【完結】 Novel〜Lord's Soul〜 story129 謎の女 月が綺麗に輝く夜。 シキ達4人は女に言われるままに家に入り込んだ。 入ったはいいが、 入口でまず足を止めてしまった。 なぜなら、目の前に謎の段差があるからだ。 リオナとマーシャはその段差をジーッと見つめ、 何やら険しい表情をしている。 「・・・これは罠かなマーシャ。」 「ああ。間違いない。俺たちをあがらせて足元からすくい上げるつもりだ。」 「・・・よし。潰すか。」 「任せろ。」 2人して腕を捲り上げたものだから、 シュナが慌てて止めに入る。 『ちょ、ちょちょちょっと!駄目!これは玄関っていって、ここで靴を脱いで家に上がるための場所なんだよ!トラップでも何でもないの!内と外の境目なの!』 必死に止めるシュナを見て、 リオナとマーシャはヘェ〜と納得したようで。 「シュナって以外と物知りだな。見直しちゃった。」 『あ・・・・ありがとうございます。』 「・・・おかしいな。昔、俺もシュナと一緒に城下町の学舎で勉強してたのにな。俺の方が真面目だったのに今はシュナの方が頭良い。」 「あのさリオナ。お前は真面目じゃなかったでしょ。宿題忘れるわ寝るわ、挙句質問拷問マシーンに化すわ。何回俺が呼び出されたことか。」 「・・・・質問拷問マシーンは聞き捨てならない。」 「だってお前、先生に超しつこく質問してたじゃねぇか。なんで空は青いの?なんで人は飛べないの?なんでなんでぇ〜って。先生の顔死んでたぞ。」 「・・・失礼だな。好奇心旺盛だったの。」 緊張感の無い会話を繰り広げる2人に、 ついにシキの拳骨がくだった。 痛みに頭をさする2人を放って シキは先に上がり込んでいく。 『ったく・・・だれかあいつらに緊張というものを教えてやってくれ。』 そんなことをつぶやきながらも、 シキは女がいると思われる部屋の前に辿り着いた。 襖の先の気配を探る。 しかし、あの女以外の気配は感じられない。 仕込みがいるかと読んでいたが、 違うらしい。 どうやらリオナ達もやってきたようで、 すでに戦闘モードに入っている。 スイッチの切り替えだけは早くて助かる。 シキは全員に合図を出し、 サッと襖を開け放った。 部屋に踏み入ると、 部屋中に香が焚かれており、 慣れない匂いに思わず口を塞いだ。 明かりも薄暗いせいか、 何やら怪しい雰囲気が漂っている。 その時、部屋の奥から女の声がした。 [おやまぁ、殺気がだだ漏れだよ。そんな物騒なものさっさとおしまい。別に取って食いやしないよ。] 殺気に気が付くとは、 この女は只者じゃない。 しかし女1人に対して男4人というのは部が良すぎるという問題以前に、なんだか卑怯な気がする。 シキは後ろの3人に殺気を抑えるよう指示をした。 [まぁお掛けよ。腹が減ってるんだろう?今用意してやるからお待ち。雪華。] パンパンと女が手を叩くと、 いきなり天井から何かが降り立った。 それは子供だった。 まだ12歳くらいだろうか。 口元を布で覆っているため、表情は見えない。 リオナのように中性的な面持ちのため、性別すらわからない。 しかし、全くと言っていいほど気配を感じなかった。 この子は一体・・・・ [こいつは雪華(ゆきはな)。私の弟さ。忍をやっていてね。雪華、こいつらに何か作っておやり。] そう言うと、 雪華はコクっと頷いて部屋を出て行った。 どうにもこうにも気になることがありすぎる。 何から聞こうか。 色々と考えを巡らせていると、 マーシャが真っ先に口を開いた。 「おいお前、なんか臭うぞ。」 何を言い出すかと思えば・・・・なんて失礼な。 シキはガクッと肩を落とす。 『マーシャ・・・お前な、女性に向かって何を』 「違くて。この女から血のニオイがする。血生臭ぇ・・・」 血のニオイ? シキには全く感じられなかった。 やはりマーシャやリオナのように最前線で戦っている者にはわかるのだろうか。 「で、そろそろ種明かしをしてくれよ。お前は何者で、俺たちの何を知っていて、何をしたいのか。」 マーシャの口元が不気味に引きつった。 この表情の時のマーシャはヤバイ。 女でも容赦しないのがマーシャだ。 [あらまぁ、男気があるじゃない。気に入った。よく見ればイイ男じゃないか。] そう言って女はマーシャの身体にベタベタと触り始めた。 なんともいやらしい手つきに、 さすがのマーシャも狼狽えている。 「悪いがそうゆーのはやめてくれ。俺には可愛子ちゃんがいるんでね。」 [へぇ。そこにいる銀髪の美少年かい?] 