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月が音を奏でる夜
007
今、この人は何を言ったのだろう。
奏音の頭の中が真っ白になった。

『…この曲、オレにくれよ』

確かにそう言った……よね?
あんな、不気味で不可思議な現象が起こると言うのに。

――――…期待するな。どうせ、裏切る。

頭の中で、声がする。

――――…この曲は、誰も歌えやしない。現にソイツは、何もかも足りないだろう?惨めになるのは、お前だよ?

あんな暴言を吐かれてから、アーティストに対し、曲を提供するのを止め、音だけの勝負に出ていた。
そのままで、誰にも聴かせる事なく、眠り続けるこのスターダスト・エクスプレス。

―――――……諦めろ。

頭の中の声に、頷きそうになる。
けれど、満月の夜にだけ歌う時、彼は側に居て、何も言わず、ただただ、歌を聴いてくれていた。
もしかしたら、彼なら歌ってくれるかも知れない。
この音達の世界に、彩りを与えてくれるかも知れない。

「―――――……判った。良いよ」

口から出た言葉。
ふ、と視線を上げてみれば、彼は嬉しそうに笑っていて。
ドキッ、と胸が鳴る。

「時間かかるかも知れねぇが、絶対、世に出してやるから、愉しみにしてろよ?」
「!」

願っていた言葉。
奏音が欲しい、と思った言葉を綴ってくれる彼が、その思いがとても嬉しくて。

「お、おい。どうした?」
「え?」

蘭丸が慌てた様に奏音を見る。
頬に指を這わせてみれば、指先が濡れる。
どうやら、泣いてしまったようだ。

「な、な…違…ッ、やだ、止まらな……、違うの…ッ、どうしよ…ッ、やだ…ッ」

わたわた、と慌てて、頬を拭うものの、涙は止まってくれなくて。
すると、ぽふ、と頭に大きな掌が乗せられ、がしがし、と撫でられる。
そして、優しく抱きしめられる。

「……こうしててやるから。泣きたきゃ、泣け」
「!」

ぽんぽん、と子供をあやす様に、優しく頭を撫で続ける。
その優しさが暖かくて、痛くて。
余計に涙が止まらない。
泣きたい訳じゃない、悲しい訳じゃない。
振り払える筈なのに、振り払えない。
奏音は、ただただ静かに泣くしか出来なかった。

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あきゅろす。
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