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LOGICAL×BURST
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By マギーさん
2019-11-07 10:48:11



#000『エトランゼの憂鬱』



星を数え、花が綺麗だと謳う。
そんなものは満たされた人間の幻想だ。
悲しみを嘆くのも、人を哀れむのも
『幸せ』を知っているからこその。



『とうさま、これ何ですか?』


『ん?』


『よるへるちゃんが持って来たのです』


『・・・ああ、それは』



無邪気な使い魔は、いつかの子供達。
好奇心旺盛で悪戯ばかりする。
俺の部屋にあったペンダントを
勝手に持ち出したらしい。
愛娘が。不思議そうに俺に差し出した。


『昔。パパがママの誕生日祝いに。プレゼントしたものだよ。ここを開くと中に彼女の好きだった花の花びらが入ってるんだ』


『ふぉおお! 凄いですねぇ』


『形見になってしまったが・・・こうして眺めてると色々思い出すんだよ』


『ふふふ、思い出のいっぴんですか。つまりこれは、かあさまの宝物だったのですね!』



何にも知らない娘は。無邪気に笑う。
俺が彼女から何を剥奪し
どれほど、憎まれていたのか。
何にも知らないから。幸せな光景を描く。
いや。間違ってない。
きっとこの子の知ってる世界は
俺達の間にあった現実とはかけ離れている。
とても複雑で。有り難い事だった。



『そうだね、きっと。そうならいいね』



『そうなのです!』



『・・・そう、か』



はい、と頷いた娘の頭を撫でた。
彼女とよく似た笑い方をする。
花がこぼれるような。そんな。
その笑顔を見てると
酷く胸を焼かれてしまう。
何一つ守れなかった、あの日の自分を
消し去ってしまいたくなる。



『ヨルムン』


『はい』


『じゃあ。これは君にあげるよ』


『え?』


『シャウラによく似てるから。きっと似合うよ』



『だ、だめなのです。思い出の宝物は大事にするのです!』



『うん。大事だから。ヨルムンにあげる。君は、俺よりもっともっと大事にしてくれるだろ?』



『・・・、』



『おいで。つけてあげる』


『いいのですか?』


『いいんだよ。ヘルにもフェンリルにも。ちゃんと俺の宝物を渡すから。君達だけ。特別にね』


『とくべつ・・・』


『そうだよ。大事な大事な、俺の子供達。その証』



『ふふふ・・・とうさまの「特別」何だかとっても嬉しいのです。ありがとうございます。私、ずっとずっと大事にするのですよ!!』



『うん、ありがとう』



思った通り。よく映えた。
目に浮かぶいつかの光景。
これを渡した時、シャウラは。
そうだ。シャウラは・・・笑っていたっけ。
俺は何処までも身勝手で
最後まで不甲斐なかったけれど。
時々、彼女は。笑ってくれたな。
こんな俺に。笑いかけてくれた。


『とうさま』


『ん?』


『では、私。これをとうさまにあげるのです』


『どうしたんだい、これ。懐中時計じゃないか』


『はい。おヒゲさんがくれたのです。おヒゲさんの部屋を探検していたら、なんかキラキラしてたから、これ何ですかって聞いたらくれました』


『真木の?』


『はい。これはですね、なんと、まりょくを吸収してしまう魔族にとってはとても恐ろしい代物らしいのですが、電池切れだから大丈夫って言ってました』



『電池で動くの? これ・・・』



『私の宝物ですが、とうさまと交換するのです。あ、電池は入れたら駄目ですよ? とうさま、干からびちゃう』



『うん、気を付けるよ。ありがとう』



『はい!』



平和な。とても平和な。
ある日の出来事だ。
この悲しみから解放されることはない。
この痛みが消え去ることもない。
ただ、ほんの少しだけ。幸せの形と。
そこに在るぬくもりを知っている。
満面の笑みを湛える娘につられて俺も笑った。
こうして、いつかのように
また笑えるのだから
俺はもしかすると。
今。少しばかり。幸せなのかもしれない。







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By マギーさん
2019-10-21 09:21:58



