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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story131 終着地

リオナ達がたどり着いた薬屋の住む屋敷というのは、
やはり賢者である更夜のものだった。

つまり、薬屋=賢者だったのだ。


リオナ達は屋敷の中に案内され、
広い庭や部屋を見ては目を丸くしていた。

しかし、マーシャだけは別だった。

マーシャは更夜の背中を睨むように見つめている。

もちろん、賢者である更夜もそれに気づいている。

「そんなに睨まなくたって、僕の事は後で話すよ。それに、ルナにも会わせる。君たちは、いや、君はルナに会いにきたんだろう?」

「ああ」

「なら、僕に付いてきて。君たち3人はこの部屋でゆっくりしていてくれ。庭に出ても良いし、好きにしていていいよ。」

そう言って案内された部屋は広々とした風情溢れる部屋で、庭にも繋がっており、吹き抜ける風が気持ちいい。

『うわぁ〜!すごい綺麗!!!』

シュナは大きな瞳を輝かせ、
庭に走っていった。

「ははは。王子様は喜んでくれたみたいで嬉しいよ。お茶はそこに用意してあるからご自由に。僕はマーシャをルナのところに案内したら戻ってくるよ。」

「・・・・待って!」

するとリオナはマーシャの腕を掴んだ。

一人でいかせて大丈夫だろうか。

「・・・・俺も一緒にいく」

「リオナ、心配するな。」

「・・・・でも」

「だーいじょうぶだって。ちゃんと、話してくるから。」

良い子にしてろよー、といってマーシャと更夜は行ってしまった。

リオナはしばらく2人の後ろ姿を眺めていたが、
シキに連れられて部屋に入った。

『リオナ、大丈夫だよ。マーシャを信じて待っていよう。な?』

「・・・・そうだね。」

不安は尽きない。

それはマーシャに対して?
それとも自分に?

・・・・早く帰ってきて、マーシャ。

早くこの手を・・・・握って。















リオナ達と別れ、俺は更夜に連れられてルナの元に向かった。

ルナに会うのは久々だ。

一緒にダーク・ホームを抜け出し、UWで暮らして、
フェイターの襲撃で結局離ればなれになってしまったが。

「なぁ」

「何かな」

「ルナをUWから連れ出したのは、お前だろう。なんでそんな事をした。」

マーシャの問いかけに、更夜は振り返る事無く言葉を返す。

「なんでって言われても・・・・気分、かな。」

「はぁ?てめぇは気分で人を攫うのかよ。」

「人聞きの悪い事を・・・。違うよ。正確に言うなら、時が来たから。」

また訳の分からない事を言い出す更夜に、マーシャは頭が痛くなる。

「君たちは何か勘違いしているみたいだね。僕はあくまで“神の僕”。神のご意志に従って行動しているんだよ。人は気まぐれなんて言うけれど。そんな簡単なものじゃないんだ。」

