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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story130 進ム、止マル。


リオナたちが目覚めたのは昼を過ぎてからだった。

なんだかんだで話が盛り上がってしまい、
眠ったのは朝日が昇り始めた頃。

目覚めた4人は女に昼食までご馳走になってしまい、頭が上がらなかった。

リオナに関しては雪華の着物まで貰ってしまった。

4人は少ない荷物をまとめ、
出発の準備をする。

目指すは賢者、更夜のもと。

「世話になったな。何か礼がしたいんだが。」

いち早く準備ができたマーシャが、珍しく自ら女に申し出た。

きっと昨晩の宴まがいのものが相当良かったのだろう。

しかし女は[何もいいよ]と言うだけ。

[言っただろう?私はあんたたちと話ができただけで幸せなんだよ。そんなに礼がしたいなら、また遊びにでも来ておくれよ。]

こんな寛大な人間に今まで出会ったことがない・・・・
と、リオナは目を潤ませた。

[ところで、あんたたち今からどこに向かうんだい。この国は山と川があちこちにあるから分かりづらいよ?雪華はこの国の地理を大体把握してるから案内させよう。]

『そんな、こんなにお世話になっているのに申し訳ない。』

[いいんだよ。何かの縁だ。どうせ世話になるならとことん世話になりやがれってんだ。]

粋な女に、
一同はもう頭が上がらない。

[それに、雪華にも息抜きさせてやりたいしね。で、どこに行きたいんだい。]

女が手をパンパンと叩くと、
昨晩と同じく天井から雪華が降りて来た。

毎度驚かされる。

「それがよ、場所はわかんねぇんだ。」

[もしや人探しかい?]

「ああ。"更夜"って男、知らないか?もしくは"賢者"とか呼ばれてたりする男。」

女は眉間に指を当て、
静かに考え込む。

そんな彼女を、雪華はただジッと見つめている。

[賢者も更夜も私は知らないねぇ。ただ、賢者ではないけど、皆から"薬屋"と呼ばれてる男がいてね。そいつの名前は知らないが、変な噂はよく耳にするよ。]

「変な噂って?」

[そいつにはどんな病も治すことができる力があるらしく、それなりの対価を持っていけば治してくれるとか。ただ、対価ってのは金銭では無いようだけどね。]

その時、
リオナがピクッと反応した。

どんな病でも治せる・・・・もしそれが本当なら、
マーシャの腫瘍も・・。

でも、きっとマーシャは嫌がるだろう。

賢者とかそういう類のものが大嫌いだと前に言っていた気がする。

そもそも、対価が払えなければ意味がないのだ。

『・・・確かに怪しいな。だが、俺たちが探している更夜にそんな力があるのかどうか・・・・』

[ああ、確か噂には続きがあってね。その"薬屋"って男、どうやら何百年も前から存在してるって噂だよ。馬鹿らしいけど。それに突然現れてはすぐに姿を眩ませたり。]

その瞬間、
リオナたちは一つの答えに辿り着いた。

どんな病も治せる力があり、
不老不死で神出鬼没・・・・

間違いない、更夜だ。

するとマーシャは姿勢を正し、
女の前で半土下座をした。

「頼む!そいつのとこに連れてってくれ!!」

[ちょ、あんた。やめておくれよ。]

「お願いだ!俺、ケジメをつけたいんだ!!」

珍しく必死なマーシャの姿に、
リオナはなぜか胸を締め付けられた。

"ちゃんと過去にけじめつけて、胸張ってリオナを愛したい・・・"

マーシャが言ってくれた言葉が蘇る。

今更ながらに顔が赤くなってしまって。

リオナは思わず土下座するマーシャの背中に抱きつくように、背中に乗っかった。

突然のしかかってきたリオナに、
マーシャも驚きを隠せないようで。

「リ、リオナ?何これ新しいプレイ?」

「・・・・違う。あの、俺からもお願いします。教えてもらえないですか?」

リオナも一緒に頭を下げる。

そんな2人に女はやれやれと肩をあげ、
苦笑を浮かべた。

[まったく。いいよ頭なんか下げなくて。でも、その薬屋があんたらが会いたがってる更夜かどうかはわからないよ?それでもいいなら雪華に案内させよう。]

「ああ、頼む!」

マーシャの満面の笑みを、久々に見た気がする。

それくらい、
嬉しそうだったんだ。








[それじゃあ気をつけてね。またおいで。]