#000『薔薇姫様と青春☆ツガイドリ#1』


退屈は窮屈。死よりも恐ろしい時間の浪費。
どうせなら有意義に使いたいものだわ。
そう、例えば。少し冒険をしてみるとか。



─お姫様の感慨─



『薔薇姫は、またこんな所で寝てるのか』


『きっと姫も疲れていらっしゃるのでしょうから。たまには、そっとしといてあげましょう。』


『この場所が好きなのは判るが。窓辺で寝ていたら風邪をひく』


『今、ブランケットをお持ちします』


『頼む』



夢うつつ。うっすらと聞こえた執事の声。
そのあとは。心地のよい微睡みの中。
(彼の声は少しお父様に似てる)
そんな事を考えながら、ゆっくりと
夢の中に落ちて行く。



※※※※※※※※



『いぎゃああああっ』


『・・・あら、やだわ』


『・・・最近、こう言うカオスに対して耐性がついてきてるとは思うが。流石にこれは超展開すぎる』



ゆめうつつ。文字通り
夢の中に落ちてしまったようで
気がつくと何処かで見覚えのあるクソ野郎が
わたくしの下で潰れていました。



『ごめんなさい。少し気を抜いたせいかしら。まさか、こんな所に落ちるなんて』


『・・・空から女の子が降って来る映画なら知ってるが。部屋の中にゴスロリの幼女が降って来るのは想定外だな』


『うふふ。長生きしてますと、色々な事柄に遭遇しますわ。こう言う邂逅こそ「貴重な経験」って言いますのよ』


『確かに貴重だが。心臓には良くないな。で、君は一体、何だ? あからさまに人間じゃないだろ』


『ああ、そうでした。お初にお目にかかります。わたくしはヘル。薔薇と腐食の女王。悪神ロキの娘にして、冥界を統べるもの。お見知りおきを』


『ロキの娘・・・?』


『ええ、ですから大丈夫ですの。何も言わずとも全て判っていますわ。アナタはわたくしのお父様で、わたくしの下で伸びてるコレは、何処かのいけ好かないクソ野郎ですわ』


『娘、か。なるほど』


『あら、意外。ちっとも驚きませんのね?』


『いや。多少は驚いてるが・・・なあ。君に姉か妹はいないか? こう、ふわふわした感じで、少し幼い喋り方をする。桜色の髪をした・・・』


『それは、ヨルムンお姉様ですわ。厳密に言うとどちらでもないのだけれど、可愛いからお姉様ですの。イザヤ様は、お姉様に会った事がありますの?』


『会ったというか・・・少し前に。妙に現実感のある不思議な夢を見た事があって。その中で───』


『ああ、なら。空間接続を受けたのですね。それは大魔導師様の魔法ですの。夢と悲しみ、貫かれる強い意志だけを経由してお城に招かれますのよ。もしかすると、お姉様が呼んだのかもしれませんね。お姉様は寂しがり屋だから・・・』



『なあ。話の最中に悪いが。薔薇姫。そろそろ退いてくれないか。重くて死にそうだ』


『女性に対して重いだなんて。アナタは異世界でも失礼なのね。屍王』


『いきなり人の上に降って来るような子に言われたくないな』


『不可抗力よ。わたくしのせいじゃないわ。勝手に此処へ飛ばされてしまったんだから』


『勝手にって・・・冥界から出られないんじゃなかったのか、君。確かどこぞの神に呪われてただろう』


『ええ。出られないわ。だから身体はヘルヘイムで寝てる筈よ。これはわたくしの夢なの』


『・・・』


『多分。お父様と、時幻党の魔法の残留物が影響を及ぼしてるんじゃないかしら。以前、時幻党に召喚された事があるのだけれど。それから時折、こんな風に夢の中に落ちてしまうようになったのよ、わたくし』


『白昼夢を経由する大魔導の魔法と、ロキの万物干渉か。どちらも強大な魔法だからな。その両方を受けた事があるなら何らかの影響を受けていても不思議ではないが・・・何故、よりにもよってこの世界に・・・っていうか俺の上に』


