月が音を奏でる夜
004
蘭丸のお昼寝タイムから数時間後――……。
ふる…っ、と蘭丸の瞼が震え、ゆっくりと目が開かれる。
ぱちぱち、と、何度か瞬きする。
[確か……奏音の部屋に居た…筈]
見覚えのない部屋。
シーツの感触が何時もと違う。
次第に意識が覚醒し始め、ガバッ、と勢い良く起き上がる。
「あー……やっちまった…」
「あ、おはよー」
声がした方に視線を向ければ、マグカップ片手に、奏音がメガネを掛けた姿で現れる。
[メガネ……掛けてたのか…?]
ふぃ、と奏音から視線を反らす。
すると、テーブルの上にあるタブレットに目が留まる。
どうやら、何かしら作業をしていたらしい。
奏音が掛けているのは、ブルーライトカットのメガネなのだろう。
「悪い…」
「気にしてないから大丈夫。こっちこそ、ごめんね。疲れてるのに……」
「いや、違ぇ」
なんと言えば良いだろうか。
いくら何でも、バカげている。
食欲が満たされたから、と言って、他人の部屋のベッドを借りて寝るなんて、あり得ない。
自分の部屋で寝れば良いのに……、蘭丸の完全なる失態、である。
けれど、奏音は蘭丸が寝入った事自体気にしてない様で。
「お茶、飲む?」
こてり、と小首を傾げて聞いて来る。
「……あぁ」
「ちょっと待ってて」
ぱたぱた、とキッチンに向かう奏音を見て、小さく溜息を吐く。
[……少しは気にしろ]
全く気にも留めていない様子に、“男”として見られていないと言う事が窺えた。
ちく、と胸に棘が刺さる。
「はい、お茶」
「…あ、サンキュ」
キッチンから出て来た奏音から、マグカップを受け取る。
ほんのり温かいお茶に、小さく吐息を漏らす。
「…曲、作ってたのか?」
「あ、違う違う。企業からの依頼の確認だよ」
「メールで来るのか?」
「うん。スイミーと会うのは、楽曲が出来てからだからね」
「打ち合わせ、は?」
「ないね。ネットで調べれば、商品の大まかな事は判るし、インスピレーションを大事にしたいし」
どうやら、商品のコンセプトやキャッチコピーなどを知ってから、曲を作るようだ。
「性能とかを知っても、使わなければ意味無いしね。だから、打ち合わせはしないんだよ」
「へぇ…」
「でも、その内…」
「ん?」
「ボクの楽曲、歌ってもらうかもね」
その言葉に、思考が止まった。
歌う?
スイミーが……、奏音が作った曲を?オレが?
ゾクッ、とした何かが背筋を走った。
「なぁ……」
「何?」
「お前が作った曲、聴かせろよ」
「…別に大した曲じゃないよ?」
「…よく言うぜ」
苦笑いを浮かべた蘭丸に、奏音は困った様に眉を下げた。
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