれ、無邪気に「うん」とうなずく。
「これ、作った」
 つたないしめ縄飾りを見せ、隆也の整った顔を見上げると、「すげーな、上手だ」って優しい笑顔で誉められた。
「な、南天、とか、松ぼっくり、とか、飾るんだ、って」
 聞いたばかりのことを告げると、「へぇ」って感心したような相槌を貰える。
 隆也は優しい。本性は恐ろしい風体をした黒鬼だけれど、決して乱暴者ではなく、強くて偉大な保護者だ。廉の目を見て、ちゃんと話を聞いてくれる、唯一無二の存在でもある。
 廉は隆也が大好きだ。だから。
「じゃあ、一緒によさそうなモンを探しに行くか」
 そんな優しい提案に、勿論大いに喜んだ。

 隆也が作り上げた、太く頑丈な長縄が谷に渡されたのは、それから2日ばかり後のこと。
 縄には滑車と、小さな屋根つきのやぐらが通され、同じく渡された別の長縄を自力でたぐることにより、やぐらで移動できるようになった。
 野猿と呼ばれるこの装置は、古くは橋を掛けられない場所で、よく使われたものである。
 隆也の手により張られた縄は、わざと高低差を付けられ、ふもと側から渡ることを困難にしてあった。けれど、それも鬼の怪力をもってすれば、何の不都合もないことだ。
 逆に、山からふもとへと降りる時には、高低差を大いに発揮して、ゴウッと滑車を唸らせ、猛スピードで谷を渡る。
 そのたび廉は、やぐらと隆也にしがみつき、「きゃあっ」と楽しげな歓声を上げた。

(続く)

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