菓子パンヒーロー擬人化
悪徳ヒーロー
*バイキンマン&ホラーマン*
「うわ…なんですか、その髪型」
頭上から降り注いだ冷たい声に、首を捻って見上げた。
見下ろしていたのは、年中ぬくぬくとした厚着の親友・ホラーマン。
勝手にラボに入ってきて、我が物顔でドサリと足を組んでソファーに座る。
モフモフとマフラーに顔を埋めながら、眼鏡の奥の目を細めて見つめてきた。
ラボの主・バイキンマンは目を丸めて見つめ返す。
「あれ、今日デートじゃないのか」
「ロールちゃん、急な用事が出来たんです。
で、なんですか、その髪型」
バイキンマンを見つめているのかと思った視線は、よく見ればピンポイントでバイキンマンの頭を見ていた。
ドキンちゃんの新作iPodを作っていた手を止めて、ポフポフと自分の髪を撫でてみる。
「イメチェンしたんだけど」
「イメチェン?」
「そう」
長めのウルフにしてみました。
と、ドヤ顔で言うバイキンマンに、ホラーマンはポカンと口を開いた。
「…ドキンちゃん、今度はヴィジュアル系にでもハマったんですか」
「………当たりー」
視線をそらしながら気まずそうにしたバイキンマンに、今度はホラーマンの呆れた重い溜め息がかかる。
「好きな人の趣味に合わせて自分を変えていくなんて……見ていて虚しいですよ、バイキンマン」
「ちぇーっ、うるさい」
口を思い切り尖らせて背を向け、バイキンマンはまたiPod作りに戻ってしまう。
その丸まった背中に、再度呆れた溜め息を投げた。
バイキンマンは、幼馴染みのドキンちゃんを溺愛している。
同居しているドキンちゃんに三食昼寝付きの快適な生活を提供し(さながら母親の様に)、彼女の為に日々何かしらを造り上げて献上していたり。
更には、熱しやすく冷めやすいドキンちゃんの趣味に合わせようともしている。
…実に涙ぐましい。
「バイキンマン、いい加減やめたらいかがですか?」
「何が?」
「その実らない悲しい努力」
背中を向けたままのバイキンマンが、シュンッと頭をもたげる。
どうやら、ドキンちゃんにその気が無いのはとっくの昔に気付いているらしい。
「……バイキンマン、僕はあなたを心配して言ってるんですよ」
「っホラー君……!!」
「だって、あなた、僕以外友達いませんもんね。
忠告してくれる人すらいないんですから、僕が言ってあげないと」
ハッ、と鼻で笑って言えば、一瞬感動してウルウルと目を潤ませていたバイキンマンが、すぐに眉を吊り上げた。
それに気付いたホラーマンはヒョイッとソファーから立ち上がり、そそくさとラボの入口へと移動する。
「こら、逃げるのか!!」
「違いますょ。用事を思い出したんです」
「ホラーァーくん!!」
辺りの工具を撒き散らしながら立ち上がり、掴み掛かってこようとするバイキンマンに溜め息を漏らす。
やれやれ、とホラーマンは扉の横にあるスイッチを押した。
すると、今まさにホラーマンの襟首に飛び掛かろうとしていたバイキンマンの目の前でシュッと軽い音と共に扉が開く。
憤怒気味だったバイキンマンの表情が、ヒュッと青ざめて眉が下がるのを、ホラーマンは半ば吹き出しながら見ていた。
開いた扉の先。
バイキンマンの目の前には、女帝・ドキンちゃん。
長い朱髪の似合う、気の強そうな美少女が細い腰に片手を当てて立っていた。
その眉間には皺が寄り、細められた瞳が冷たくバイキンマンを見据えている。
まるで視線で射られた様に、バイキンマンは固まっていた。
「……バイキンマン、お腹減った。
遊んでる暇があるんだったら、早くなんか作って」
「っ、じゃあ、夕飯作ろうか」
「早くして」
それだけ言い切り、ドキンちゃんはさっさとリビングへと戻っていった。
バイキンマンはいそいそと工具を片付け、その姿にホラーマンは大きな溜め息を吐く。
溺愛、というより、尻に敷かれてるだけなんじゃないだろうか、と。
「情けない…」
「あ、ホラー君も食ってく?
今日はビーフストロガノフ」
既に仕込み済み!と親指を立ててくるバイキンマンは、既に先程の憤怒は忘れてしまったらしい。
これが、『あの』バイキンマンか。とホラーマンは片手で額を押さえた。
「いえ、いいです。早く作りに行った方がいいですよ」
言ってるそばから、リビングからドキンちゃんの不機嫌な声が聞こえてきた。
呼ばれる様に小走りで去っていくバイキンマンを見送り、ホラーマンは本日何度目かの溜め息を漏らす。
あんな人だけど、『一応』親友。
気にしてあげないわけにはいかないじゃないですか?
明かりを消してから、女帝の我儘に巻き込まれる前に帰ろうと、ホラーマンも足早にラボを出た。
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