ご指名は?1.5 日常の日常
2022.01.12(水) 02:56
「くく...どうしたの?」
「んーーーー....」
現在。深夜。菜太朗くんの部屋で、一匹大きな白い"イヌ"がいる。
イヌといっても人間のくくさんだが、菜太朗くんのすぐ横で横になって丸まっているのは、いかにも動物らしい。
長い髪が、渦巻くように長身のくくさんの周りを覆っている。と、左肩が動いた。
「シテ...???」
と、ここで、菜太朗くんはくくさんに顔を近付ける。
「..ちょっと前に隼人に奉仕して(ムチでたたいて)もらったのに?」
菜太朗くんの表情は、いつもの、くくさんに向ける優しいものではなかった。猫目でジト目。だが、純粋な瞳だった。
「..ふふふんッッッ♪♪♪」
はっ、
と菜太朗くんは目を見開いた。多分、くくさんは自分が"嫉妬した"ものかと思い込んだから。
だって、くくさんは、割とこういう時意外と何も言わずに口角を上げるだけ。それを菜太朗くんは誰よりも知っているつもりだったから。
それに菜太朗くんが気付き、そのつもりなくても..ついうっかり、怒りの様子を見せてしまった。つもりなくても、それは明確に"クロ"であった。
「...いいよ、縛ってあげる。」
すると、菜太朗くんは、普段(心の中で夢主様に)悪魔野郎と言われている事実を覆しかねないほどの、純粋な天使の表情を見せた。
「おいで、くく。」
大天使サマもこれにはびっくり。そして、その腕を広げた。若干高校生とは思えない包容力で、彼を迎えようとする。微笑みが、聖なる者のようだった。
「ゥゥゥウウウッッッもっと拒絶ゥゥゥゥゥゥッッッ!!!」
と、菜太郎くんの太ももに乗っかりいつもの拒絶希望タイム。通常の人の甘えただったら、ここで胸に飛び込んでくると思われるが、彼はそうもいかない。
フフ、と菜太朗くんは笑った。いっそくくさんは自分に甘えてくればいいのに、と思うけど、そう思った自分に心を痛めた。
「.....うるさい。ブタ。」
急に菜太朗くんは冷たい声を出した。わざと。菜太朗くんは自分でも、演劇部に勧誘されてもおかしくない、と思っている。
「おぉうおおおおおッッッ!!!もっと!!!もっとおおぉおおおおッッッ!!!」
ちょっと待ってね、とついまたくくさんの頭を撫でてしまう菜太朗くん。ヘッヘッヘッと、菜太朗くんのそのクセには慣れてしまっておしおきを待つ長身の"イヌ"、くくさん。
縛り始める時、少し指が震えていた。
菜太郎くんはそれに気付きつつも、気づかないふりをした。
くくさんはこういう時、自ら服を脱ぐ。ババッと、速い。
菜太郎くんの目の前に現れた、最愛の友だちの逞しい、男体。
まずは、縛り始める。
自分の手によって縛られていく友だちのくくさんの体は、赤くなり、アザが出来そう。
ーーーー好きだよ。
菜太郎くんは、心の中の親友に、棘を刺すように想った。
好きだよ。好きだよ、好きだよ....
呪縛のように、何故か心の中で、菜太朗くんは繰り返す。頭が重い。本当は、こんなこと、したい、訳じゃない。頭が下がる、首が下がる。
ーー ーきっと僕は馬鹿なんだ。
こんな事、多分、恐らくだが..理屈じゃあまり、シテハイケナイ、事。
君の前でだけ、馬鹿になるんだ。
純粋な君が、好きだから...。
それが僕にうつっちゃうんだ。好きだ。くく....
君が好き。
くくは、友だち。誰よりも好きな、心の底から愛している友だち。
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