月が音を奏でる夜 006 蘭丸Side 【スターダスト・エクスプレス】と書かれたCD。 このタイトルの曲は、見た事も聴いた事がなかった。 と、言う事は未発表曲で、もしかしたら、奏音の処女作かも知れない。 期待に胸を膨らませながら、曲をかけた。 耳に届く音。 その音だけで、肌が粟立つ。 ゾクッ、とした“何か”が背筋を走る。 視界に映るのは、やはり、あの不可思議な現象だった。 銀河の中にあるプラットホーム、そこに静かに止まっている汽車。 そして、そのプラットホームにいる自分自身。 もし、先に奏音が歌うと起こる現象を知らなければ、流石の蘭丸も慌てただろう。 歌詞を視線で追いながら、蘭丸は試聴する。 […凄ぇな] 純粋にそう感じた。 歌っているのは…声を入れているのは奏音だろうか。 ちら、と横目で奏音の様子を見れば、哀しげに目を伏せている。 きっと、この曲であの不可思議な現象は、デジタル化しても現れる事が判ったのだろう。 そして、毒を吐かれたに違いない。 [―――――…バカな奴らだ。だが、感謝してやる] 提供される筈だったアーティストが歌わなかったからこそ、眠り続けるこの楽曲。 この楽曲の良さが判らないなら、どんな曲を歌っても無意味。 [絶対にオレが世に出す。眠らせてたまるか!] 今の蘭丸ではこのスターダスト・エクスプレスは歌えないのは、判っていた。 表現力や歌唱力、何から何まで足りないのが手に取る様に判る。 けれど、レッスンすれば、この曲を歌えるようになるだろう。 だがもし、個人で歌えないなら、ユニットであるQUARTET NIGHTで出せば良い。 メンバーに反対なんてさせない。 だからこそ、『この曲、オレにくれよ』と言えたのだ。 その言葉を言った瞬間、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をした奏音を見て、笑いが込み上げ、つい笑ってしまった。 やはり、オレの予想は正しかった。 [このスターダスト・エクスプレスは、オレの代表曲にしてやる] 奏音の曲に毒を吐いたソイツらを見返してやる。 そう密かに思った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |