第二の人生
5
やがて王の堅めた拳が開き、圧が弱まる。
憤怒の形相は去っていた。
だが、合わせた主人の瞳に獣は、それは束の間の安堵だと悟る。
「状況を言え」
消えたと思われた圧力はすべて魔王の両眼に、たたえる仄暗い光は赤く、有無を云わさぬように臣下に問う。
「俺が来た時は、もう」
言葉遣いに余念。
操られた獣に自律の回路は許されない。
「心当たりは」
「ニオイ、“東"の土、人間、…魔、族」
ぶつ切れの単語は、魔王の脳内で整列する。
王は顔を逸らし、獣を視界に入れぬまま言う。
「隊を組み直し“東"へ向かえ」
部屋を出て行こうとする魔王、が、一度足を止め、振り返らず一言。
「ソルトを伴え。奴から目を離すな」
足早に姿を消した。
次いで拘束の解けた身体で獣は呟く。
「ソルト…、あいつが関係しているのか……?」
疑念が重なる。
裏切り者、
東国の土、人間と魔族の匂い、
ソルト、
消して好ましくは思っていない同僚だが、それこそ生まれた時から見知っている外交官。
脳内を交錯する主の言葉に獣は低く呻いた。
そして、鋭敏な嗅覚が察知した灰色の存在に、ざわつく苛立ちが身体を侵食していく。
「何をしやがった、あの馬鹿…!!」
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