『そうね。わたくし、最近。寝る前に読書してるんですけど。先日まで、ある禁書を読んでいましたの』



『禁書?』



『「ツガイドリ」アナタがたの低俗下劣な愛憎血みどろ劇ですわ』



『当事者の俺がこんな事言うのも何だけど。寝る前に、なんつうもんを読んでらっしゃるのですか、薔薇姫様・・・』


『大丈夫。わたくしこれでも成人してますわ。ちょっとやそっとのいかがわしいものなんて、冥界にはありふれてますし。見慣れてますの』


『冥界怖い・・・』


『───悪い、二人とも。そろそろ話についてけないんだが、つまりどういう事だ?』


『イザヤ様はアカシックレコードをご存知よね? あの本には幾つかの複製品がありまして。代表的なものは「ルキフグス」という愚か者が作った完コピ本で、彼が所有してますの。もう一つは「ヴィルヘルム・タナトス」が作ったアナタがたの事だけを抜粋した、まあ総集編みたいなものね。題して「ツガイドリ」お父様が持っていたみたいだけど。巡り巡ってうちに寄贈されましたの』


『ああ、だから。俺達の事を知ってるのか』


『そう言うこと。アナタがたの、ありとあらゆる軌跡が綴られていますから。趣味嗜好性癖の果てまで熟知しておりますわ』


『別世界とは言え、娘にそれを把握されてる父親と言うのは。流石に考え物だな』


『うちの執事の声がね、お父様に少し似ているの。それで、夢うつつに。久しぶりにお父様に会いたいわって思って眠ったら、此処に落ちてしまったのよ。お父様は多忙な方だし、敵も多いから、なかなか会えないけれど。まさかこんな形で、若かりしお父様に会えるなんて。ちょっとした奇跡ね』


『君はロキに会いたかったんじゃないのか?』


『そうね。けれど貴方だって。お父様に変わりないわ。この世界ではお母様に出会えなかっただけで。出会っていたなら、きっとまた同じように。燃えるような恋をした筈だもの』


『・・・燃えるような恋、か』


『貴方がテスタメントに持ってるような、根深い愛情を。そっくりそのまま与えられたのがお母様なのだから』


『そうか。ならロキは・・・もう一人の俺は。幸せだったんだな』


『あら。イザヤ様は今、幸せなの?』


『幸せだ』


『そう・・・それは、嬉しい事だわ』


『イザヤ・・・』


『でも』


『ん?』


『少しばかり爛れていませんか、貴方達』


『『はい?』』


『何かにつけてアンイヤンバカンと。中身の無い性描写が目立っていますわ。もっとこう手を繋いでデートをするとか、二人で映画を見に行くだとか。些細な日常を楽しむような、そう言う幸せがあっても良いのではなくて?』


『なんだ、その少女マンガみたいな恋愛観』


『貴方達の恋愛観こそ、やまなしおちなしいみなしで成人未満が閲覧できないとされている自費出版の薄い本みたいですわ』


『なんだそれ?』


『俗物の話さ。イザヤは知らなくていいんだよ』


『ですから、貴方がたには少し甘さが足りないのですわ。もっと糖度の高いツガイドリが読みたいのよ、わたくし』


『悪いが薔薇姫。内容に関するご意見ご要望は受け付けていないんだ』


『優先順位を知ってます?』


『なんの?』


『現実を改変する魔法。大魔導が所有する電子の海による事象改変が一番に影響しますの。次にお父様のサリエルを使った万物干渉。あれは死と闇を経由しますから、命ある所。あらゆるものに入り込む』


『何が言いたいんだ?』


『わたくしは、今。そのどちらの影響も受けた上で夢を見ていますのよ。貴方たちの現実より、上位に位置しているって事』


『・・・猛烈に嫌な予感がするんだが。何を企んでるんだ、薔薇姫』


『夢ってね。都合がいいんですのよ。何をしたって夢なのだから。と言う事で。お二方。少しわたくしと遊びましょう?』








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By マギー
2019-05-23 03:29:58
#000『一葉落ちて天下の秋を知る』




思えば幾らでも。そう幾らでも。
救える瞬間はあった。
闇が垣間見えた、その瞬間を
取り繕ったりせず。ただ真っ直ぐに向き合い
きっと。手を差し伸べるべきだった。
自らが、そうされたのと同じように。