「え、何でわかるんだ?」 [当たりだったのかい?だって私のことを無表情のまま睨むものだから。] リオナは一切の無表情であるのに、 よく睨んでいるとわかるものだ。 [安心おし。この赤毛の兄さんには手出ししないよ。] そう言って女はリオナに向けて初めて笑みを浮かべた。 女性らしさを垣間見た気がする。 [私は確かにただの女じゃない。私も雪華同様、忍をしていてね。暗殺やら色々と汚れ仕事をしているんだ。血のニオイっていうのはそのことだろう。あと、お前たちの事は知らないよ。ただ余所者が来たとだけ噂に聞いていた。ここは未開の地だからね。余所者が来ると皆寄ってたかって欲しがるんだよ。] 「欲しがる?」 [この国には見世物小屋ってのがあってね。珍しいものを売買する闇商売があるんだよ。あんたらは目立つから目を付けられてたんだ。だから匿ってやった。ただそれだけの話よ。] 「本当か?そう言って俺たちを騙してたりして。それか何か見返り求めてたりしねぇよな。」 [あんたらにかい?はははは!笑わせるね。あんたらを騙して私に何の得があるんだい。それに、私は見返りなんて興味ないね。別に生活に不自由しているわけでもない。いい加減疑うのはよしたらどうだい。ただの世話焼きババアだとでも思ってればいいさ。] どうやら少し疑い深くなってしまったようだ。 この女は敵か味方かといったら、 恐らく敵ではないだろう。 [私は余所者ってのが好きでね。いつか私も外の世界に出たいと思ってる。でも、それができないからあんたら余所者に外の話を聞いて満足してるのさ。] 少し淋しげな女の表情に、 シュナも悲しげに問いかけた。 『あの・・・なぜ、無理なのですか?』 [ははは!あんたが悲しむ事はないんだよ。私たちは所詮、この国から出られやしない。なんでかって、そりゃあ、怖いからさ。] 『怖いのですか?』 [そうさ。怖いんだよ。結局は内しか知らない世間知らず。外を夢見たって恐怖には勝てない。だから、私たちはこれで満足なんだよ。だからそんな顔をしないでおくれ。] まるで籠に囚われた鳥のように、 女は静かに笑った。 この国には、きっとこの女のように外を夢見ている者で溢れているのだろう。 しかしそれと同時に、恐怖を抱いているのだ。 自由とは何か。 この国ではそれすらもわからないかもしれない。 少しの間沈黙が続いた後、 先ほど出て行った雪華が戻ってきた。 彼の手には見たことの無い料理が沢山あり、 4人は少し目を輝かせた。 [さぁさぁ、遠慮なくお食べ。ああ、毒なんか盛っちゃいないよ。私が先に食べてやってもいいが。] 『・・・親切にして下さっているのに、先程は疑ってしまって大変失礼致しました。貴女の事は、よくわかりました。お言葉に甘えて、いただきます。』 と、シキが言う前からマーシャは食べてしまっていたが。 初めて食べる料理の数々に一同夢中になって食べている中、 リオナの手だけが止まっていた。 マーシャも不思議に思ったのか、 心配そうに顔を覗き込んだ。 「どうした。苦手なものでもあったか?珍しい。」 しかし、リオナはマーシャを一切見向きもせず、 ただただじぃーっと雪華を見つめていた。 「あれ、リオナ?おーい。妬いちゃうぞ。」 「・・・・あの、ちょっといいですか。」 近付くマーシャを押しのけて、 リオナは女に尋ねる。 「・・・・彼は・・雪華は、"人形"ですか?」 突然何を言い出すのかと、 マーシャやシキは目を丸くするが、 女が次に放った言葉に、口をポカンと開けてしまう。 [おやまぁ、よくわかったね。この子の正体を見抜いたのはアンタが初めてだよ。どうしてわかった?] 「・・・俺の仲間にも、"人形"がいます。クラッピーという道化人形なんですが、雪華からはクラッピーと同じような雰囲気が漂っていたので。」 [へぇ、なるほど。もしかしたら同じ人形師かもねぇ。] 「・・・でも、少し疑問があります。雪華には感情というか・・"心"が欠けているように感じるのは気のせいでしょうか。クラッピーにはちゃんと"心"があって、喜怒哀楽も感じてます。だから表情もコロコロ変わるし、本当に人間のようなんです。でも雪華は・・・・"人形"にしか見えない。」 リオナの目は真剣で、 別に関係の無いことなのに、 どこか譲れないといった表情をしている。 きっと不安なんだ。 雪華は生まれつきこうなのか、 それともこの女がそうしたのか、と。 リオナは誰よりも人の心に敏感だから。 [ははははははっ!!ホンットにあんたは面白いね。顔に似合わず案外優しいんだ。] 