女に見送られ、
リオナたちは薬屋に会うために雪華の後に続いた。

それにしても、雪華は本当に無口だ。

なんだか自分たちばかりが話しているのも悪い気がして。

リオナは雪華に何か話しかけようとした。

が、なかなか勇気がでない。

返事がこなかったら、というか返事がないとわかっているから話しかけられない。

どうしようかな・・・・

そんな事を考えていると、
マーシャがリオナを抜かし
雪華の横に並んだ。

どうしたものかと見ていると、
マーシャは雪華の顔を覗き込み、
話しかけたのだ。

「なぁなぁ。雪華っていい名前だよな。」

「・・・・・・・・・・・・」

もちろん返事は無い。

しかしそんなことは気にしないとでもいうように、
マーシャは何度も話しかける。

というか1人で話し続けている。

そんなマーシャを見て、
正直驚いた。

マーシャはこんなに社交的だったか?

いつもだったら「はぁ?めんどくせぇ。」って言って自分からは絶対話しかけないのに。

『マーシャさん、変わったね。』

するとシュナも少し驚いたようにマーシャを見つめていた。

『リオナのおかげかもね!』

「・・・・え。俺、何にもしてないよ。それに俺だってそんなに社交的じゃない。」

『何にもしてなくても、一緒にいれば変わるものだよ。それにマーシャさんはきっとリオナを想って雪華に話し掛けたんだよ。だってリオナ、さっきから雪華に話しかけようとソワソワしてたでしょ。』

「・・・・」

バレバレだったとは・・・・恥ずかしい。

思わず頭が下がる。

『マーシャさん、リオナのことよく分かってくれてるね。俺、安心した。』

「・・・・心配してくれたの?」

『あ、当たり前だろー!?だって、色々あったみたいだし・・・一番の親友がちゃんと愛されてなかったら俺だって怒るよ!』

そう言って頬を膨らますが、
シュナが怒っても可愛いだけだった。

でも、嬉しい。

「・・・・ありがとう。」

『ははは!いーえー』

「・・・・ところで、シュナは最近どうなの。」

突然話を自分に振られてびっくりしたのか、
シュナはしどろもどろしている。

『え、俺!?』

「・・・・最近、シュナの話あんまり聞いてないからさ。」

『お、俺の事はいいよ〜!大した話無いし!!』

「・・・ナツが、最近シュナに面白いことがあったって言ってた。」

『ぇえ!ナツが!?なんで!俺何にも言ってないよ!?!』

「・・・ふーん。恋してるって聞いたんだけどなぁ。」

わざとらしくニヤリと笑ってやれば、
シュナは顔を真っ赤にさせて、
頭を振った。

『ナツのばかあああああ!!!!リオナはどこまで知ってるの!?』

「・・・・シュナが恋してるってことくらいしか知らない。」

ナツは色々知っていそうだったが、
あんまり聞いても今度はシュナが可哀想だと思い、
あえて聞かなかった。

だが気になるものは気になるから本人に直接聞いてみたが、
やはり聞かない方が良かっただろうか。

引くぐらい動揺している。

「・・・・シュナ、無理に話さなくてもいいよ。」

『い、いや、その、別に隠したいわけじゃなくて・・・・その・・・・』

「・・・・?」

さんざん悩んだ後、シュナは何か決意をしたように切り出した。

『あのね!俺・・・・コロナのことが、す、すき・・・だったんだ』

シュナがどんな事を切り出してきても、
驚かない自信があったが・・・・

これは少し予想外だ。

なかなか言い出せなかった理由が今わかった。

「・・・・えっと、ごめん」

なんといえばいいかわからなかったが、
無意識に謝っていた。

三角関係だったなんて気がつかなかった。

『あ、謝らないでよ〜!!リオナは悪くないんだから!だって俺・・・・リオナを好きって言ってるコロナに惚れたんだからさ。』

「・・・・そうなのか?いつから」

『気がついたのは・・・・ついこの間の、雪祭りで・・』

「・・・・ずいぶん最近だね」

『あははは・・・うん』

明らかにシュナを落ち込ませてしまった。

何か気の利いた一言を・・・

『でもね、おかげで想いを伝える事が出来たんだ。振られちゃったけどね。それに、まさかコロナがいなくなっちゃうなんて思いもしてなかったけど・・・でも、きっと、こーゆー境地に立たされなかったら、きっと俺、言えなかった。』