《・・・お前、非道いな。心がぐちゃぐちゃじゃあないか。汚い。醜い。荒んでいる。私なんかより、ずっと────》




『余計なお世話だ』




執拗な銃声。圧倒的な暴力。
彼の過剰なそれは、時折。外に出て来る。
止めるのが俺の役割でもあった。




『指揮。もう十分です』



『・・・。あー。そうね』



その加虐が顔を出す時は
どんな表情をしていたのか。
いつも見えなかった。
彼、愛用の悪趣味なサングラスは。
色々な不都合を隠そうとした結果だ。
けれど目の前に立ちはだかったとしても
俺にその闇が向いたことはない。
『あの日』までは。一度だって。




『ねー。眼帯って煩わしくない?』



『ええ・・・って。言うか、テーブルに座るのやめなさい。行儀悪い』



『外しときゃいいのに』



『・・・みっともないでしょう。こんな傷のある顔。どうせ見えもしないし。いいんです』



『開かない訳じゃないんだろ?』



『開きますよ』



『勿体ないねぇ。お前の赤い眼。結構いい感じだったのに』



『・・・そりゃどうも』



『氷堂に会いたい?』



『・・・』



『最近。有寛が荒れてるって。桐己がぼやいてた』




『荒れてませんよ、別に・・・ただもどかしいだけで』




『確かにもどかしいねぇ。掴めそうで掴めない。なんて。俺みたいじゃない?』



『瀬戸の場合は。凡そが掴めないでしょう。透けてるし』



『ん?掴みたいなら。実体化するけど?』



『いいです』



『掴もうと思えば。掴めるだろうし。そうじゃなけりゃ。そうじゃないままで終わる話なんだろうねぇ』



『?』



『大事なのはさあ。きっと。自分が何をしなかったとか。何も出来なかったとか。そんな過ぎ去った事じゃなくて。今は何をしてるか、どうかって事なんじゃない?』



『・・・』



『結果なんて後からついてくる。んで、その結果も。いずれは過ぎ去ってく。今は。もどかしいって凹んでるのかもしれないけど。後であーだこーだ悔いるぐらいなら。毎日必死になって。最善になるよう、悪足掻きしておくべきだと思うわけ』




『・・・。明日は大雨でも降るんですかね。瀬戸が真面目な事を言ってる』



『最近みーんなギスギスしてるから。少し優しくしてんの、俺は。俺にだってね。多少はあるんだよ?倫理観ってやつ』



『初耳ですね』



『うん。俺も最近知った』



『・・・付き合い長い筈なのに。知らない一面ばっかりが。増えていきますね。みんな・・・』




『だね。けど人間って。変わるんだよ、有寛』




『良くも悪くも、ね』



『そ。氷堂だって。ホントはすっげー根暗なくせに。俺達の前では、ああだったろ?あれって。自分を演出してた訳じゃん?で、今になって、それが。素に戻っちゃってるんだけど。変わろうとしてたんだろうな。あいつなりに。結局さ、耐えきれず元に戻っちゃったみたいだけどさ。お前は、それを許容できる?』



『・・・』



『あの暗い。やさぐれ氷堂が帰ってきたとしたら。どうする?もっとギスギスするかもよ?』




『どうもしませんよ。隣にいます。僕は、彼の。あの人の。補佐ですから。死ぬまで、ずっと』



『わお☆』



『・・・人間。変わらないものだってあるんでしょう、きっと』



『そ。正解』



『あの人が暗くなったら。それが彼だと言うなら。僕がその分。明るく振る舞えばバランスは取れるでしょう?』



『あはは。明るい有寛なんて、ちょっと怖いかもしんない。でも。お前。ホントいい奴だねぇ〜。お人好しって。言うんだぜ、そーゆーの』



『・・・忠誠心と言ってください』





人間じゃない俺を人間にしたくせに
自分はそれをやめようなんて
そんな無責任なことさせるつもりはない。
瀬戸は『なら、大丈夫じゃない?』と
ヘラヘラ笑って姿を消した。
不思議の国のアリスに出てくる
あの猫のように。
時折、惑わし。時折は慰めにも来る。
あの人以上に掴み所のない
そう言う男だが。
今のは、多分。優しさだったのだろう。




『ありがとう』




とっくに姿のない彼に一言残し席を立った。
少し背伸びしてから。
窓の外を見やる。雲一つもない。
小さな溜め息を吐き出して
また、今日の悪足掻きを再開することにした。



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