第二の人生 4 樹海を眼下に翼を鳴らし、到達する魔城。 切り立つ崖の上に立つ城は夕陽に赤く様相を変えていた。 東側の離れ、塔の前に降り立つと同時に背中の黒翼は元の外套に姿を戻す。 目の前の扉は触れるまでもなく開き駆け込む魔王は、障害無く奥へと進んでいく。 目的の“寝室"へ通ず回廊に及んだ時点で視覚に訴えかける異変に胸が軋んだ。 開け放たれた寝室の扉、そこからはみ出した獣の半身。 「陛下、」 「俊也!!」 王の気配に忠臣が声を掛けるが、遮るようにして王の慟哭。 平静ではあまり動く事の無い眼球が目まぐるしく動くのは、居る筈の者を探す為。 寝具、捲れた布団、存在感の残る布地の皺。 彼は居ない、家具の陰にも、どこにも、全神経を解放した王に感じられるのは己と獣の所在のみ。 魔王の表情に苦みが走り、眉間に刻まれた獰猛な皺がその心中を物語っていた。 拳を堅く握りしめ、魔王の豊満な黒髪がざわざわと蠢く。 発せられる負の圧力に部屋中が家鳴り、照明が音をたてて粉砕。 獣の忠臣は、見たことの無い、主の剣幕に恐怖した。 冷静沈着で常に堂々たる魔王が、怒りを露わにした事など、無い。 前例の無い事態に対処する術を持たず、魔王の忠臣はただ身体を僅かに萎縮させるに留まった。 <<>> [戻る] |