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瞬×悠里   【もう一度だけ】



【もう一度だけ】




今日は少し出掛ける用事があって隣街まで行かなければ行けなかった俺。
「はぁー…」
何だかんだで頂いたせっかくの休みなのに、身体を休めることなど出来やしないまま一日が終わっていく。
耐えかねた自分からは溜め息が漏れた。


そんな一瞬に。
俺の後ろを通り抜けた影。
俺の脳内に残る残像。
そして一時期、過去には―――毎日一緒にいた、あの人の香り。

もう離れてしまって、
忘れたくて、もう忘れられたかと思っていた今。


貴女の香水の香りが俺の脳内をかき乱し
楽しかった思い出、悲しい思い出がつい先ほどのことのように思えるくらいはっきりと思い出される。


「みなみ、ゆ…うり」
素敵な響きだと思った。
俺を、愛してくれた人。
こんな俺に、「優しさ」を教えてくれた人。


まだ、覚えてるよ?
君の手の温もり、優しさ、暖かさ。
忘れるって言ったけど、忘れることなんて出来ないんだよ。



人ごみの中で一人。
先ほどの影は人波に流され、もう見えない。
忘れるって言ったけど、忘れることなんて出来ないんだよ。
忘れた、振りをするしかないんだよ。






「まだ…覚えてる?」
その残像が、残像でないかたちで僕の隣に。
見失ったはずの影が、僕の隣に。


「偶然ね。みんなは元気にやってるのかしら…?」
作り上げられた笑顔だ。
見るからに無理をしている。
――「もう別れよう」
二年前位の言葉。
二人で決めた事とは言え、時間と共にその答えに疑問が生まれたのも勿論で。
「…あ、ああ」
「ねえ、瞬くん。」
懐かしい眼差し。
そうだ。ずっと言わなければいけない事があった。
「良ければもう一度…俺の傍に、居てくれないか?」
「…私もそう、思っていたところよ。」

あの日の俺は、もう君のことを守れないと思ったんだ。
だから、手放してしまった。
だから―――一緒に居た時間が充実し過ぎていたせいか―――忘れた振りをし続けてきた。
だけど、俺は、もう君のことを忘れることができないよ。
これからは、ちゃんと守るから。
一緒に居られなかった時間を埋められるように。






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20090629


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あきゅろす。
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