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神様とのキャッチボール
2.その名は神様
「神様だって?」


「うん、神様。この青空に浮かんでる……あの白い雲でお仕事してたんだ」


 自称神様は白い雲を一つ指差した。指差した白い雲は少年が狙った雲だった。


「変なことしたつもりはないんだけど突然頭がぐわ〜んとして気がついたら落ちてたんだ」


 少年は、自分はものすごいものに当ててしまったと思った。


「あれ? 君の持ってるそれって……」


 自称神様は少年の手元を指しながら話し掛けてきた。少年が持っているものはグローブとボールである。少年はもしやこのボールが当たったことに感づいたのかとドキドキしだしだ。


「野球してたのかい?」


 当てた、という言葉が含まれていなかったので、とりあえず少年は一安心した。


「野球っていうかキャッチボールだね。一人で投げて取るの繰り返しだけど……」


「キャッチボールか。いいね。してるのを見たことあるけど実際にしたことはないんだよね」


「したことないの!? でも一人でやってるボクも偉そうなこと言えないか……」


 後半の一文は小さくなり自称神様の耳まで届いていないようだ。届いていない原因は声の大きさだけとはいえないが。自称神様の目はキラキラと輝いている。


「地上で起きていることを知るために見ることは自由なんだよ。でも実際にものを投げることは許されてないんだよね」


「神様っていうのもけっこう厳しいもんなんだね」


 自称神様の顔には暗い影がさしてきてしまった。


「そうだ。一緒にキャッチボールやらない? ここでは誰の許可なんていらないさ♪」


「いいのかい?」


 少年の一言で自称神様は顔を上げた。さらにキラキラした目で少年の顔を見ている。


「あ……でもグローブ一つしかないよ。ボクは持ってないし」


「これは君が使いなよ。ボクは相手がいないっていっても取り方は分かってるつもりだしね」


「そっか。じゃあ遠慮なく使わせてもらうよ」


 自称神様はにこにこ顔で少年がしていたように左手にグローブをはめた。少年はボールをお手玉のように少し浮かせてパシっと勢い良く取った。


「どんなことをするかは知ってるんだよね? 一度軽く投げてみるから取ってみて」


 少年は自称神様に投げ方を見せるようにゆっくりしたモーションでボールを投げた。ボールは少年のモーションと同じくゆっくりしたスピードで弧を描きながら飛んでいった。


「うわっち」


 自称神様は飛んできたボールに手を伸ばしたが、目をつぶって後退りしてしまい尻餅をついた。その様子を見た少年はあわてて近寄った。


「大丈夫かい?」


「うん!」


 自称神様は満面の笑みで顔を上げてグローブをこれ見よがしに少年に近づけた。グローブの中には野球ボールがすっぽり納まっていた。


「やったじゃないか!」


「うん!」


「じゃあ次は投げてみようか。軽くていいからボクの方にまっすぐ投げてね」


「うん!」


 少年はさきほどと同じところに戻っていった。少年が自称神様に手を振ると自称神様は少年と同じようにゆっくりしたモーションでボールを投げた。一連の動作におかしなところはなく最後のポーズも決まっている。


 少年は自称神様の動きに納得したあとボールがどこにあるかを確認しようとした瞬間、反射的に構えていた手を引っ込めて体も屈めた。元少年の腕や胸があった位置を轟音・轟風をまとったボールが通過していった。自称神様はどうやら自称ではないのかもしれない。


 少年は思った。次からはグローブをしようと。

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あきゅろす。
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