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月が音を奏でる夜
002
「助かったよ、ありがとね」
「大した事してねぇよ」

あらかたの荷物が片付けられ、奏音は満足気に微笑む。
そして、キッチンに向かうと、冷蔵庫を開けてみる。
中は空っぽなのは当たり前で。

「…すっからかん」

ポツリ、と呟く。

「どうした?」
「あー…ごはんの材料買いに行かないと…冷蔵庫空っぽ」
「付き合ってやろうか?」

蘭丸の言葉に、きょとり、と瞳を丸くする。

「でも、お仕事…」
「今日は、オフだから時間あるから、気にすんな」
「…じゃあ、お願いしようかな」

ふわり、と笑うその表情に、ドキリ、と胸が鳴る。
この音が何を示しているのか、判っていた。

[認める、しかねぇか…]

もう2度とあんな思いはしたくなくて、一匹狼で居続けた。
裏切られるぐらいなら、人を寄せ付けなければ良い。
コイツも裏切るのだから―――――――…そう思った。
けれど、コイツはスルリ、と心の隙間を縫って入り込んで来た。
奏音が笑えば、自然と頬が緩む。
奏音が悲しそうにしていれば、何とかしてやりたい。

[ガラじゃねぇな]

等と思いながら、奏音と一緒に買い物へと向かった。



☆★☆★☆




寮の地下にあるスーパー。
何せシャイニング事務所のアイドル達は、早乙女学園の卒業式オーディションで、新人アイドルとして華々しくデビューを飾っている。
その新人アイドル達をスキャンダルから守る為か、寮の地下にスーパーが設けられていた。

「…んーと、卵にパン粉と小麦粉と片栗粉…お米にお味噌…だし昆布と、鰹節…あとは、あら引き肉と野菜野菜……っと」
「何を作んだ?」
「ハンバーグだよ。良かったらさ…あの、一緒に食べない?」
「良いのか?」
「うん。手伝って貰ったり、案内してくれたお礼も兼ねて、ごちそうするよ」

奏音の言葉を聞いて、蘭丸の瞳が輝いた瞬間だった。
誰かの手料理、など何年ぶりだろうか。
デビューを夢見て、上京してきて以来だから、もう早3年近く食べていない。
ましてや、奏音の手料理である。
喜びの方が大きい。

「ほら、カゴ貸せよ」
「良いよ、重いし」
「だから、だろ」

強引に奏音からカゴを奪うと、必要な物を入れていったのであった。


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あきゅろす。
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