二次創作/夢
戦慄!共闘!激闘!
「旋空だと思ってくれてラッキーだった…はー怖かったもう正面切って当たりたくない………」
メイントリガーは利き手用とされているが、サブトリガーと性能の差は無いので反対の手で使っても何ら問題はない。利き手にオフにしたメイントリガーの弧月、反対にメイントリガーの拳銃を握るのと、利き手にメイントリガーの弧月、反対にサブトリガーの拳銃を握るのと、見た目は全く同じ(・・・・・・・・)だ。攻撃が斬撃か弾丸かでかなり対応は異なってくるので、相手を混乱させるのにはもってこいである。これを上手く利用できないかと考えた絲は、生駒に教えを請う中で旋空の構えも利用できることに気が付いた。それが今回の攻撃に繋がったということである。
しかし、絲の要望で通常より短めにカスタムしてあるとはいえ、やはり片手で重みのある弧月を扱うのは骨が折れる。そのため絲はベルトの腰後ろに横向きで鞘をくくり、抜刀時の突っ掛りを限りなく0に近付けていた。より深く体をひねる必要があるものの、横向きにすることで鞘を抑える予備動作が要らないので片手がフリーになる。これこそ絲の求める究極の理想のために確立されたスタイルだが、その理想の攻撃は一度しか成功していないのでまだ先は長いと言えるだろう。
さて、それはさておき。ひとまずこれで一番暴れさせたくない人は落とせたか…と絲は息をついた。が、先程撃ち抜いた瞬間に小躍りして煌めいていた22万の数字のことを思い出し、言い知れぬ不気味さに背筋が冷たくなる。
(なんで撃ち抜かれてんのに喜んでたんだあの人…怖……)
ヒビ割れた体からトリオンを大量に放出しつつ、太刀川は目を弓なりにしならせて笑っていた。そこには不意を突かれたことへの苦さも悔しさも無く、ただただ純粋に喜びだけが宿っていたと絲は捉えている。
多分生粋のマゾとかではなくバトルジャンキーだからこその反応なのだろうが、もう太刀川さんとは当たりたくない…と絲は未知のものを前にした恐怖に体を震わせるのだった。それはそう。しかし悲しいかな、今後彼女を待ち受けているのは太刀川に絡まれる未来である。遠くで実力派エリートがゴメンね!と軽く手を振った。助けろ。
バッグワームを換装し直してからレーダーを確認すると、嵐山と歌川が二人揃って画面から消えている。自分が捕捉されていると見て間違いないだろう。ますます気分が重い。一仕事終えたことだし、無理はしないでおこうと内部通信を飛ばす。
〈イコさん、状況はどうですか?〉
〈お、カワイイ志島ちゃん。片付いたんか?〉
〈はいカワイイ弟子ですよ。こっちは何とか…それはともかく、嵐山隊二人を中央に引っ張ってって良いですか?流石に連携の上手い二人相手はキツいです〉
〈おん、むしろ大歓迎やわ。ダブル旋空なんて面白いと思うんやけど、どう思う?あと師匠はまだ名乗れないって言うたやん〉
〈まあ何回でも弟子自称するので慣れてください。じゃあ出来ればそれで、無理そうなら切り換えましょ〉
〈出来ればダブル旋空、了解。待っとるで〉
オペレーターに嵐山と歌川が進んでいるであろうルートを示してもらい、その延長線上を中央に向かって走る。のんびりした声音だったが、生駒は今一人で荒船と三浦を相手取っているはずだ。
夕焼けのオレンジが段々と藍色に侵食されていく。この調子だと生駒の元へ辿り着く頃には暗視を入れた方が良いかな、とオペレーターにその旨をお願いしつつ絲は先を急いだ。追ってきている二人は、どちらも厄介なトリガーをセットしている。嵐山はテレポート、歌川はカメレオン。もしこのまま捕まったら挟撃される上、一人を対処している間に不意を突かれること間違いなしだ。特殊戦術を得意とする器用な者同士が近くで合流したのは不運でしかない。
