[携帯モード] [URL送信]


第二の人生


4

樹海を眼下に翼を鳴らし、到達する魔城。
切り立つ崖の上に立つ城は夕陽に赤く様相を変えていた。

東側の離れ、塔の前に降り立つと同時に背中の黒翼は元の外套に姿を戻す。
目の前の扉は触れるまでもなく開き駆け込む魔王は、障害無く奥へと進んでいく。

目的の“寝室"へ通ず回廊に及んだ時点で視覚に訴えかける異変に胸が軋んだ。
開け放たれた寝室の扉、そこからはみ出した獣の半身。


「陛下、」
「俊也!!」


王の気配に忠臣が声を掛けるが、遮るようにして王の慟哭。
平静ではあまり動く事の無い眼球が目まぐるしく動くのは、居る筈の者を探す為。
寝具、捲れた布団、存在感の残る布地の皺。

彼は居ない、家具の陰にも、どこにも、全神経を解放した王に感じられるのは己と獣の所在のみ。


魔王の表情に苦みが走り、眉間に刻まれた獰猛な皺がその心中を物語っていた。
拳を堅く握りしめ、魔王の豊満な黒髪がざわざわと蠢く。
発せられる負の圧力に部屋中が家鳴り、照明が音をたてて粉砕。

獣の忠臣は、見たことの無い、主の剣幕に恐怖した。
冷静沈着で常に堂々たる魔王が、怒りを露わにした事など、無い。
前例の無い事態に対処する術を持たず、魔王の忠臣はただ身体を僅かに萎縮させるに留まった。



<<>>

44/56ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!