そうか・・・・

気の利いた一言なんて、シュナにはもう必要ない。

彼は・・・強くなった。

俺なんかよりも、ずっと、ずっと。

それに比べて俺は、
何にも進んでない、成長してない、むしろ弱くなった。

シュナもマーシャも、
皆先に進んでいる。

俺が変えた訳じゃない・・・皆が自ら変わったのだ。

自分だけが・・・・どこか昔に、取り残されている。

『リオナ、リオナ・・・・?』

「・・・・・・・・あ、ごめん。」

『大丈夫?まだ、体調悪い?』

「・・・・いや、大丈夫だよ。」

なんだろう、この不安は・・・・

もやもやして、止まらない。

リオナは考えないようにして、
シュナに笑顔を向けた。

「・・・・本当に大丈夫だからそんな顔するなよ。」

『本当・・・・?』

「・・・・ああ。」

『もう!心配しただろー!!』

「・・・ごめんって」

考えないようにしても、
笑っていても、

俺の中で何かがうごめき続けている。

一言では言い表せない、暗くて、気持ち悪い、
俺の「闇」が・・・・・・・・



























雪華の案内でたどり着いたのは山奥にある屋敷だった。

すっかり日も暮れ、辺りは異常なくらい静けさで満ちあふれている。

この屋敷自体は古びてはいないが、
人の気配を感じない。

まるで廃墟のような・・・・

「こんな屋敷、前にもあったな。もしかしてここが薬屋ってやつの住処か?雪華」

マーシャがそう尋ねると、雪華は一回コクンと頷いた。

そして、雪華はそのまま背を向けて山道を下っていこうとした。

「ちょ・・・・待て待て!」

それに慌てたマーシャは手を掴み、
雪華に何かを渡した。

一体何を渡したのだろうか。

「少しばかりだが、礼だ。受け取ってくれ。」

受け取ったものを、
雪華はただじっと見つめている。

「これさえあれば、どの国も出入りできるはずだ。2人で旅をするもよし、好きにしな。」

マーシャがそう言うと、
雪華は何も言わずに深々と頭を下げた。

まるで「ありがとう」と言っているように。

リオナはそんな彼の姿を見て、
あの女が言っていたように彼にも心がちゃんとあるように見えた。

「本当に助かった。ありがとな。元気でやれよ。」

雪華は小さく頷くと、
くるりと背を向けて山を下っていった。

いつかまた、会えるだろうか。

次に会った時には、彼ももしかした言葉を発するだろうか。

その時、俺は・・・・どうなっているのだろう。

「リーオーナー」

「・・・・!な、に、マーシャ」

「何って、お前大丈夫か?ぼーっとしちゃって。」

「・・・・平気だって。」

マーシャの手を軽く振り払い、リオナは屋敷に向かう

それにしても、大きな屋敷だ。

こんなところに本当に薬屋・・・・更夜がいるのだろうか。

『リオナ・・・・勝手に入っちゃだめだぞ』

リオナが扉に手をかけようとした瞬間、
後ろからシキに止められてしまった。

「・・・・何を今更」

『これ以上何かあって人の目についたら、この国から追い出されてしまうだろう。』

「・・・・じゃあ、ノックすればいいんだろ」

そう言ってリオナは扉をノックしようと手を上げた。

するとその時、
扉がすごい音を立てながら開きはじめたのだ。

大きい扉の為、砂埃がひどい。

リオナは思わず閉じていた目を少し細めてみると、
扉の向こうに人影が見えた。

スッとした佇まいに
どこか気品のある着物姿

肩で結った蒼く長い髪。

完全に扉が開ききると、
その男がゆっくりと近づいてきた。

そしてニコリとリオナに向かって笑いかけた。

「遠いところから遥々と、よく来てくれたね。待っていたよ、リオナ。」

その言葉に、マーシャとシキが真っ先に反応し、
リオナを庇うように立ちはだかった。

「あんた、なんでリオナのこと知ってるんだ。まさかフェイターの回し者か?」

『もしその手の者なら、こちらも容赦はしない』

しかし殺気立っている2人に対し、
男は動じる事無く、
常に穏やかな表情をしている。

「フェイターなんかと一緒にされては困るけど、君たちの味方かって言われたらそうじゃない。」

笑顔でさらりと言って退ける男に、どこか恐怖を感じる。

「でも、攻撃するつもりなんて無い。僕は争いごとが嫌いだから。ああ、知っているのはリオナだけじゃないよ。そこの紳士はシキ、後ろにいる王子はシュナ、そして、獣のように鋭い牙を向ける君が、マーシャだね。」

「な・・・!獣とは失礼だな!!」

その時、確信した。

やはり、この男は・・・・

「こんなところで話すのもなんだから、上がりなさい。」

「ちょっと待て。お前、本当に薬屋か?それとも・・・」

「聞かなくたって、答えは君たちの心にある。」

そう言って、
男は・・・・賢者“更夜”は、ニコリと笑った。



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