〈志島先輩、今ええですか?〉
〈なんかあった?〉
〈なーんも。弓場さんが出合い頭に米屋先輩落としてからは出水先輩と散発的にぶつかるくらいですねえ〉
〈いやあるじゃん。米屋落としてるし出水と戦ってんじゃん。呑気か?〉
〈いやー、あの早撃ちはほんま流石ですわ〉
〈お前…〉
〈で、偶然鳩原先輩見つけたんやけど…中央取れる位置に向かってますね〉
〈ウワまじか…分かった。警戒する〉
〈出水先輩はできるだけなんとかするんで、イコさんといい感じに数減らしといてくれます?〉
〈…まあやることはやる。ありがとね〉
隠岐からの通信に耳を傾け、絲はげぇっと顔をしかめた。鳩原の狙いは三チームがぶつかる瞬間だろう。狙撃を警戒して動きが鈍ればその隙を他チームは見逃さないし、かといって狙撃のことを完全に排除して戦うのはリスクが高過ぎる。いい感じに数減らせって、隠岐お前。心の中で文句を垂らしつつ、再び生駒へ通信を繋いだ。
〈イコさん、今二車線道路で住宅を背にしてますね?飛ぶんですぐ合流できますよ〉
〈後ろ来とる?〉
〈来てます来てます。合流したらスイッチしましょ〉
〈そっちかーい!ダブル旋空ええと思ったんやけどな〉
残念ながらダブル旋空はお預けです、と言うと同時にグラスホッパーを起動する。パッ、パッ、と軽く音を立て二階建ての家を飛び越えつつ、背中にシールドを広げた。思った通り嵐山と歌川がそれぞれ撃ってきている。なんとか回避して生駒の横に着地する直前で片腕を組み、背中合わせに位置を入れ替えた(・・・・・)。ぐるん、と視界が回って目を見開いている荒船と三浦が絲の攻撃圏内に入る。生駒と絲は同時に深く構え、弧月の鞘を掴んだ。暗視モードの瞳が薄ぼんやりと光っている。
生駒の正面には嵐山と歌川、絲の正面には荒船と三浦。傍目からすればニチームが挟撃しているような構図だが、彼らは回避を選択して後ろ向きに跳躍した。
「旋空弧月」
生駒の静かな声が響くと同時に、湾曲した光の線が嵐山と歌川を襲う。射程40mにも及ぶ旋空弧月の回避は肉迫していた二人には難しいはずなのだが、嵐山は左腕・歌川は腹部に浅く傷を負う程度だった。代わりに旋空を食らった街灯がズズン、と轟音を立てて道路に倒れる。これで辺りはすっかり夕闇に包まれた。あれ躱されてしもた、と生駒がのんびりと呟く。
一方、絲は太刀川の時同様拳銃で荒船と三浦を射撃していた。奇襲は成功かと思ったが、先に落ちた太刀川から隠し撃ちの件を聞いていたらしく僅かに初動が早い。荒船も三浦も銃撃の可能性を捨てておらず、即座にシールドを展開していた。しかし絲が使っているのは誘導弾(ハウンド)のため、曲線を描いてその軌道が変わる。荒船は上手く弧月にぶつけて相殺したが、三浦は左半身に数弾食らう形になった。
「志島…テメェいやらしい手使うじゃねえか…!」
「いや使えるものは使うでしょ」
「脇下から撃つなんて最高だな!今度教えやがれ!」
「えっ何?どういうこと?」
「志島ちゃんがかっこよくてカワイイ話なんとちゃう?」
「今そんな話してました?ちょ、前見てくださいイコさん」
荒船とは何度か手合わせしているが、この隠し玉を見せたことはない。荒船がアクション映画好きなんてことは全く知らないので、彼が絲のガンアクションに興奮していることが理解できるはずもなかった。何故か嬉しそうな顔で叫んでくる荒船に困惑していると、顔をグリンと回して生駒が文字通り首を突っ込んでくる。集中してくれ。
