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k
MとKに関する記録
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07-04 20:52
箱を開けると、中には古いリボンが入っていた。

Mは髪をほどいてリボンを見比べた。
箱の中のリボンは褪せてはいるが、薄い桃色をしていた。

私のと同じだわ。Kのだろうか。Mは思った。
Kは私の髪を結ぶばかりで、リボンを使った所を見たことが無い。

リボンは4本入っていた。

同じのが4本。全部Kの?
違う気がする。
でも、じゃあ、誰の。


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06-15 00:11
磔刑

少し前から雲が切れて光が差している。
晴れた空はとても珍しいので、仕事の手を休めて青さを観察した。

地下室の本で見たように、船が通ると面白いのにと思う。
あの切れ目から、誰かが覗いたり、何かがやってきたり。



その日からしばらく、ゼルは雲に幻影を見る。
コッツも光の中にそれを見た。
蝶の透かし模様で縁取られたそれは、南西に現れ、金色の血を流し続けていた。


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05-21 01:22
きいろいばら


緑色の雨が降ったせいか、島の色が薄い。
赤かったばらがきいろくなっているとMが騒いでいる。
Kの雨よ、Mが言う。

昨日泉に靴を落としたから、何かに触れてしまったんだわ、夕べのお祈りは忘れなかったけれど、靴はそのままにして逃げてしまった。
私は影を盗まれる。
雨は私の一部みたいね。
倒れたまんま動けない。
Mが花を持っていた。
雨に洗われてきれいなきいろのばら。
身体が重い。
MがKは死んじゃうの、なんて騒いでる。
雨の音がする、身体が重い。
重い、違う、透けてなくなっている。
私、そこに無い。
Mが雨を掬って持ってきた。
それが私だってMにも分かるのね。

雨を飲むと、腕が少し戻った。
Mは救われたような顔をして、また外へ雨を掬いに行った。
かわいそうなM。雨は島中に降ってるの。流れて海とも混じるのよ。取り戻したはずの腕は、もう雨になってしまったの。
ほら、もう、あと少しで無くなるわ、ぜんぶ。

服だけ残るなんて。かわいそうなM、服に雨をかけたって、仕方ないのよ。私のことを早く忘れてお眠り、M。
Mの頬を触る。指が通り抜ける。感覚が無い。Mは気づかない。残ったワンピースをくしゃくしゃと抱えて泣いてる。

私が拡散していく。
ばらを触ると赤色が溶けた。
地面の下を、海に向かって転げていく。
ざあざあ、ざあざあ。
泡とうねりに飲まれる。
屋根をすべる。
これは私の腕、これは私の足、波の中に私、地面の中を転げていく。
私、島、海、私。私の指、腹、髪、海にも、島にも、ああ、どこまでも私なの。なのにMは気が付かない。
どうやって息をしていたんだっけ、私はどうやって私だったんだっけ。どこまでも私、海の彼方なんて知りたくないの、島の全ても知りたくないの、島、海、土、潮、私はどこにいけばいい。



やっぱり罰だったんだわ。
私は泉で目を覚ます。
真夜中の匂いがしてる。
辺りは乾いていて、雨が嘘のよう。
実際嘘なの、雨は私だったんだから。
拡散して、浸透して、私に戻ったの。
手探りで靴を探す。水がとても冷たい。
昼間集めた石が光っている。
靴はまだそこにあった。
靴を拾って家へ向かう。
家の明かりは消えている。
Mは眠ったのかしら。元通りを望んで眠ったのかしら。
砂を踏んで歩く。私はもう砂を通り抜けたりしない。
私と砂は違う。
花に触る。まだきいろい。でも、きいろもすき。髪に挿して歩く。
蕾んだハマナスをつんでMの冠をつくる。
花の色はもう溶けたりはしない。



寝室へ入ると、私のベッドでMが眠っていた。
私の服を握ったまま、丸くなっている。
ただいま。頬を触って言う。
花の冠を頭に乗せてやった。
寝返りをうったらつぶれてしまいそう。
Mは起きない。
仕方ないからMのベッドに入る。
髪飾りのばらはまくらもとにおいた。
正しい場所で眠らないと、朝が来てもばらは元に戻らないのよ。
そう思ったけれど、夜が開けたら、もう一度一日をやり直せばいいの。
それを私は知ってるわ。

