月が音を奏でる夜 003 奏音の手料理は―――――……予想を反して旨かった。 本人曰く、母親から厳しく鍛えられたらしい。 出汁も、昆布や鰹節からとっている事には驚いたが。 カチャカチャ、と食器を片付けている奏音を見て、家庭的な部分があるんだな、と意外な一面を知った。 そして、奏音がそばアレルギーである事も知った。 そばはアレルギーが発症すると、重篤化しやすい食材。 奏音の場合は、かなり酷いらしく、和食専門の店には絶対に入られないと言うのだ。 それは、そばの成分が空中に舞い、それを吸い込む事で、蕁麻疹が発症してしまう為、そばを取り扱う店の前を通り過ぎる際は、息を止め、足早に通り過ぎる。 そうしないと、アナフィラキシーショックを引き起こし、奏音は生命の危機に晒される、と言う。 だから、あざみ達が引っ越しして来てもそばが食卓に並ばなかったのだ。 勿論、事務所には報告しているとの言葉にほっ、とした。 また、奏音の荷物が少ないのは、大型の荷物は、他のメンバーの分と便乗して先に送っていた事が判った。 その方が、自分の時になった時、楽が出来る、と言う判断らしい。 「あ、デザート食べる?」 「……ん?」 「さっき、アイスクリームも買ったんだ。バニラとクッキーチップ、どっちが良い?」 「……バニラ」 「ん。用意するね」 パタパタ、と動く奏音を見て、 [マンチカン……] と思ったのは言うまでもない。 ☆★☆★☆ デザートも完食し、空腹が満たされた蘭丸。 ふわぁ……と、欠伸が1つ溢れる。 「寝るなら、ベッド使いなよ?構わないから」 「ん…?」 「眠そうにしてる。ボクの事は気にしなくて良いから、少し寝なよ?」 「ん……」 他人の部屋だから、寝てはいけない、とは思うが、人間の3大欲求である睡眠に勝てる筈も無く。 ガタリ、と席を立つと、奏音の言葉に促される様にフラフラ…、とベッドに近付き、そのまま横になった。 自然と瞼が降りる。 [居心地が良すぎるのが悪い] そう悪態をつきながら、深い眠りに落ちていった。 そんな蘭丸の一部始終を見守った奏音は、柔らかく微笑むと、クローゼットの中からタオルケットを取り出すと、蘭丸に掛ける。 「おやすみなさい」 そう小さく告げて、奏音はノートパソコンとにらめっこを始めた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |