予測不能な未来
28
「教えてくれると言ったのに……お前が、勿体ぶるからだろ」
機嫌を損ねたかのように、彼を睨み付けながら言い放ってみせる。
自分は他とは違う、お前がご機嫌取りでもしろ。
そういう意味合いを込め、ぞんざいな態度で彼の手を払い落とす。
天華は内心冷や冷やしていた。
彼の怒りが加熱するのではないかと。
「それに……こんな所で、忙しなく求められるのは好きじゃない」
言外に、拒否したのは場所と態度だと仄めかし、彼の出方を待った。
「クク――ふ、ハハハッ」
突然、不気味に笑い出した彼の真意を図り損ね、天華の背中を冷たいものが流れ落ちた。
――どっちだ。
狙い通り上手くかわせるのか、激怒させ手酷く扱われるのか……。
ニタリと笑った彼と視線が絡み、天華は知らずに喉を震わせた。
急速に鼓動の間隔が縮まっていく中――掴まれていた手がゆっくりと開放された。
どうやら上手くいったようだ。
「フッ、それは失礼をしたな、“姫様”。確かに、こんな所じゃあな」
「俺は男だ」
「分かってるさ。でもここじゃぁ、天華程綺麗な奴は他にいないぜ」
「アジア系の顔が、珍しいだけだろ」
「そうじゃない。顔だけじゃなく……お前の全てがイイんだ。その小憎たらしく睨みつけて来る意思の強い瞳も、愛らしい唇から吐く甘い毒も」
彼は、天華の頬をそっと撫でながら言った。
「中で……ゆっくりしてけ」
そのまま頬の上を滑り落とそうとした彼の手を、天華の白い手がさっと捕まえた。
そして、さっき彼がしたことを真似る。
手首に、それから指先1つ1つに、羽のようなキスを落とす……それで終わり。
そう思わされ油断していた彼の小指は、天華の口腔に咥え込まれていた。
生暖かい湿った感触に、甘い期待が彼の頭を過ぎったことだろう。
だが――。
ガリッという嫌な音と、一泊遅れてきた痛みにそれを裏切られた。
天華が彼に、牙をむいたのだ。骨が軋むかと思う程、遠慮の無い凶暴さで。
「つ――ッ」
反射的に引こうとした彼の手を、天華は強引に退き止めた。そして今度は、癒すように優しく舌を這わす。
挑発か、誘惑か。
彼を流し見る瞳は妖しく光り、赤い口元が艶かしく蠢いた。
「ふっ、お返しだ」
最後に、掠れた声で耳朶をくすぐるように囁いてから、天華は彼の手を開放した。
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