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敵、敵、敵、―――味方?


 周りの言うことなんて気にしない。なんと言われようが、これが俺の生き方だから。




 俺を見てさらに遠ざかる人たち。嫌悪感丸出しの顔で投げ掛けられる視線を、前だけに集中することで完全に無視してやった。初めは陰口や視線に耐えられず、帰宅することが多かったが、今はもうこの環境に慣れた。

 いつからか居なくなったかつての友人たちにも、また仲間に入れて欲しいなんて気持ちはこれっぽっちも抱かなかった。あんなやつらはもう友人なんて言わない。言いたくないし。離れたいなら離れればいい。悪口なり噂なりなんとでもすればいい。俺はこんなことで狼狽えたりしない。


「よぉ〜!今日も男探しに登校かぁ〜?にひひっ」

 耳障りな声。何かと俺に絡んでくる欝陶しい奴だ。だらしなく制服を着くずして、ピアス(軟骨2個・耳たぶ2個)に髑髏の指輪に十字架のネックレス。格好良いと思ってるのか知らないが、周囲からすればお前だって俺と同じ奇人扱いだ。と、声には出さず、密かに毒づく。こいつにはいつも無視を決め込んでいる。逆に何か一言でも返せば教室までねちねちと小言を言われるのがオチだ。

「おーい、無視〜?いーっつも俺ン事無視るよね〜?何か返して欲しーな〜。なんなら、ホモ話を聞かせてくれてもいいけどォ〜?」

 にひひっと笑いながら、からかってくるこいつに無償に腹が立ったが、教室まで後少しだ。コイツはいつも教室付近までは付いてくるのだが、教室に着くとすぐに諦めて帰る。だからもう少し、もう少し。

 ガラッ

 よし。これでもう平和だ。と、後ろ手に勢い良くドアを閉めようとしたその時、ガッと誰かに阻まれた。でも俺は振り替えって確認することさえ面倒に思い、そのまま自分の机に向かってスタスタ歩く。

 どうせ後ろの奴が入りたくて止めただけだろう。そう思いながら席に着いた。出されていた宿題を片付けようと、机にノートと教科書を広げた瞬間、前の椅子が引かれ、「よいしょっと」と誰かが座った。それも背もたれを抱えるように俺の方を向いて。

「まだ無視すんの〜?」

「!?な、」

 驚きを隠せず、やっと口をついて出た言葉は「な」という一文字。“なんで”と言いたかったのだ。それにしても、よく考えれば真後ろまで近づいて来る奴なんてコイツしかいないじゃないか。でも、どうして今日はまだ居るんだ?

「なんでって、オレ前からアンタに興味あったんだよねー。それに暇だしよー、学校とかァ」

 俺の言葉足らずの返答に、ちゃんとした答えを返してきたコイツの所為で俺が今どれだけ訝しげな顔をしているのかがよ〜くわかった。

「知らない、そんなの。早く教室へ帰れ」

「堅ェーこと言うなよ!オレいっつも授業受けてねェーし」

「…なら何処か別の所へ行けよ。とにかく俺の前から消えろ」

「無理ー。オレ今日はアンタに付きまとうって決めたからァ」

――なんてこった…。こいつがこんなアクションを起こしてくるなんて予想してなかった…。




 こんな日に限って前の席の奴は風邪を引いたらしい。だからコイツがそこに座ってても誰にも迷惑が掛からなくて―――俺以外は。先生も何ビビってるのか知らないけど、軽く注意しただけでその後からはなるべくコイツに触れないようにしていた。

――教師がそんなんでどーすんだよ…。
 と、相変わらず出来た溝が無くならない眉根を更に深くさせ、小さく息を吐いた。前方には近すぎる距離に顔がある。何を考えているのやら。口端を上げたままずっと凝視してくる。

「居心地悪い」




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