「じゃあ、お前がルナを連れ去ったのも、俺たちに此処まで来させたのも、全ては神のご意志とやらだと言いたいのか?」

「ああ、それ以外にあり得ない。だって、僕には興味が無い話だから。」

穏やかな表情をしながら意外にも冷たい事を言う。

いまいち更夜のことがよくわからない。

「まぁ、僕の話はあとでゆっくり聞かせてあげるよ。興味があるならだけど。はい、着いたよ。」

屋敷の離れにある部屋の前に案内された。

その部屋は他の部屋とは少し違うのか、
襖が一段ときらびやかで美しい。

「マーシャ、ルナに会う前に1つ約束を。」

「なんだよ・・・・」

「ルナに手を出さないでね。」

「それは、殺すなってことか?」

「それもある。」

「約束はできねぇな。俺はけじめを付けにきたんだ。結果によっちゃあ、殺すかもしれねぇ。ルナもわかってるはずだ。」

「それでも、許さないよ。もしそんな事をしたら、僕もそれなりの手段をとらせてもらう。」

「俺を殺すってか?」

「違う、リオナを殺す。」

「!?」

ドキッとした。

そうだ、俺には守らなきゃいけない大切な者がいる。

世界でいちばん愛する者だ。

「君がリオナを想うように、僕もルナを想っているってことだ。理解してくれた?」

「ッチ・・・・わーかったよ。」

「ありがとう」

そう言って、更夜は襖を開けた。

「どうぞ。ごゆっくり」

襖が開いた瞬間、花の香りが広がった。

―ルナだ。

部屋の中はまるで庭のようになっており、花々が色鮮やかに咲き誇っている。

その花達に囲まれるように、
ルナはいた。

美しい着物を纏い、
まるで女神のような雰囲気を漂わせている。

「・・・・・・・・・・マーシャ・・・・・・」

彼女の小さな声が耳に入った。

マーシャは息をのんだ。

何を緊張しているんだ自分は、と。

早まる鼓動を押さえるように胸に拳を当てる。

「久しぶりだな・・・・ルナ」

ルナは今にも泣きそうな表情をしている。

なんで、そんな顔をすんだよ・・・・

「元気だったか?突然いなくなったときは、驚いた。」

「・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・」

「謝るな。お前のせいじゃない。」

何を言っても謝られそうだ。

でも、なかなか本題を切り出せない。

「・・・・・・・みんなは・・・・・・・元気・・?」

すると、今度はルナの方から切り出してきた。

「ああ。リオナとシュナとシキは一緒に来てるから、後で会えば良い。あ、クロードが寂しがってたぞ?連れてきてやりたかったんだが、余計なピエロが一緒でな・・・・」

「・・・・ピエロ・・・・?」

「UWを出た後に出会ったやつなんだけど、クロードの兄貴でな。まぁ、色々あるんだ。俺たちもあれから色々あって、ダーク・ホームに戻ったんだ。ジークもフラワーカウンティに戻って、ムジカが・・・・・・・・」

言葉に詰まった。

言葉にすれば、悲しみがこみ上げてきそうで。

「・・・・・・・・・・・そう・・・・・」

しかし、ルナはそれを察したのか、
小さく頷いただけだった。

「・・・リオナは・・・・・大丈夫・・・・?」

「大丈夫とは言いがたかったが、本人もムジカの事を想って、強くあろうとしてる。それに、俺、やっぱりリオナを愛してるって気がついたんだ。リオナも俺を愛してると言ってくれた。だから・・・・今度は俺がリオナを守る。」

「・・・・よかった・・・・・」

ルナは小さく笑みを零す。

「・・・リオナは幼い頃からどこか儚かったわ・・・・それに、あなたも・・・・・・・・・」

「俺も?」

「・・・・ええ・・・・だから、あなた達が2人で支え合って幸せを築けることが、私は嬉しい・・・・リオナを・・・・大切にしてあげて・・・」

「ああ。必ず。・・・・それで、今日は俺のけじめをつけにきた。」

そう言うと、全てわかっていたかのように、
ルナは頷いた。

ルナはいつだって覚悟して、俺と向き合っていた。

“殺されたってかまわない”
いつだってそんな目をしていた。

なのに、逃げていたのは俺だ。

でもようやく、
決着を付ける事が出来る。

「ルナは・・・・モナを殺してなんかいない。一緒に生活していて、お前に人を殺す事が出来ない事くらいわかっていたのに、俺は信じられなかったんだ。」

「・・・・どうして・・・・殺していないと・・・・」

「リオナだ。モナは、リオナの母親だって聞いた。初めは信じられなかったけど、リオナが言うから、さ。」

「・・・・・・そう・・・・・・」

ルナの反応が意外と薄い。

もしかして・・・・

「・・・・モナの息子がリオナだって、知ってたのか?」

「・・・・・・・・・・・・・ええ・・・」

「なんで・・・・なんで教えてくれなかったんだよ!!」

「・・・・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・」

別に・・・・謝ってほしい訳じゃないんだ。

ただ、真実が知りたいだけ。

「なんで・・・・モナにあんな事をしたんだ。」

ルナは目を伏せ、
黙り込む。

しかし、しばらくすると顔を上げ、
しっかりとした口調で話し始めた。

「・・・・モナとそのご両親が所属していた旅団が、昔、光妖大帝国にやってきたの・・・・。・・・・王宮に招かれ、素晴らしい魔術を見せてもらった・・。・・その頃はまだフェイターが完全な形になっていなかったけれど、フェイター達の企みは着々と進んでいたわ・・・・。・・旅団が王宮に宿泊していたその夜、王の側近として働いていたフェイターのアシュールとカイは密談をしていた・・・・王の、シュナのお父様の暗殺計画よ・・。その計画を、たまたまそこに居合わせたモナが聞いてしまったの・・・・正確には、聞いてしまったかもしれないという可能性だけだった・・・・でも、2人はそれを許すわけにはいかない・・・・。でもその時はモナを取り逃がしてしまった・・・・。そこから彼らはモナの特徴であった黒い瞳をした旅団の女性を手当たり次第に殺し始めた。そして数年後・・・・ようやくモナを特定する事が出来た・・・・そこでモナに接触する為に私を使って・・・あなたをも利用した・・・・」

「でも、お前はモナを殺さなかった」

「・・・・殺したくなかった・・・・。この手で・・・・人の命を奪うことがなによりも怖かった・・・・」

震える手を押さえつけるルナを見て、
ああ、彼女は殺していないんだと確信すると共に、安堵した。

「でも、俺が確認したときは、モナは確かに死んでいた」

「・・・・ええ・・・カイをごまかす為に仮死状態にしたの・・・・結局ばれてしまっていたけど・・モナの命を奪わなくてすむように、彼女の記憶をほぼ全て消したわ・・・・・・・。そして、彼女をそこにいた男性に任せた・・・・恐らく彼が・・・・リオナのお父様・・・・・・・・」

「そんなことして、お前が罰を受けたんじゃないか・・・・?」

「・・私の罰なんか大した事無いわ・・・・。ただ、モナの記憶を奪った事と、マーシャを傷つけてしまった事が・・・・ずっと、ずっと辛かった・・・・どうしたら許してもらえるか・・・・許されないとわかっていても・・・・ずっと考えていたわ・・・・」

ルナの目から流れる涙が、胸を引き裂く。

彼女はモナを助けてくれたのに、
俺は・・・・

俺はずっとルナを恨み、傷つけてきた。

最低なのは・・・・自分自身だ。

「ルナ・・・・俺は、本当は、お前を殺したくて仕方が無かった。」

だから、ダーク・ホームに入って、悪魔なんかと契約までした。

「でも、違う。俺は間違っていた。俺は・・・・お前に、伝えなきゃいけない。」

ごめん、じゃない。
すまない、じゃない。

伝えたいのは・・・・・・・・

「モナを守ってくれて・・・・本当に、ありがとう」

「・・・・・マー・・シャ・・・」

ルナは頭を横に振り、
涙を流した。

その涙を、指で拭ってやる。

「泣かないでくれよ・・・」

「・・・違う・・・違うのマーシャ・・・・・私は・・・まだ謝らないといけない事が・・・・・・」

「・・・・?」

ルナは自分で涙を拭うと、
震える声で言葉を紡ぐ。

「・・・今まで・・・隠していた事があるの・・・・。」

なんだか嫌な予感がする

「実は・・リオナのことなの・・・・リオナは・・・・・・・・」
「リオナは特別な子だよ。」

ルナが何かを言いかけた時、
突然、更夜が姿を現した。

いつからいたのだろうか。

「特別?それは能力の話か?」

「そう。それに、彼は神の器。」

「それは、本当にそうなのか?」

「その素質がある。だから、気をつけた方が良い、って僕がいったって、もう気づいてるか。」

更夜は困ったように笑うと、
泣いていたルナの涙を拭ってやった。

「・・・・・更夜・・・私は・・・・・・・・」

「大丈夫。後は僕が・・・」

2人が何か言葉を交わしていたが、
マーシャには聞こえなかった。

「とにかく、仲直りできたかな。」

「な、仲直り言うな。」

「じゃあ、僕は先に食事の用意をしにいくよ。じゃあごゆっくり。」

そう言って再び姿を消した。

なんなんだ、あいつは。

「・・・・マーシャ・・・」

「なんだ?」

「・・・・私を・・・許してくれて・・ありがとう・・・」

そう言って頭を下げるルナに、罪悪感を覚えてしまう。

「よせよ。もう、やめようぜ。今日から俺とお前は・・・・・・・・友達だ」

こんな言葉を言う日が来るとは思わなかった。

だが、これは、俺が望んだカタチ。
せめてもの償い。
そして、けじめ。

「ルナがいなかったら、リオナにも会う事が出来なかった。リオナを愛する事が出来なかった。もう一度、人を愛する事を教えてくれて・・・・感謝してる。」

ニッって笑えば、ルナもようやく笑顔を見せてくれて。

以前のようにまた笑ってくれた事が、凄く嬉しかった。

「・・・私も・・・マーシャに出会えて、よかったわ・・。・・・マーシャのおかげで・・世界を見る事が出来た・・・・・・あと・・・・・恋も・・・・」

「・・・・え?」

「・・・い・・いいえ・・・!!・・・何でもないの・・!」

今、確かに、

「恋って言った。」

ニヤリと笑ってみせると、
ルナは顔を真っ赤にして慌てふためいている。

「・・・だ、だから、その・・・・・・・・!」

「あ!!もしかしてジークか?!」

「ちが・・・・ちがうわよ・・・!!!」

「え、じゃあ、リオ・・・・」
「・・・マーシャ以外誰がいるのよ・・・・・!!!!」

一瞬、何が起きたかわからなかった。

だけど、だんだんと顔が熱くなってくるのがわかる。

「お・・・・俺ぇぇぇ!?」

「・・・・ご、めんなさい・・・・」

顔を真っ赤にしてうつむくルナを直視できない。

だって、あんなにルナに対して酷い事をしてきたのに。

「・・・マーシャのこと・・・気がついたら・・・ずっと見てしまっていて・・・・・・・でも・・・・・・・私じゃだめ。やっぱり・・・・マーシャにはリオナだわ・・・・。」

「ルナ・・・・」

「・・・・マーシャを好きになれただけで・・・私幸せよ・・?・・・だから、ありがとう・・・・。あと、リオナを大切にしてね・・・」

そう言って笑うルナの表情に偽りなど無く、
本当の笑みだった。

だから、俺も笑って頷いた。

「ああ、約束する。」

「・・・・・ふふっ・・!約束よ?」

心の底から、曇りが消えた。

どんよりとした重い何かが浄化されていく。

これで、ようやく
リオナを真っ正面から愛する事が出来る。

そして俺の人生が
再び幕を開けるんだ。

だが、俺は全く気がついてなかった。



リオナの中で蠢く、
暗くて重い、真っ黒な闇に・・・・



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