慧×那智 【去っていく背中に】 【去っていく背中に】 真奈美に頼まれた大量の書類を持ちながら、慧は生徒会室へ急ぎ足で向かっていた。 それにしても書類は重いし、8月というようなうだるような暑さのせいで少し気が緩んでしまったのかもしれない――それは所詮言い訳に過ぎないが。 廊下を反対側からにこにこして歩いてくる人影を見つける。そう、見慣れた――「那智、どうしたんだ」 「慧に会いたくなっただけ〜、それにしても多い荷物だねー、こんなに慧に持たせるってなに考えてんだろ」 そう言って、少し持つよと視線が訴える。 申し訳ないとは思いながら、その言葉に甘えてしまう。 持っている書類の半分にも満たないくらいの量を手渡したとき――那智の顔が歪むのを見た。 「な、那智、どうした?!」 慌てて声を掛ける。 「大丈夫だよー」 口ではそう言うものの、その細い綺麗な指先には赤い、血が滴っていた。 そう、僕の不注意によって那智は指を切ってしまったのだ。 どうしよう。そう思った。 だがその次にはほぼ本能的に…紙を廊下に置かせ――那智の指を舐めた。 「ちょ、兄さん?」 困ったような顔をする那智。 「舐めると傷が治りやすくなるんだ、すまない、那智。」 すると那智は顔を綻ばせ、僕を追い越しスキップしていった。 本当に申し訳なくは思っているのだが――目の前に積まれた書類を見て、那智と二人で運ぼうと思っていたことを思い出し、一人書類をまとめることから始めた。 ---------- 20090826 [*前へ][次へ#] |