神様とのキャッチボール
3.流れ星
神様が落ちてきて数日たった。もともと筋がよかった神様。それることなくキャッチボールを続けている。今の二人はとても楽しそうだ。
しかし異変は唐突にやってくるものだ。
「ねえ、神様」
少年は受け取ってから少し間を作ってボールを投げた。
「なんだい?」
「今地球に巨大な隕石が近づいてるんだって。もう回避も破壊も不可能なんだって」
空の様子からはそんな恐ろしい状況は伺えない。神様が落ちてきた日のように、大きな青空が広がっているだけだ。
「そうだったんだ……」
今度は神様が投げるまでに間を作った。
「だからね……このままだったらね……もうキャッチボールできなくなっちゃうんだよ」
少年は手に持ったボールを強く握り締めた。力を強く込めたせいか少し震えている。神様も何か言いたげではあるが始めの一言が出てこない様子だ。
「ねえ……神様なら隕石なんかどうにかできるでしょ? 神様は神様でしょ?」
「ごめん。今のボクには何もできないんだ」
神様の言葉に少年はボールを落としてしまった。少年は神様ならどうにかできると信じ、それを心の支えにしていたのだ。
「ずっと何か変な感じはしてたんだけどね……」
神様が独白を始めた。
「今のボクはね、神様といってもなんにもできないんだよ。空の上にいてこそいろいろできるんだ」
「なら空に戻ってちょちょいとやってきてよ」
「ボクも簡単に行き来できるならしたいよ。でもボク……戻り方分からないんだ」
「神様なのに?」
「ごめんね。こんな神様で」
「ううん。大丈夫だよ。それより戻れればどうにかできるんだね? それならボクに考えがある。必ず神様を空に戻してみせる」
「ホントかい? でもまずはボクがいた雲を見つけなきゃいけないよ。あれは世界中を回らないといけなく、ルートはランダムで今どこにあるか分かんないよ?」
「え? あれじゃないの?」
少年は当たり前といった顔で空を指差した。
「何言ってるんだよ、そんな上手い具合に……」
神様も上を見上げた。
「あ、ホントだ」
神様は自分を探すために雲が来たのだと気づいた。なんの変哲もない雲がぽつんと浮かんでいるだけが、どうやらあれが神様の雲らしい。
「これで雲の心配はなくなったね」
少年の顔にやっと笑顔が戻ってきた。
「最後に一つ……」
「なんだい?」
「雲に戻ったらもう君に会えないんだ」
「何言ってるの? いつだって戻ってくればいいじゃないか」
「こんなのでもボクは神様なんだ。神様もけっこう厳しいって前に言っただろ? そんな自由に降りてくることはできないんだ……」
少年の顔にも神様の顔にも影が指した。しばらくして神様は顔を上げた。
「ごめんね。こんな神様じゃダメだね! それで君の言った帰り方って?」
神様は顔を上げたが少年はまだ顔を下げたままだ。
「イヤだ!」
「っ!? なんだい突然?」
「もう神様と会えなくなるなんてイヤだ!」
「そんなこと言わないでくれよ……。ボクだって君と会えなくなるのイヤだよ! でも……ボクは神様なんだ。君を助けたいんだ!」
風だけが二人の間を通り過ぎていく。
「君の考えた方法って?」
少年は黙って神様の元まで近寄ってきた。
「うわっ、ちょ……」
少年は神様を砲丸投げをするような格好で担いでしまった。
「これでいいの? こんなんでいけるのかい?」
「大丈夫。きっとできるさ」
「ふふっ。君が言うんだ。大丈夫な気がしてきたよ」
「そのグローブはあげるよ。それを見てたまにボクのこと思い出してね」
「ありがとう。落ちてきたのが君のそばでよかったよ」
「……バイバイ」
「バイバイ」
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