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LOGICAL×BURST
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By マギー
2020-04-09 12:29:50




#000『それに名前をつけるなら』




『この雪。冷たくないんだな』



『・・・おじさんだあれ?』



『おじさん、じゃなくて。お兄さんね』



『お兄さんだあれ?』



『内緒』



『どうして、まふゆの領域にいるの?』



『君に会いに来た』



『まふゆに?』



『なあ。雪って。本物は冷たいんだよ』



『冷たいの?』



『冷たくて寒いの』



『まふゆの雪は、寒くないし、冷たくないよ』



『君が知らないからだろうね』



『そうなの?』



『多分』



『お兄さんは、どうしてまふゆに会いに来たの?』




『見たことがなかったから』



『そうなんだ』



『そう』



『まふゆはね、パパとママを探してるの』



『見つかりそう?』



『ううん。でもね、魔法使いさんがね「ゆめ」を持ってたら、そのうち会えるって言ってた』



『・・・そっか』



『まふゆのゆめは、かぞくみんなで、ご飯食べることなの。ほんとは、もっといっぱいあるけど一番はそれかなあ』



『じゃあ、練習がてら。俺と一緒にご飯食べる?』



『練習するの?』



『必要なら』



『必要かなあ?』



『君は、どうしたい?』



『・・・難しい』



『困ってるね』



『魔法使いさんも言ってた。大事なのは、まふゆがどうしたいかなんだって。でも、まふゆに決めるのは難しい』



『ああ。善悪の基準が無いからね』



『練習した方がいいかなあ?』



『予行練習って。案外役立つよ』



『そうなの? じゃあ、やってみる。よろしくおねがいします』



『オッケー。ならお手を。お姫様』



『まふゆ、お姫様じゃないよ』



『そう? 俺にはそう見えるけどな』



『なんで?』



『さあ。何でだろうね』




温度の無い真っ白な雪。
無知から形成された虚無の世界。
破るのは容易く、彼女が如何に
不完全な存在なのかがよく判った。
造り物。紛い物。まさしく出来損ない。
けれど差し出された小さな手は柔らかく
まるで人間のようだった。




『ねぇ。お兄さんは、誰なの?』



『タナトスって。言うんだ』



『たなとす』



『そ』



『たなとすは、まふゆのパパとママの事、なにか知ってる? パパとママ見たことある?』



『あるよ』



『ほんと?』



『うん。だから君を見にきた』



『パパとママは、どこにいるの?』



『内緒』



『どうして?』



『まず、予行練習するって言ったろ? 君は何も知らない。わかってない。それじゃあパパやママをガッカリさせちゃうかもしれないよ。そんなの嫌だろ? だから、少し勉強して。それから会っても遅くないんじゃないかな?』



『勉強するの?』



『嫌なら無理強いしないけどね』



『・・・まふゆが勉強したら。パパとママ、喜ぶの?』



『賢い子なら親も鼻が高いんじゃないか?』



『・・・。じゃあ、がんばる』



『あはは。単純だな』



断罪者の羽。悪道の血。あとは寄せ集め。
実に質の悪い危険分子だ。
あの世界に存在する『人形師』の
技術によって製作された傀儡。
生命への冒涜に他ならない。
あいつらの色恋沙汰に
ついて回る不都合の一環だが
これまた少し依怙贔屓をした。
世界は異なれども。自分と愛すべきものの
子供だと思えば、多少。甘やかしたくなる。
俺の中にさえ、そんな感情があったのだと知って
これじゃあ揃いも揃って悪魔失格だな、と
少しばかり、落胆したけれど。





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By マギー
2020-04-08 03:31:21



#000『彷徨える傀儡と魔女の困惑』



『───つまり。両親を探してうろうろしていたら。偶然、吉崎と出会って、ここを紹介された訳だな』



『うん。じげんとうなら力になってくれるって』



『まったく。うちは興信所じゃないんだがね』



『こうしんじょ?』



『まあ。いい。で、マフユ。君はその「両親」に会って何がしたいんだ?』



『わかんない』



『・・・判らないのに会ってどうするんだ?』



『どうしよう?』



『・・・ふむ』




その日、私の穏やかなティータイムを
ぶち壊したのは少し異質な訪問者だった。
白い羽を生やした幼い少女。
稚拙で悪意は無く。ただただ無垢。
偏に『両親に会いたい』と言う。
親を探し回る子供。けれど
それが一目で『不穏』だと
わかってしまうのが少し悲しく思えた。



