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古の精霊13


 私は足を地面に擦り付けるようにして男に近づいた。セーレンハイルを鞘から完全には抜き取らず、少し親指で浮かす程度にとどめると、キチッという音だけが男との間に響いた。

 男は哀れむ様な目をこちらに向け、背後に合図を送った。先ほどからずっと男の後ろで殺気立っていた、何かに。

 ガサリと蠢く音を聞いた後、男はサッと横へ飛んだ。
 来る、と自分に言い聞かせ、腰に挿したままの剣をグッと握った。直ぐにセーレンハイルも鞘の中で力を溜めているのがわかった。

 一瞬の静寂の後、激しい動悸が茂みから聞こえてきた。巨体が木の枝を踏む音が段々と生々しく感じ取れる。

 やがて暗がりから二つの怪しい光が見えた。
 それは血に飢えた獣の目だった。

 これが、黒い獣。
 恐らくそれは特定の獣を指すのではなく、人を喰らう恐ろしい獣の事を総称して黒い獣と呼んでいるのではないだろう。

 森の奥深くにひっそり生きるもの達だと思っていたが、目の前に居る黒く恐ろしい獣は明らかにそこで嘲笑している男に飼いならされていた。

 今までのヤツと大きく違う部分は、いかにも行動が早そうといった所か。
 今までは皆荒れ狂うばかりで隙だらけだったが、ここにいる獣は違う。人間に調教されているだけあり、隙もなく、狂ってもいない。痩せ過ぎても太りすぎてもない完璧な筋肉のつき具合。これは正しく戦闘用だった。

「厄介な……」

 戦闘用なら切り捨てても構う事はないだろうか、とそんな事を考える時点で、己の弱さや愚かしさを感じた。



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あきゅろす。
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