古の精霊14
コウは途端に悲しくなった。人間は何時の時代もそうなのか。何かを支配していないと生きていけない生き物なのか。何て愚かな、何て弱い生き物なのだろう。私達、人間は……。
端で様子を見ていた男は、硬直状態に退屈し、そこから目をそらした。不意に視界に入ってきた、怯える少女・ナティアに気付き、本来の目的を思い出した。男は一直線にナティアに向かっていく。
それに気付いたコウは、一瞬獣から目をそらす。だがそれが戦闘の始まりの合図となった。
「ガァァァァッ!!」
獣はコウに向かって走り出す。男に気を取られていたコウは、次の行動に戸惑ってしまった。
その一瞬の隙を見逃さず、獣は鋭い爪でコウに切りかかる。その攻撃を必死の思いで受けるが、鞘に絡まった獣の爪を払うことが出来ない。
コウは獣の力に押されていた。
その間に男はナティアの元へ行き、無造作に腕を引っ張り挙げた。
「いたぁっ!」
「さぁ、姫。我々と来い」
「でもっ……!」
「……君は力が欲しくはないのか?」
男のその言葉に、ナティアは反応した。それを逃さなかった男は、「力が欲しいなら我々と来い」と耳元で囁く。悪魔の囁きに抗えないナティアは、大人しく男の言うことを聞いてしまった。
「待て! ナティアを置いていけ!」
「見苦しいな、小僧……お前に出来ることなど何も無いのだ、儚く散れっ!」
東国の男は高らかに笑う。まるで最頂から下者を見下すかのように。
「さぁ姫、君のアムリアの力で古の精霊を目覚めさせようぞ」
「ナティア! 聞いちゃ駄目だ! 戻れ!」
この男の声には不思議と洗脳する力がある。それをコウは気づいていたが、彼女をどうする事も出来なかった。ナティアはただ俯いたままで。
「ごめんなさい……カイル」
苦しそうに応えるナティアは、もう今までの威勢のいい彼女ではなかった。行かせたくはなかったが、コウは獣の毒牙から抜け出せない。ただ男とナティアが去っていくのを見ていることしか出来なかった。
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