『目的を果たすには理由付けがいるよ。それが紛れもない、君自身の意志だと言うなら。ちゃんと理由を作らなきゃならない。君を「作った人」とやらがインプットしたものに、ただ従うだけでは報われないよ。君が、何をどうしたいかが大切なんだよ。マフユ』


『大切なの?』



『ああ』



『・・・じゃあね。じゃあ、ママにぎゅうってされたいなあ。あとね、パパと一緒にお昼寝したい』



『ほう?』



『それとね、パパとママと。ごはんが食べたいなあ。本で見たの。かぞくは、みんなで一緒にごはんを食べるんだって』



『・・・そうか。それは。素晴らしい目標だな。それなら、きっと。君の両親も喜ぶと思うよ』



『パパとママ喜ぶの? なら、まふゆも嬉しい』




己が何者なのか。何故、両親に会いたいのか
それすら判らない哀れな『傀儡(かいらい)』
彼女を造ったものが凡そ碌でもない奴なのは
すぐに見当がついた。
吉崎が、彼女を此処にやったのは
もしかすると本能的に
彼女を救おうとしたのかもしれない。
自分とよく似た『紛い物』を。



『魔法使いさん』


『ん?』



『まふゆのパパとママ、どこにいるかなあ? いつ会えるかなあ?』



『・・・残念ながら。私にも判らないが。君が、もし。今日描いた、その「夢」を。ずっと。大切に持ち続けたら。そのうち、会えるんじゃないだろうか。純粋無垢な願いと言うのは。運命を引き寄せるものだよ』



『ほんと?』



『ほんとさ』



『じゃあ、もっと頑張る』



『ああ、そうだね。偉いな。君は』




『ありがとうございました』と
小さなお辞儀をする彼女は
私の提示した答えに満足したのか
嬉しそうに微笑んで
そのまま、姿を消した。
ひらりと一枚。白い羽を残して。




『・・・』



『───何故。あの娘の両親を探してやらないんでやす、愁水?』



『烈将・・・聞いてたのか』



『目に入りゃ、ひとまず誰でも救おうとする貴女が。はぐらかすなんて珍しい』



『彼女の両親は。ツガイドリだ』



『・・・あー。それはそれは。愛もそこまで行けば大したもんでやす。まさか男同士で子を成すとは。いやあ奇跡でやすねぇ』



『馬鹿言え。魔物じゃあるまいし。有り得ないよ。あの娘は確かにあの二人の遺伝子から形成されてるが、子供じゃない。傀儡(デク)だ』


『操り人形でやすか』


『ああ。人間のなり損ない。何を媒体にして作られたのかは判らないが。とても質の悪い存在だよ』



『・・・危険分子だ、と』



『悲しい事にね。だが、まだ目醒めていない。彼女が脅威になるなら処分すべきだろう。けれど。今は。あまりにも無垢だから。汚したくないと思った』



『子供に甘いのは貴女の甲斐性でやす。悪いとは思いやせん。が、ほどほどに』



『そうだな。けど。一番悪いのは。そういう無垢を平気で利用する、腐れたゲス野郎共だと思うのだがね』



『ええ。それは、同感でやす』



『こう言う事をするのは大体。神気取りの思い上がった愚か者だ。それが誰なのか。なんとなく察しはつくが。きっと、奴が何とかするだろうさ。私が出る幕じゃない』



『タナトスですか? どうでしょう? 彼、なかなか薄情でやすから』



『いや。あれでいて、なかなか愛が深いぞ、あの男は。それを認めたがらないだけで。その気になれば、いい結果を出す筈だよ』



『何故そう思うので?』



『同一存在の方を、見てたらわかる。あの狂気は偏に愛情から来るものだ。質量が尋常じゃない』



『あー。つまり独占欲が異常で。執念深くて、しつこい男だと?』



『まあ。悪く言ったら。そう言うことだね』




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By マギー
2020-04-06 15:43:37


#000『傀儡と竜の些細な邂逅』



その日は、何だか妙に怠くて
夕方からベッドに入った。
多分、体質から来る不調。
年がら年中満身創痍の俺が
こうなるのは、そんなに珍しくない。
時計はPM4:15を表示してた。
瞬く間に微睡んで意識の底へ。
だからきっと。夢だったんだと思う。
はっきり『夢』だと言い切れないのは
何となく。得体の知れない『何か』が
見え隠れしていたから。
それが何なのか形容出来ないから
不思議な夢だった。
で、片付けてしまう訳だけど。




