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Andante
2


俺はソワソワして錬が戻ってくるのを待った。
一体何の話をしているんだろうか。
というか会長を、客人を、玄関で立ち話をさせてもいいのだろうか。
中に入るよう声をかけるべきか悩んでいる内に、錬はかなりご機嫌な様子で部屋に戻ってきた。


「会長、なんの要件だった?」

「部活の予定教えてくれた。相葉ってサッカー部だったんだなー」

「えっ」

「え?」


サッカー少年は会長じゃない……?
なら会長とはどういう繋がりだ……?

詰め寄りたいところだが何とか抑えて何でもない、と首を振る。


「あの人はキャプテンだぞ」


そう教えてやると錬はおおーっ、と顔を輝かせた。
その様子に思わず眉をしかめる。
何もわかっていないのだろう錬に危機感は皆無だ。


「同じ部活だとしても会長に近づくのは避けたかったな」

「慧は会長も嫌いなのか?」

「嫌いとかじゃねえよ!!」


苦笑いの表情を浮かべた錬に思わず顔が赤くなるのを感じた。
俺が親衛隊を毛嫌いしているのは錬も理解したようだが、それにだってちゃんと理由はある。
そもそも俺がそんな子供みたいな事言い出す様に見えるのか!?


「あいつはただでさえ見てくれがいいのにサッカーも勉強も優秀なんだ。
その上生徒会長で親衛隊がいないわけないだろ」


優秀な人間の側には常に人目が張っている。
親衛隊という名の、妬みで動くハイエナ。
一歩間違えれば錬は確実に狩られるだろう。
ただでさえ錬はうちの事情に明るくないからその危険性は一際高い。

注意を促す俺の隣では、錬が苦いものを噛み下したような顔をしている。
錬はいつも俺の忠告を過保護だと受けとってあまり気に留めていない。


「同じ部活だから、なんて理由で交友を承認してくれるなら俺だってこんな事言わない」


言葉を続ける俺に錬はしゅんとうなだれ。
瞳に陰が落ち、さっきのはしゃぎ様が嘘のように塞ぎこむ。


「……この学校が変だって事はわかってるよ。
でも、そんな風にあいつは駄目、こいつは駄目って避けていくのは……」


ぽつり、ぽつりと錬が声を紡いだ。
錬の言っている事は理解できる。
それでも、俺はその考えを寛容することは出来なかった。


「出る杭は打たれる。
会長と仲良くなれば、あいつらは間違いなく動く」


はっきり言い捨てた俺を、錬が恨みがましく睨む。

どうしてわからないんだ。

俺も錬も、そんな気持ちでお互いを見ていた。

錬の視線が痛くて、だけど逸らしてはならないと思った。
錬を守るためにも、ここで根負けしてはいけない。

会長との距離がいずれ錬の首を締めるだろう事は知れているのだ。
何も知らずに来た錬を、学園の洗礼に会わせてはならない。

……絶対に、あいつの二の舞にするわけにはいかない。


俺は決心を新たにし、重たい口を開いた。


「…………サッカー部の奴らは暗黙の了解で会長とあんまり親しくしない。
部員は全員、親衛隊の干渉を受けている」


錬が何かを堪える様に顔を歪めた。
何か言いたげに口を開くのを制し、俺は言葉を続ける。


「俺はまだセーフでも、会長は決定打になる」

「……やっぱりいるんだ、親衛隊」


静かな声は、何となく俺を責めているように感じた。


「……断ったから表向きはいない。でも実際は自分達の好きに動いてた」


そんなこと言い訳にもならない。
会長に近寄るなと言うなら、まずは俺が錬から離れるべきだ。

頭ではわかっていて、けれど言い出せなかった。
俺は卑怯だ。
いっそ錬から言ってくれればいい。
そんなことを思ってしまうなんて。


「……ねえ慧」


口を閉じて俯いた俺に、錬が静かに呼びかける。


「俺達は友達だよね……?」


確認する様に尋ねてくる錬に、俺は返事に詰まった。
そんな俺の様子に、錬はぎこちなく笑って見せる。


「俺、もし誰かに慧に近づくなって怒られても、慧が友達だって言ってくれるなら怖くないよ」

「錬……」

「俺が怖いのは、俺が虐められないようにって……。
慧が、俺のこと友達じゃないって言うんじゃないかって、そっちのがよっぽど怖い……!」


錬はそう言って、茫然と佇む俺に答えをせがんだ。


「ねえ、教えてよ。
俺と慧は友達でいれる……?」


錬の手を、俺はとってもいいのだろうか。
絶対いつか、錬は傷つく。
その時、錬は後悔しなくても、きっと俺は……。


「……友達だって思ってなかったら、こんなに長々説教垂れねえよ」


俺はこの選択を、いつか後悔するだろうか。

優しい錬をこの学校のおかしなルールに巻き込んだことを悔やむ日が、いつか。


「慧の説教はほんと効くな」


錬は湿っぽい空気を吹き飛ばすように、何時ものように笑って見せる。
打算なんてなさそうな、どこまでも素直な笑顔。

こんな風に錬が笑ってくれるなら。隣にいてくれるなら。

俺はこの手を取りたいと、そう思った。




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