「・・・別に優しくなんかないです。ただ、気になるだけです。」 [そうかいそうかい。雪華はね、人形として生まれた時からこうだったらしいよ。] 「・・・・らしいってことは、雪華は本当の弟ではないのですか。」 人形師が生み出す人形は、人間の魂から作られる。 現にクラッピーがそうだ。 [そうさ。雪華と私は本当の姉弟じゃない。道で座り込んでいた雪華を私が引き取ったのさ。出会った時から言葉も話さなければ感情すらない。人形中の人形さ。でも、きっとこいつは世間からすればただの"失敗作"だったんだろうよ。] 「・・・・失敗作だなんて」 [言っておくけど、私は失敗作だなんて思っちゃいないよ。この子がいなかったら私はきっとつまらない人生を送っていたに違いない。この子は何も言わないけれど、目を見ればわかる。あんたは雪華に"心"があるように見えないと言ったが、私には見えるよ、雪華の丸くて綺麗な"心"が。] そう言って、 女は雪華を見て優しく微笑んだ。 雪華は相変わらず反応を示さないが、 きっと、彼女にしかわからない、雪華の"心"が微笑み返していたに違いない。 「・・・そうですか。よかった。」 リオナも思わず笑みをこぼした。 [けど、アンタも不思議だね。] すると女は再びリオナを見つめ、 何やら訝しげな表情を浮かべた。 [アンタは人間なのに、まるで人形のようだよ。] 「・・・・え」 [勘違いしないでおくれ。別に嫌味で言ってるわけじゃないんだ。ただ、アンタの"カラダ"と"ココロ"が全く別人に見えるんだ。] "カラダ"と"ココロ"が別人・・・・? [カラダはあんたなのに、ココロを見ると、別の少年の顔が見える。言ってること、わかるかい?普通ならカラダもココロも自分であるはずなのに、アンタはそうじゃない。中身、つまりココロだけが自分じゃなく、別人なんだよ。] どういうことだ? 今まで生きてきた中で、 全く気がつかなかったというか、 考えた事がなかった。 その時ふと、 昔夢で見たウィキの言葉を思い出した。 "リオナは僕のオモチャだよ" リオナは小さく震える身体をそっと押さえつけ、 女に尋ねた。 「・・・その、あなたが見る俺のココロは・・俺にそっくりですか。」 [ああ、そうだね。なんとなく、表情だけが違う。] ああ・・・・ウィキだ。 やっぱりウィキなんだ。 でも、 どういうことだ? 俺は俺であるのに、 なんでココロがウィキにみえるんだ・・・・? ウィキと俺は違う。 なのに、どうして、いつから・・・・? 「ちょっといいか。」 その時、 今まで黙っていたマーシャが口を開いた。 「リオナは双子なんだ。双子だからってことはないか?おそらく、あんたが見たっていうリオナじゃない奴ってのは、こいつの弟だと思うんだけど。」 [あら、双子なのかい?今まで双子というのに会ったことがないからねぇ。もしかしたらそうかもしれない。別に私の言った事なんて気にしないでおくれよ?ただ珍しいと思っただけなんだ。違うからって、悪いことが起きるわけじゃない。もしかしたら良いことだってあるかもしれないしねぇ。] そう言っても明らかに不安そうなリオナに、 女は苦笑を浮かべた。 「だってよリオナ。ほら、元気だしな。きっと、ウィキの事を想いすぎてそう見えちまったんだよ。」 「・・・・そうかな。」 「ああ。それにしても妬けちゃうなー。俺の事しか考えられねぇようにしてやろうか。」 いやらしく笑うマーシャを見て、 ようやくモヤモヤしていた気持ちが吹っ飛んだ気がする。 リオナはマーシャの頬を思いっきりつねり、 上下左右にひっぱった。 「・・・・妬くな馬鹿。そんな事しなくたって大丈夫だよ。」 「知ってる。けど妬ける。ちゅーしていい?」 「・・・殺す」 2人の日常的なやりとりに シキとシュナは何も言わずにただ食事を続けている。 そんな光景に、 女は声をあげて笑った。 [はははは!ちょいと赤毛の兄さん、本当にこの美少年と愛し合ってるのかい?私には一方通行に見えるんだが。] 「違うんだなぁ。リオナの俺に対しての暴言はぜーんぶ"愛してる"ってことなのよ。」 「・・・・っは、違ぇ。」 「やだリオナあんまり冷たくしないで。」 [あーなるほどね。アンタの愛は重いね。] 「軽いよりマシだろ!?」 「・・・・全然」 「うっそだぁー!」 静まり返った夜の町に、 笑い声が響き渡る。 その笑い声は夜が明けるまで続いたようだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |