菓子パンヒーロー擬人化
倒錯的恋愛感情

【2000Hitキリリク,にぎりめし様よりのリクエスト】

*バイキンマン×ホラーマン*




「ホラー君、今日泊まっていかない?」



そんな風に彼が切り出したのは、今年一番の怖さだと噂高いホラー映画のDVDを見終わった頃だった。

最近買い替えたという大画面の薄型テレビで、これでもかという程に大音量で映画を再生すれば、その音声すら掻き消す様なバイキンマンの絶叫が終始響いていた。
映画が終わる頃には彼はぐったりとこちらの肩に頭を乗せ、掠れた声で「怖かった……」と簡潔な感想を呟く。
骨男の自分からしてみれば、フィクションの連続で現実味の無い、ただ恐がらせるのを目的とした単調な作品にしか感じられなかったけれど。


プルプルと震えるバイキンマンを尻目にさっさと片付けを始めていた矢先に、冒頭の誘いがあったわけだ。


DVDをケースに戻す手を止めて振り返ってみる。
ソファーの上で片膝を抱えるバイキンマンは、僅かに目を細めてこちらを見つめていた。

「……泊まるって……僕の家、すぐ近くなんですけど」
「あぁ…うん。そうだけど」

歯切れの悪いバイキンマンの返事に眉を寄せた。
暫しそのまま見つめ返していれば、バイキンマンが先に目を逸らす。

「ドキンちゃん、今日は泊まりに行ってるんだ」
「…そうなんですか」
「だから、」

だから。その先に続く言葉は無かった。
ただ、再度こちらを見つめた彼の視線が、あまりに熱いものを訴えてきていたから。
言葉は無くても、何を言いたいのか悟ってしまった。



戸惑いが勝った。
彼の視線に含まれるのは酷く熱くて、それでいて冷静に誘う様な情欲だったから……



「…DVD、ここに置いておきますよ」

わざとらしく大袈裟に視線を外して、DVDのケースを近くにあったテーブルの上に置いた。
この話は終わりだ、と態度で伝えながら、横目でバイキンマンが座るソファーの上を確認する。
自分が身に付けていたマフラーとジャケットは、バイキンマンのすぐ横に放ってあった。

まずいな、と内心ぼやく。
今すぐにでもこの場を離れたいのに。
それらを取るには、彼に近付かなければいけない。

意を決して、ソファーまで歩み寄った。
横顔に刺さる視線が痛い。

「外、寒いよ」
「いいです。すぐ家に着きますから」
「何か用事でも有んの?」
「ロールちゃんが家に来ます」

咄嗟に出た嘘に罪悪感ばかり募った。
恋人のロールパンナも、今夜はドキンちゃん達と過ごしているはずだ。
こんな嘘に彼女を使うのは嫌だったのだけど。

ジャケットを羽織ってからマフラーを首に巻いた。
その間も必死に視線は合わせない。

「一人で居るのが怖いなら、最初からホラー映画なんか見なければいいんですよ」

本当は、そんな理由で「泊まって」等と言い出したわけでは無いことはしっかりと解っているのに、わざと言った。
少しでも、彼の視線の熱さを避けたい一心だった。


それなのに、不意に指先を掴まれれば一瞬で彼に意識を持っていかれる。
掴まれた指先を口元に持っていくのに、カァッと顔に熱が集まった。
予想通り、チュッと軽いリップ音を立てて手の甲にキスを落とされる。
思わず彼を見つめれば、彼の紫混じりの黒い瞳に自分が映る。



──ああ、捕まった。


腕を引かれて態勢を崩した。
彼が座るソファーの上に倒れ込めば、真正面から抱き止められる。
彼の足の間に片膝を落として肩に両手を乗せる様に身体を支えれば、腰を強い力で引かれた。

「ちょっと…!!」

咎める様に開いた唇に、彼の唇が触れた。
腰を引いていた手を離し、こちらの頬を愛しげに撫でてから何度も触れるだけのキスを続ける彼に、羞恥心が募る。

「あと少しだけでいいから……」

キスの合間に、小さな声が耳に触れた。
触れあった体温とキスでぼんやりとし始めた意識の中、こちらを見つめる瞳が切なげに揺れてから伏せられる。

「ロールが来るまでの間でいいから…」

呟かれた言葉に、先程とは非にならない罪悪感が沸き上がった。
彼のすがる様な瞳が、目に焼き付いて離れなかった。



今度は自分から彼の唇に口付けた。
驚いた様に広がった彼の目を見ない様、瞳を閉じた。
頬を撫でていた手が背中をなぞってから引き寄せる様に抱き締めてくる。



この煩い心音が彼に聞こえてなければいいのに。

──抱き締める強い力が心地良いのは、認めちゃダメだ。
──ソッと壊れ物を扱う様な優しい手の温かさが愛しいなんて、認めちゃダメだ。


「ホラー君」

呼ぶ声と共に、ソファーの上に押し倒される。
緊張した身体を解す様に腰を伝う指先に、小さな息が漏れた。





ここから先にあるのは、背徳感の塊。
進んだ先にあるのは倒錯的過ぎる関係。
解っているのに、僕は…



シャツのボタンを外す小さな音が聞こえ、身を任せる様に目を閉じた。




2000Hitを踏んだ友人の絵師・にぎりめし氏より、
【久々に擬人化菓子パンを】
というリクエストを頂いていたので、最近にぎりめし氏との間で熱いCPである『菌骨』を…!


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