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古の精霊12


 目で周囲を散策している私に気付き、男が笑った。

「逃げ道を探しているのか? 無駄だな。この辺り一体は東国の僕達が待機している。残念だが諦めろ。正体を隠して姫を守っていたようだが、こんな所に護衛一人で来ること自体が愚かだったのだよ」

「何を勝手に……東国だと? 何故こんなところに居るんだ。アムリアを探しに来たのか!?」

 この男に虚勢は通じないらしい。
 無駄に端正な顔立ちをして、常に怪しい笑顔、特徴的な話し方、女であれば誰でも誘われてしまいそうな雰囲気を持つ男だった。

「間違ってはいないな。確かに我々はアムリアを東国に迎え入れる為に来たが、もう一つ意味がある」

「何……?」

「遥か昔、遡る事千年以上前に存在した神々の歴史を蘇らせる為に」

 男は静かにこちらとの距離を縮め、続けた。

「世界の大陸には各々神がいる。東西南北例外なく、人々は皆自然神、つまり精霊の神を崇めて結束してきた。ところが今はどうだ? 世界から精霊は消え始め何処も劣化が進んでいる。それは人の所為であると説いた者も居たが、我々はそうは思わない」

 気付くと深紅の男は目の前に来ていた。
 咄嗟に剣に手をやるが、相手は依然余裕の笑みだった。

「我々は、遠い昔に強大な力を持ちながらも無責任に放棄したのは神自身だと考えている。精霊など当に尽きた東国ではな、最早神の奇跡を待つものなど居らぬのだよ」

「力を放棄した……? 何を、言ってる」

「古の伝承はいくつかある。そのどれも同じところなどありはしないが、共通する部分は幾らかあった。例えば人と精霊の睦まじき様子や契約の法以前の自然社会等、理想論ばかりを述べているとしか思えなかったがな」

 馬鹿馬鹿しいと、男は僅かに顔を歪ませた。結局伝承などそう役には立たないものなのだと呟いて。

「伝承は、偽り……だから?」

 吐いて出た言葉は、前にクリスと話した時のものだった。
 綺麗ごとを並べる伝承は単なる神話でしかなく、真実は未だ人の社会に現れていない。それが誰の手による虚示行為なのかは……考えずとも分かるだろう。

「なるほど、そうかもな。移り変わりの速い人間たちの中に新しく造りかえられた伝説や神話を浸透させることなど容易いだろう」

 意外に柔軟で勘の良いこの男が、実は敵であった事を思い出した途端恐怖を感じた。
 男の動作からして武道に通じているのは間違いない。加えて賢さを持ち合わせているなら、私では相手にならないだろう。

「ああ、長く話し過ぎたな。そろそろ止めにしようか」

 男に睨まれたナティアは、一切身動き取れずに立ち尽くしていた。



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あきゅろす。
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