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05-20 01:05
井戸


井戸の水は冷たい。

Kが言うには、昔、女の人が沈んだそうだ。
島から出られなかったその人は井戸が外への入り口だと信じ込んだ。
それで沈んで行ったとも、たくさんの宝石を持っていたその人が、最後に月を欲しがって、取ろうとして落ちたのだともいう。
二人の人が沈んだのか、Kが私をからかっているのか、とにかく水は冷たくて、一人で覗き込んでいると、私の顔の横に、誰かが映るような気がしてる。


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05-20 00:57
塔の中

眠る彼女と同じ夢を見ているみたい。
今も、これは、ゆめ。

Mは岬にいる。それが分かる。
私のあの場所にいるんだわ、見えてるもの。
Mが欲しいなら、あれをあげてもいいけれど、欲しがらないことは知ってる。
Mがあの箱のことを聞いても、教えてはあげない。
でも聞いてこないことは分かるの、意地を張ってるんだわ。
それでいいの、Mも私も。
Mのことなら確かに分かる。
ここがどこだか分からなくても、Mのことだけ確かに分かる。

  のもので残っていたのはあれだけ。
  の私、私は箱の中、  の側で眠る。
  、名前が思い出せない。  、誰というの、もどかしい。
 、  ! イゼル、あなたじゃないわ!
名前、思い出せない。


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05-20 00:51
造花のばら

家の入り口に咲いているのは、うその花ってKが言ってた。
井戸のところのもそう。
遊んだ後は、海に流すのだけれど、島のものは次の日になると、元に戻っている。
夜中じゅう起きていて、ばらが元に戻るのを見ていたいけれど、いつも眠くなってしまう。
寝ないと朝が来ないよってKが脅かすし、とても気になるけれど、眠る。


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05-17 01:04
「きりん」

塔の中で見つけた本。
知らない言葉が、どうしてか読める。

小さな島に一頭のきりんがいて、寂しかったきりんは、飛行船を食い破った。
破れ目からは女の子が二人落っこちた。
きりんの他には何もない島で、二人の女の子は途方に暮れる。
破れた飛行船は、沖まで飛んで、それから沈んでそれっきり。
二人の女の子は途方に暮れる。
電話をかけても、受け取る両親はもういない。
島にはきりんの他には何もいない。
きりんは女の子達に話しかけたけど、あんまり大きな体だったから、女の子達には、きりんが見えない。
声は突風と轟音。
きりんが手に入れたかった飛行船は、沖で沈んで戻らない。
二人の女の子にはきりんが見えない。
寂しかったきりんは前よりもっとさびしい。
きりんは雲を食べるのを止めた。
すると空が低くなった。
空に押されてきりんは縮む。
きりんは潮を飲むのを止めた。
すると海が大きくなった。
海に攫われてきりんは縮む。
島ほどにきりんが縮むと、女の子達はきりんに気が付いた。
どこからきりんがきたのだろうと、姉妹は話し合う。
姉妹の他に何も無い島なのに。
そうしている内に、まげても腰を下ろしても、世界に閊つかえていた長い長い首が、ぽきりと折れた。

姉は折れたきりんの首を、海の際に埋めた。
妹は残った胴を、島の中心に埋めた。

それぞれきりんを食べたから、二人はだんだん大きくなって、雲を裂いて、海を跨いで、よそへ行った。

その後にできたのがこの島。


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05-15 01:13
青い光は輪や列と形を変えながら、ゆっくりと動いている。
「あれも水妖なの」彼女は言った。
「レペというの」姉は答えた。
「呼んだら来るの」縁に手をかけて身を乗り出す。
夜と海の先に青い光が揺れている。
「そうね、でも気に入られたら、レペになってしまうのよ。そうして毎日死んだ魚のお弔いをするの」
あれが踊ってるのでないなら、私はそんなものになりたくない。彼女は船底の毛布に包まった。


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05-15 01:06
「鍵」

 た は、いいえ、わた  ちは、その ち えて  う  い。
  に くの ろ 。
おも ぬ ろか  、彼女 ニェ 言 がみ かる こ がある。
私 の  てお た 。
 

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05-13 00:31
朝、井戸のところのばらが一斉に咲いた。
数を数えると、ちょうど同じ数だけ分けられる。
部屋に飾ろうか、髪に挿そうか、冠を作ろうか。どうしよう。
彼女は冠が欲しいといって、枝を折り始めた。

大きなばらは、とてもきれい。

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