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二次創作/夢
奮闘!力闘!決着!











「やっと鳩原見つけた…」

「ハハ、見つかっちゃった」

「隠れるの上手すぎない?グラスホッパー二段跳びで上空から見てやっとだったんだけど…」

「いやいや、狙撃手なので」

「そりゃそうだわ」


軽い応酬の後、ドンと銃音が暗闇の住宅街に響き渡る。パッと光の筋が空に弧を描いていくのを見送りつつ、絲はバッグワームを換装した。鳩原を追う途中、オペレーターから弓場の脱落を知らされた為である。スピード勝負で移動していたためバッグワームを使えなかったので、トリガーの再カスタムが必要かもしれない。

出水は間違いなく浮いた駒の自分を狙いに来るだろう。生駒が足止めしてくれたとはいえ、嵐山たちは無理にでも絲を追うという選択肢もあった。しかしそれをしなかったということは、出水が間に合う可能性があると考えていたのだ。
隠岐は恐らく勝ち目のある中央へ移動している。であれば、完全に火力で勝る出水を一人で相手取らねばならないということになる。あー出水か…出水なー…と絲は渋い顔をした。普通に当たりたくない相手だ。ひとまず中央からは離れた位置でぶつかるようにしよ、とまた走り出す。なんか今日走ってばっかだな。


〈私を見捨てた隠岐くーん〉

〈はあい隠岐ですー〉

〈後は任せるけど、いけると思う?〉

〈さあ?〉

〈何日和ってんだ隠岐ィ!鳩原が落ちた今、テメェが肝だろォが。シャキッとしやがれ〉

〈お、弓場さん〉


戯れに隠岐と通信を繋いでいると、ドスの利いた声が割り込んでくる。弓場の言う通り、最早この戦場に狙撃手は一人しかいない。そのアドバンテージを活かさずしてどうするのかということだ。しかし、ヘタに手を出せば即座に潰されてしまうことも事実。他チームからすれば厄介極まりない存在だからだ。とはいえ飄々とした隠岐のことだ、自分の使い所は分かってるだろう。


〈悪かったな、志島〉

〈何がですか?〉

〈出水のことだ。足止めは出来たが落とされちまった〉

〈いえ、そのおかげで不意打ちできましたし。今度は私が出来るだけ足止めしますよ。聞いてた?隠岐〉

〈はいはい〉

〈多分チャンスはそう来ないだろうから頑張ってくれー〉

〈弓場さんと志島先輩の屍乗り越えてきますわ〉

〈言い方よ〉


不意に光が視界を過る。
シールドを展開しながら後退すると、地面に着弾したトリオン弾が炸裂して周囲をえぐっていった。立ち上る粉煙の向こうには、大きなキューブを展開させている少年の姿が見える。


「見っけたぜ、絲さん」

「うーん、見つかっちゃったな」

〈出水と接触しました。できるだけ粘ります〉

〈気張れよ〉


小手調べのメテオラといった所だろうか。こんなんじゃ当たらねえよなぁと口を尖らせている様子は年相応だが、威力が可愛くない。アステロイドのフルアタックを放たれればシールドで身を守るしかできないし、その合間に飛んでくる誘導弾(ハウンド)が嫌すぎる。既に胴体と足からトリオンが漏出しており、このままではまずいと判断した。位置の有利を取ろうとグラスホッパーで屋根上に飛びつつ拳銃で応戦するものの、容易に阻まれてしまう。


「しょうがないな、もう!」

「お!絲さんもフルアタックっすか!?」


両手に拳銃を構えて交互に撃つ。その大半は出水の精確な弾により相殺されてしまったが、視線誘導でシールドを避けたものが幾つか腕を掠っていった。トリオン量が自分より多い彼からすれば微々たるものだろう。出し惜しみしている場合じゃない、と今度は旋空弧月を即座に放つ。出水の横に立つ家屋が斜め切りされ、ずれ落ちた二階部分が彼に向かって崩れ落ちた。ドゴォン、と鈍い音と振動が体を揺らす。土煙の中から光の筋が見えた瞬間、絲はグラスホッパーでジグザグに駆け出した。
が、やはり一筋縄では行かない。追尾弾(ハウンド)が己をいつまでも追ってくるので、足を止めてシールドを展開するしかなかった。


「いやー危ねえ危ねえ。豪快だな、絲さん」

「うわダメージ無いのかい…」


最早呆れるくらい強い。流石天才と言われるだけあってか、黒い隊服をパンパンと払う仕草をする出水に目立った傷はない。旋空をもう一度放つにも、回避に徹して自ら距離を取ったため彼には届かないだろう。もう一度弾勝負かと拳銃を両手に構えようとした瞬間、目の端に光を見た。


「!」


―しまった、利用された!
そう気がついた時にはもう遅い。絲が作り出した土煙と崩れた家屋を急旋回し、バイパーが絲の左横から襲い掛かってきた。

《トリオン漏出甚大》

わざと両手で服を払う仕草をし、攻撃ではなく回避に力を注いだと思わせる。すると相手は自然と攻撃に掛かろうとするため、僅かな間でも守備が疎かになるのだ。そしてその隙に周囲の障害物の影を複雑に通り抜ける軌道を描き、バイパーで油断した相手の不意を突いて穿く。なんとまあ見事なものだ。やはり火力の違いと操作性の高さに押されてしまった。