ちなみに荒船の6万の数値はシュッシュと俊敏に頭上で反復横跳びをしていた。生駒といい荒船といい、空気を緩くしないでほしい。歌川のデジタル時計みたいな縦長スタイリッシュ数値を見習ってくれ頼む。7万8600とかいう値は可愛くないが、まだ動きがない分見た目が優しい。キャッキャしているやつに俊敏なやつ、そしてビカビカミラーボールがいる状況も相まって、絲は風間のズン…と腕組みしているどデカい数値が少しだけ恋しくなった。ほんの少しだけ。
ひとまず挟まれている形から抜け出そうと生駒と共に後退し、道路の上で三チームが睨み合う形となった。これで三対ニ対ニ。思った時に鳩原が撃たなかったなと頭の隅で考え、隠していた拳銃をジャケット下から出す。
〈イコさん、ここから乱戦になると思うんですけど軽い牽制くらいで深追いはやめましょ〉
〈ん?なんでや〉
〈鳩原が来ます〉
〈撃たせるちゅーことか〉
ちらと横目で生駒を見上げ、軽く肯いた。その間に嵐山が突撃銃、歌川がアステロイドで攻撃を開始する。その矛先は太刀川隊の二人であり、特に弾が集中しているのは三浦だった。
「くっ…!」
「クソ、ウザってえな」
荒船も三浦も中距離トリガーをセットしていない。集中砲火されてしまえば、辛くなるのは必然だった。半身からトリオンが漏出している三浦の動きは少し鈍く、荒船が時折カバーに入っている。徐々に距離を縮める嵐山隊に対し、生駒が歌川に牽制を込めて切り掛かった。歌川に代わるように絲が荒船へ銃撃を開始し、三浦から少しずつ離していく。ド、と遠くで音が鳴った。
(来た!)
警戒、の声と共に衝撃に備える。凄まじい光線が三浦―正しくは三浦の手に握られていた弧月を捉えた。ビシリ、と軋んだ音を立てて弧月だけ(・・・・)破壊される。この武器のみを捉える精密な射撃は鳩原のものであり、またあの破壊力は間違いなく彼女が扱うアイビス由来のものだ。弾速が遅くとも当ててみせるこの精確さ、見事と言う他ない。
「―!!相変わらず鳩原先輩の射撃は凄いな…!」
弧月破壊の衝撃で体が傾いた所を、嵐山の苛烈なアステロイドが襲う。シールドが徐々に削られ、多数の弾が三浦の体を通過していった。絲の視界では、早くも落ちると確信したのか三浦の肩で2万8000の数がしょんぼりと萎れている。しわしわブルドックみたいだ。
《トリオン漏出甚大、戦闘体活動限界》
(ああー…葉子ちゃんと華に知られたらどやされそう…)
三浦は肩を落とし、ドンと音を立てて緊急脱出した。
「イコさん、行きます!!」
「おん、任せとき」
絲はすぐさまグラスホッパーで鳩原の元へ急行する。生駒のゆるい声に背中を押されつつ、オペレーターの指示に従って屋根の上を駆けた。狙撃手を落とされたくない嵐山隊は、歌川が絲を追って離脱しようとする。
「カバーします」
「ああ、頼んだ!」
それを阻んだのは生駒、そして生駒と同じく単独となった荒船だった。荒船としては狙撃手を落としてくれるのは有り難いし、勝率は高い方が良い。そういう訳で、一対一対一の三竦みよりも生駒と協力してニ対ニの構図にする方を選んだのである。
「あー歌川それはアカン、アカンで。志島ちゃんみたいなカワイコちゃん狙いたい気持ちはよう分かるけどな」
「え?」
「生駒さん、アンタいつも締まらねえな…」
「しょうがない、歌川!ここは任せよう」
「! 分かりました」
ここからが正念場といったところか。各自気を引き締め、目の前の敵に集中することにした。
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