予測不能な未来
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そして、そのまま彼の横をすり抜けていく。天華の色気にあてられ、恍惚とした彼を置き去りにして……。
彼にしてみれば堪らない。
残された仄かな甘い香りに、生じてしまった浮かされる程の熱を、持て余しているのだから。
天華はよく、気ままな蝶のように振舞ってみせる。
人を魅了しておいて、簡単には捕らえさせてくれないのだ。しかし、たとえ何度ひらりとかわされても、その魅力ゆえに追いかけるのを止められない。
「はは、ヤバイな……ハマりすぎて、抜け出せなくなりそうだ」
後ろで呟く声が聞こえたが、天華はあえて振り返らなかった。そして止まることなく、勝手知ったる様子で部屋の奥へ進んでいく。
色情的な空気が払拭されほっと息を吐いた天華を、背を眺めているだけの彼は知らないだろう。
直ぐに追いついたバーナードは天華にソファーを勧めた後、茶を淹れるためにキッチンへと向かった。
残された天華は一人、ソファに座り、室内を観察していた。
大人びたシックな内装。
けして派手ではないが、家具一つ一つに存在感があり、凝ったデザインが施されている。
おそらく高級品ばかりだと思われる部屋に、初めのうちは居心地悪さを感じていたものの、最近では全く気にしないようになっていた。
それ程入り浸っているという事実に、天華は眩暈を感じていた。
(これでは、深入りしすぎだ)
――もっと上手く立ち回らなければ、泥沼にはまる。
天華は、気を入れ直すために膝をぎゅっと握った。
「待たせたな」
芳しい匂いと共に、彼が戻ってきた。
目の前のローテーブルに置かれたのは、この部屋にはアンマッチな中国茶器である。
茶盆を置き、どかりと横に腰掛けたバーナードは、足を組んで背もたれに寄りかかった。
「緑茶で良かったか?」
「あぁ、有難う」
熱い茶にゆっくりと口をつければ、コクのあるすっきりとした味わいが広がる。馴染みの味に、頭がすっきりとしていくのを感じた。
ここ――教優地の主流は、ミネラルウォーターと紅茶である。そんな環境の中、馴染んだ飲料を口に出来ることは非常に有り難い。
天華のためだけに、中国茶と茶器を取り寄せ、淹れ方まで独学でマスターしてしまったバーナード。そんな彼の、性格とは真逆の健気とも取れる部分を知ってしまえば、情をわかさずにはいられなかった。
「美味しいよ」
「そうか」
さり気無く口元に手をあて少し横を向いた彼は、きっと照れているのだろう。
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