〈すみませんイコさん、出水がそっち行きます!〉

〈え!ホンマ?〉


視界が光に占領されたと認識した瞬間、体が柔らかなものに包まれる。緊急脱出専用のマットの上に転がった絲は、時間稼ぎあんまり出来なかったなーと一つ息をついた。ぐんと体を起こし作戦室のモニター前に向かうと、弓場が険しい顔をして戦況を見守っている。


「隠岐は位置に付けましたか?」

「それは問題ねェ。中央でも動いたとこだ」

「あ、イコさんすごい」


最後の戦場となっているマップ中央では、生駒が渾身の旋空を放ち嵐山を落としたようだ。手負いとはいえ、面倒な連携持ちの嵐山隊の一角を崩すのは大変だっただろう。絲的には視界をやかましくするミラーボールが排除されたので、モニターが見やすく思える。
嵐山が落ちて以降、生駒は荒船と歌川の様子を窺っているようだ。他二人も大小様々なダメージがあるため、慎重になっているらしい。いわゆる膠着状態になっていた。


「隠岐に狙わせます?」

「…いや、隠岐が動くのはここじゃねェ。お前も分かってんだろーが」

「そうなんですけど…じゃあイコさんには一人で頑張って貰わなきゃですね」


そう話している間にも、出水がどんどん中央に近付いてきている。オペレーターの補助でメテオラの雨を落としているので、その中にいる人たちはウザったくて仕方ないだろう。しかし、その中で一番身軽な歌川は味方の弾を上手く活かしつつ所々でメテオラを放っていた。隙を突くのが上手いな、とその戦いぶりに驚嘆する。ここで苦しそうなのは荒船だ。荒船は嵐山の弾丸によって片腕を削られており、トリオン漏れも然ることながら弧月を握る際にバランスを取るのが難しそうに見える。対して生駒は未だ大きな傷はない。


「よっしゃぁ、いっぱい居んな!!」

「げ、出水―」


勿論そんなことは見てすぐ分かるので、睨み合っている三人を視界に入れた出水が荒船を狙うのは当たり前のことだった。荒船もそれを勘付いていて、最早シールドを張るよりも足掻くことを選ぶ。出水の鋭い弾が体を穿くのと同時、荒船は一歩踏み込んで前傾気味に旋空弧月を放った。


「ぅわ、マジか!」

「一点くらい取んなきゃやってらんねーだろ」

「すみません出水先輩…落ちます」


その軌道が捉えたのは荒船を挟撃しようとしていた歌川である。荒船が先に緊急脱出すると、歌川もすぐそれに続いて姿を消した。

ここでフィールドに残っているのは嵐山隊の出水、弓場隊の生駒と隠岐の三人となった。
生駒は出水から容赦なく放たれる爆撃をうおーヤバいヤバいと避けているが、これは中々厳しい。生駒旋空は射程40mだが、出水はその有功範囲内に立ち入らないよう徹底した立ち回りを演じているからだ。生駒のシールドは徐々に削られているが、まだ落ちていないのが不思議なほど耐えている。いや、耐えられるように弾が調整されているようだ。


「うーん誘われてる」

〈ウオオオオ!俺もうアカン!〉

〈分かってますて、撃ちませんよ〉

〈いや撃たんのかーい!!アッ〉

「あっ」


誘導弾(ハウンド)が上空から生駒の背中に着弾した。アステロイドの中に忍ばせていたようである。威力はやや低いものの、複数当たればダメージは大きい。生駒のトリオン体はピシピシと悲鳴を上げ、警告音が鳴った。体が光りに包まれていく。
ド、と二つの衝撃音が夜空に響き渡った。


〈…よし〉


生駒の緊急脱出によって舞い上がった砂煙の中、出水が立っている。その胸の中央には丸く穴が開いており、トリオン供給器官を的確に撃ち抜かれていた。


「うわーフルガードしときゃ良かったー!やりやがったな隠岐」


ただでさえ夜は狙撃が読まれやすい。隠岐は生駒が落とされること前提で待機し、その緊急脱出の光と音を逆手に取って狙撃したという訳だ。出水とて想定はしていたようだが、通常のシールドではイーグレットを防げない。これに関してはギリギリまで粘り続けた生駒が出水の近くまで迫ってきており、出水が生駒旋空の可能性を捨てきれなかったことが大きかった。最後まで手元に弾を残していたせいで通常のシールドしか張れず、出水は隠岐に撃たれたという顛末である。
ドン、と光の筋が夜空を駆けていく様を見送り、隠岐はサンバイザーの先に指をかけた。最初から最後まで出水を狙い続けたようなものだったが、何とかなって良かったというのが正直な所だ。


「いやあ、自分いい仕事したと違います?」

〈お疲れーギリギリだったね〉

〈俺最後カッコ悪なかった?こんなんイケメンが一人勝ちしたようなもんやん〉

〈やれば出来んじゃねェか隠岐ィ!そろそろ転送すっから待ってろ〉


まるで独り言に呼応するかのようにどやどやと通信が入り、隠岐は目を丸くした。いの一番に労りの言葉を掛けてくれる先輩に嬉しくなって頬を緩める。今回の模擬戦、先輩といっぱい話せたしラッキーやったなあと屋根の上に座って転送を待った。隠岐自身認識できないものの、サンバイザーの上では4万9000の数がじんわりと光を放っている。ぽこんぽこんと小さな明滅するハートがいくつも生み出されては周囲を舞い、彼の浮つく心をよく表していた。絲がそのエフェクトの意味に気が付くのが先か、隠岐が自覚するのが先か。ただ、絲は勝利が決まってからモニターを離れているので、隠岐の数字の変化に目を留めるのはまだ先のことになりそうである。頑張れ隠岐。










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