予測不能な未来
30
こういう時ばかりかは、年下の可愛さを感じてしまう。天華は彼に気付かれぬよう、くすりと笑った。
二人の茶杯が空けば、今度は天華が茶を注ぐ。
天華の優雅な所作を見詰める彼は、真剣そのもの。完璧主義の彼は、こうして学ぶことを怠らないのだ。
三杯目を注ぎ終わった頃、バーナードの方から本題を切り出してきた。
「で――何を聞きたい?」
唐突な切り出しに、天華は僅かに瞳を揺らした。わけもなく、茶の下に透ける茶杯の底を見詰める。
望んでいた情報が手に入るという緊張と焦りからか、掌が汗ばむのを感じた。
――何を聞こうか。
彼処との接触はどの程度図れたのか? 彼処のシステムや状況に変わりがあったのか? 否――
「山崎首相は……現政権は、揺らがないのだろうか? 政権交代したら、今後の日本は大きく変わってしまうだろう?」
まずはこれでいい。
バーナードの目をまっすぐ見つめ、ゆっくりとした口調で天華は問うた。
「親父は揺るがない。少なくとも俺はそう信じている。 ただ、野党を始めとした反対派――いわゆる過激派が勢力を伸ばしてきているのも事実だ。終には与党の中にも過激派の考えに賛同する者まで出始めた」
(やはりな)
今までバーナードから得た情報から、天華には現状維持が難しいだろうことは予想がついていた。
役人になった時点で与えられる事実は三点。
一つ、旧日本国と日本人は現在も存在する。
二つ、旧日本国の詳細は大臣クラス以上の機密事項とする。
三つ、旧日本国総裁は、新日本国総裁としか交渉しない。
バーナードは難関試験と言われる役人試験の合格者であり、役人資格保持者である。今後、役人教育プログラムに選抜され、課程を修了した時点で役人となることが約束される。ただし、禁固刑以上に課された場合、その時点で資格を剥奪される。
スクール卒業までは、役人候補生として、現役人の傍について勉強することを許可されるため、そこで得た情報を天華に流しているのだ。バーナードの得る情報は役人と同等程度、もしくは、実父である総裁の傍で見聞きしたことに、運がよければそれ以上の情報が転がり込むこともある。勿論、情報漏洩が明るみとなれば、刑罰を問われることもある。
バーナードは覚悟の上、天華の堅実さを信じて話しているのだ。
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