[携帯モード]
[URL送信]
メッセージの編集
お名前
ホームページ
本文
きいろいばら 緑色の雨が降ったせいか、島の色が薄い。 赤かったばらがきいろくなっているとMが騒いでいる。 Kの雨よ、Mが言う。 昨日泉に靴を落としたから、何かに触れてしまったんだわ、夕べのお祈りは忘れなかったけれど、靴はそのままにして逃げてしまった。 私は影を盗まれる。 雨は私の一部みたいね。 倒れたまんま動けない。 Mが花を持っていた。 雨に洗われてきれいなきいろのばら。 身体が重い。 MがKは死んじゃうの、なんて騒いでる。 雨の音がする、身体が重い。 重い、違う、透けてなくなっている。 私、そこに無い。 Mが雨を掬って持ってきた。 それが私だってMにも分かるのね。 雨を飲むと、腕が少し戻った。 Mは救われたような顔をして、また外へ雨を掬いに行った。 かわいそうなM。雨は島中に降ってるの。流れて海とも混じるのよ。取り戻したはずの腕は、もう雨になってしまったの。 ほら、もう、あと少しで無くなるわ、ぜんぶ。 服だけ残るなんて。かわいそうなM、服に雨をかけたって、仕方ないのよ。私のことを早く忘れてお眠り、M。 Mの頬を触る。指が通り抜ける。感覚が無い。Mは気づかない。残ったワンピースをくしゃくしゃと抱えて泣いてる。 私が拡散していく。 ばらを触ると赤色が溶けた。 地面の下を、海に向かって転げていく。 ざあざあ、ざあざあ。 泡とうねりに飲まれる。 屋根をすべる。 これは私の腕、これは私の足、波の中に私、地面の中を転げていく。 私、島、海、私。私の指、腹、髪、海にも、島にも、ああ、どこまでも私なの。なのにMは気が付かない。 どうやって息をしていたんだっけ、私はどうやって私だったんだっけ。どこまでも私、海の彼方なんて知りたくないの、島の全ても知りたくないの、島、海、土、潮、私はどこにいけばいい。 やっぱり罰だったんだわ。 私は泉で目を覚ます。 真夜中の匂いがしてる。 辺りは乾いていて、雨が嘘のよう。 実際嘘なの、雨は私だったんだから。 拡散して、浸透して、私に戻ったの。 手探りで靴を探す。水がとても冷たい。 昼間集めた石が光っている。 靴はまだそこにあった。 靴を拾って家へ向かう。 家の明かりは消えている。 Mは眠ったのかしら。元通りを望んで眠ったのかしら。 砂を踏んで歩く。私はもう砂を通り抜けたりしない。 私と砂は違う。 花に触る。まだきいろい。でも、きいろもすき。髪に挿して歩く。 蕾んだハマナスをつんでMの冠をつくる。 花の色はもう溶けたりはしない。 寝室へ入ると、私のベッドでMが眠っていた。 私の服を握ったまま、丸くなっている。 ただいま。頬を触って言う。 花の冠を頭に乗せてやった。 寝返りをうったらつぶれてしまいそう。 Mは起きない。 仕方ないからMのベッドに入る。 髪飾りのばらはまくらもとにおいた。 正しい場所で眠らないと、朝が来てもばらは元に戻らないのよ。 そう思ったけれど、夜が開けたら、もう一度一日をやり直せばいいの。 それを私は知ってるわ。
設定パスワード
編集する
削除する
無料HPエムペ!