『だいじょうぶ?』


『・・・え?』


『具合わるそう』


『え、と』


『どっか痛いの? 病気?』


『いや・・・えーと。君は? つか、此処どこ? 今の時期に冬景色って。時幻党じゃないよな・・・俺、部屋で寝てなかった?』


『寝てたから連れてきた』


『・・・』


『ここは、まふゆの領域。おうち帰りたい?』


『・・・いや、うん。帰りたいけど。その前に。まず、君は誰?』


『まふゆ』


『まふゆちゃん?』


『うん』


『そっか。じゃあ。まふゆちゃん。君は何者? 何か背中から羽生えてるみたいだけど、天使とか、そーゆー感じなのかな?』


『違うよ』


『じゃあ何?』


『まふゆはね、まふゆ』


『答えになってねぇんだよなあ・・・』


『まふゆはね、パパとママ探してるの』


『ん? パパとママ? 迷子?』


『そしたらね、大きなとかげが具合悪そうにしてたから、見にきたの。病気かなって』


『とかげ!?』


『うん』


『俺が、とかげに見えたの?』


『うん』


『・・・とかげ・・・一応、竜なんだけどなあ・・・』


『りゅう?』


『あ、いや。まあ。つまり俺を心配して見にきてくれた訳だね。ありがと』


『具合なおった?』


『お陰様で治ったよ』


『良かった』


『で、まふゆちゃんは。何で両親探してんの? 迷子か何か?』


『わかんない』


『は?』


『わかんないけど、まふゆはパパとママに会わなきゃいけないの』


『判んないの?』


『うん。りゅうは、まふゆのパパとママ知ってる?』


『どんな人?』


『ママはとっても綺麗で優しいの。パパはとっても強くて何でもできるの』


『ヒントが少ねぇなあ・・・』


『まふゆも、それしか知らないの。でもね、会ったらわかるよって。誰か言ってた』


『・・・誰か?』


『まふゆを作ったひと』


『え? それはパパとママじゃないの?』


『違うよ』


『うーん、何か複雑だな。俺には難解な話かもしれねぇ』



まふゆちゃんは。俺の隣に座って
『パパとママどこにいるのかなあ』と呟いた。
色白で。髪はサラサラで。
人形のように無機質な瞳をしてる。
人じゃないってわかるのは
人間特有の気配や匂いを感じないから。
背中に生えた四枚の白い羽は。
天使を思わせる。
本人は違うと言うけれど
これは。多分。そういう類の『何か』



『じゃあさ。まふゆちゃん。時幻党に行ってみなよ。あそこなら君の力になってくれるかもしれない』



『じげんとう?』



『誰かに会ったら。吉崎から聞いたって言やぁ、何とかなるよ・・・多分(最初に会うのがゲス魔王とかでなければ)』



『りゅうは、よしざきって言うの?』



『そうだよ。水鏡吉崎。だから、俺が「竜」って言うのは内緒ね』



『内緒? うん。わかった。言わない』



『君の両親、早く見つかるといいね』


 
『うん』



そう、頷いて『ありがとう』と笑った。
何処かで見たような。そんな顔で。
誰かに似てると思ったけれど
それが誰なのかは。判らなかった。
彼女が実在するのか、俺の夢が作り出した
ただの幻影なのかも定かじゃないが
気がつくと。俺はやっぱり
自室のベッドで寝ていた。



『・・・夢、か?』



鮮明で、けれどどこか突拍子もなくて。
不思議な余韻に包まれる。
ふと、ベッドサイドの時計に目をやると。
『PM4:20』と表示されていた。




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