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月が音を奏でる夜
005
[がっつき過ぎたか…?]

幾らCMで流れているとは言えど、ほんの一瞬しか聴く事が出来ない奏音が作った曲。
何時かは歌う時が来るかも知れないが、歌わないかも知れない。
それまで、待つ事など出来やしないのだ。
聴ける曲なら、今すぐにでも聴きたい。
困った表情のままの奏音は、小さく溜息を吐くと、徐ろにクローゼットを開け、何やらガサゴソ、と中を漁り始める。
目当ての物が見つかったのか、ポータブルCDプレイヤーと共に、1枚のCDを蘭丸に差し出した。

「昔に作った奴。聴いて貰えるの、コレしかないな」
「…良いのか?」
「良いよ」

そのCDのラベルには『スターダスト・エクスプレス』とタイトルがつけられている。
かぱ、とケースを開いてみれば、キレイに折り畳まれた紙。
開いて見れば、歌詞が書かれていて。
【作詞 ツクヨ】、【作曲 スイミー】とあった。
あの、ゴールデンコンビが手掛けた曲である。
どんな曲なのか、期待に胸を膨らませながら、ヘッドホンを装着して、曲をかけた。
そんな蘭丸の様子をドキドキしながら、見つめるのは奏音である。
スイミーの曲は、基本はBGM。
声は入れない。
何故なら、声を入れると、音が声を飲み込んでしまう時があるからだ。
様々なアーティストから、作曲の依頼が来るが、以前、ちょっとした出来事があった。
それが奏音の中でトラウマとなり、アーティストへの曲提供を控えていた。
ただ、企業からのCMタイアップは断れない。
断ってしまえば、死活問題に繋がるからだ。
それだけは避けなくてはならない。
けれど、今、自分は何をした?

『お前の曲聴かせろよ』

そう言われ、何を渡した?
どうせ、彼もあの人達の様に、言うに決まってる。

『こんな不気味な曲なんざ歌えるか!』
『呪われた曲だ!』

あの時に知った。
あの不可思議な現象は、アカペラで歌った時だけだろう、と、思っていた。
だが、それは違ったのだ。
デジタル化されても、不可思議な現象は起こる、と言う事に。
哀しげに目を伏せた瞬間、曲が終わったのか、蘭丸がヘッドホンを外した。

「…なぁ」
「…何…?」
「……この曲、オレにくれよ」
「へ?」

ぱちくり、と目を丸くして、蘭丸を見つめた。
そんな奏音を見て、くつくつ、と笑う蘭丸だった。

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あきゅろす。
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